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特殊殲滅官『お肉仮面』#第二回お肉仮面文芸祭

"PULP" FICTION -- TAKE 1, ACTION!!

🥩🥩🥩

 2021年。
 感染症の猛威から息を吹き返したように光り輝く都会。仕事に追われるオフィスビルの光であれ、仕事から逃れる飲み屋街の光であれ、一様にキラキラと贅沢感を演出している。
 デートにピッタリな夜景をバックに、2人の男が話していた。1人は、黒ジャケットを身に纏い、下にはきっちりスーツを着る堅物の男。煙草を蒸かす彼は、国家と繋がりの深いとある財団組織に所属するエージェント、コードネーム『電楽サロン』だ。
 そしてもう1人。
 ワインレッドのシャツの上に黒いコートを羽織り、黒いスラックスを履き。
 生肉の仮面を被った、異様な男。
 コードネームは安直かつ率直に、『お肉仮面』という。
 そんな彼に向かって、『電楽サロン』は白い息の混じった煙草の煙を吐きながら尋ねる。
「……お前、その格好寒くないのか?」
「生肉には丁度良い気温だよ。知らねえのか? 俺の故郷のこと」
「こんな寒いのが平気なんて、何だ、雪国出身なのか?」
「いや、違うけど」
「ブッ飛ばすぞ」
 そんな他愛の無さすぎる会話に、『電楽サロン』はハッ、と笑いながら本題に戻る。
「まあ、良いけどよ。それよりだ、『お肉仮面』――」
「どうせ仕事の依頼だろ? 斡旋屋トランスポーターの『電楽サロン』さんよ」
「その通りだぜ、特殊殲滅官グラウンダーの『お肉仮面』さん」
 いつもの会話を交わしてから、『電楽サロン』は紫煙で肺を満たし、寒い外気に吐き散らす。
 それから、ゆっくりと仕事内容を告げた。
「目標座標はA29。お前の仕事はただ一つ。見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ見敵必殺サーチ・アンド・デストロイだ。一片の肉塊も後悔も、一滴の血液も辟易もなく、全て滅ぼし尽くすことだけだ」
「……ここは、『御意Ja我が主人my master』とでも答えるべきか?」
「好きにしろ。どう答えてもお前のやることは変わらないからな」
「それもそうだ――なら答えるぜ」
 『お肉仮面』は、ラフな仁王立ちをしたまま、答えた。

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「――分かったぜJa俺の相棒my buddy
 『お肉仮面』は背を向け、ガラスの壁に一跳びで乗る。それから、『電楽サロン』に向かってもう一言告げた。
「甘い物でも用意して待っててくれ」
 そして、地上5階の高さを、生身の体で降りて行った。
 見届けた『電楽サロン』は、煙草を一吸い。こう小さく短く呟いて、その場を後にした。
「――頼んだぜ、相棒」

🥩🥩🥩

「ごめんなさいいいいっ!! 許、許してくれえええっ!!」
「アァ!? テメェオレ達の餌場テリトリーを荒らしといて今更命乞いかァ!? 危機感が足りねえんじゃねえの――かッ!?」
「ごぼぁ……っ!!」
 某所。
 潮風が吹き荒ぶ、コンテナが平積みにされた場所で、1人の男が複数人に寄ってたかってリンチを受けていた。さっきの奇声は、鳩尾を蹴られて搾り出されたものだ。
 見かけないだけで都会にはよくある光景。知ってか知らずかヤクザ共の領地に踏み入って好きに行動すれば、報復を受けるのは必定であった。
「ゆ、るじ……」
「そうかそうか、許して欲しいか」
 ヤクザの内1人は、倒れ伏して血を吐く男の元にしゃがみ込んで優しい声をかける。一縷の望みにかけて、蜘蛛の糸を掴むように勢いよく首を縦に振る。
 それに対するヤクザの答えは。
「なら、このドラム缶に詰められて海に沈めば許してやるよ」
 至極当然、死刑宣告であった。
 男は絶望に満ちた目で見上げる。そんな視線を見てヤクザ共は下卑た嗤いを上げた。ヤクザ共からすれば、これはそういう娯楽なのだ――希望をちらつかせて絶望を叩きつける、そういう遊び。
 ドラム缶をゴロゴロと転がして来るヤクザ。男は今度は勢いよく首を横に振る。だが、時既に遅し。都会は常に弱肉強食。都合よく助けに来る者など――。

「よう、盛り上がっている所悪いな」

 ――いた。
 突如響いた声に、ヤクザは全員視線を向ける。
 そこに立っていたのは、ラフな格好をしたただの男だ――但し、生肉の仮面を被っていることを除いて。
 あまりに滑稽なヒーローの登場に、ヤクザ達は笑い声を大きくする。
「ぎゃ、ぎゃはははははっ!! おいおいおいおい、こりゃ何の余興だよ! 生肉仮面なんて、お粗末にも程があるぜ!? いひゃははははっははは!!」
 文字通り抱腹絶倒するヤクザを見て、生肉仮面もとい『お肉仮面』は、後頭部をぽりぽりと掻く。
「あー、何だ。この姿でウケてくれんのは有難いけどよ。ちょいと真面目に話聞いてくんねえかな」
「え、ぎゃは、ああはいはい、そんで、お前の最期の遺言とやら、聞いてやろうか? ええ?」
 完全に馬鹿にしながらも、『お肉仮面』を始末する気満々なヤクザ。
 そんな彼らに、『お肉仮面』は答える。
「今すぐ、そいつを置いて逃げてくれねえかな?」
「き、キターーー!! 何だよ、そのアニメイションにありがちな言葉はよォ!? だっせえ仮面を被ってヒーロー気取りになってる中二病かァ!?」
 ヤクザのテンションはデッドヒートに達した。暴力と『お肉仮面』というふざけた存在によって変に高調してしまった彼らは、もう何を言っても笑ってしまいそうだった。
 爆笑中の彼らに対し、『お肉仮面』は言い放った。


「いや、んだがな」

「……あ?」
 ヤクザは『お肉仮面』のぶん投げた爆弾発言に、笑いを急激に引っ込めた。さっきまで、男を助けるような口調だったのに、何故急に「死んだとしてもどうでもいい」などと言い切ったのだろうか。
 得体の知れない気持ち悪さがヤクザ達の心の中で這い上がる。
「お前、何言ってんだ?」
「言っただろう? 俺は『そいつを置いて逃げてくれ』って。日本語分かるかDo you understand? それともアレか? 俺がその男を助けるとでも思ったのか?」
「そうじゃなきゃ何だってんだよ!」
 訳が分からない――意味不明に対してヤクザが露発したのは怒りだった。
 『お肉仮面』はそのヤクザの怒りに動じずに、淡々と答えた。

 血反吐塗れで突っ伏している男を見ながら。


「俺はな、。だから、お前ら社会の屑ヤクザは逃げろって警告してんだよ」
「……あ?」
 ヤクザ共は、今度こそ思考停止になった。日本語であるのに日本語として意味を介せなくなったのだ。
 その隙が、彼らの運の尽きであり、生命の尽きでもあった――ヤクザ共の腹から、触手が突き出てきたのである。
「が、ぎゃ」
 触手はヤクザの背中から骨も内臓も貫通している。先端からは生々しい血がぽたぽた垂れる。
 ぬらりと血に濡れた触手の元を辿ると、さっきまでヤクザにやられていた男が立っていた。
 彼は最早人間ではなかった――背中から十数本の触手を生やし、鞭の様に振るっている。その内5本がそれぞれ1人ずつヤクザに刺さっていた。ヤクザはもう虫の息である。助かる見込みは皆無だ。
「……あーあー。何だ貴様は、邪魔しおって」
「俺か? 俺は『お肉仮面』。お前を殲滅しに来た正義のヒーローってとこだ」
「ふざけたネーミングセンスだな」
「そりゃどうも。褒め言葉として受け取ってやるよ」
 『お肉仮面』は余裕綽々に目の前の化け物に対峙する。仮面の底で薄ら笑っていることすら感じさせる穏やかさだった。
「で、どうすんだよ? 我を殺すのか?」
 それでも嘲笑うように化け物が尋ねる。対する『お肉仮面』も声色1つ変えずに応じた。
「モチのロンだ。爪先から天辺まで、お前の全てを滅殺しに、ここへやって来たのだからな」
「……我が、貴様のようなふざけた児戯をする奴に負けるとでも?」
「どうだろうな? 俺は、強いぜ」
 『お肉仮面』がそう自信満々に言った。
 次の瞬間、側面から強烈な触手の一撃。首の骨を折らんとする勢いで、頬を叩いた。その勢いのまま体ごとコンテナへと飛んでいき、轟音を鳴らしながら鉄の箱を凹ませた。
「余裕ぶる奴ほど弱いという相場を知らんのか、此奴は」
 化け物は、くつくつと笑う。
 それから死にかけのヤクザを、触手で刺して持ち上げる。料理をフォークで突き刺すように。
「……あ、やめ……」
「嗚呼。善い。善いぞ」
 酔いが回ったような恍惚とした表情で、化け物は絶望の顔に染まるヤクザを見つめる。
「助けて欲しいか?」
 ヤクザは、力無く首を縦に振る。瀕死の最中の反応をあっさり味わった後、化け物は告げた。
「では、我に喰われて死ね――そうすれば助けてやる」
 化け物――触手以外は人間の形を保っていたそれは、突如として形を変える。人間の体だった部分が全て触手が蠢いているような造形になる――ただの人間に見えるよう、擬態していたのだ。たった数秒で、男は触手の塊のような、完全なる異形になる。
 目の部分だけ虚な触手顔でヤクザを見つめた化け物は、口を大きく開けた。人間では不可能な、人間の頭丸々1つを呑み込める程の大口。小さな悲鳴を上げた憐れなヤクザは、そのまま頭を呑み込まれ、肉と骨を砕かれて喰われて死んだ。
 高級食品を味わう様に咀嚼し、10秒程して飲み込んだ。
「アァ――善い、善いぞ! やはり、人間の脳味噌程、美味なものは存在せぬわ!」
 ぎゃははははははは。
 場を制圧し、人間を蹂躙する。化け物の気分は最高に絶頂ハイになっていた。
 ――彼は、一部の人間に『界来種エイリアン』と呼ばれる存在。この宇宙世紀には存在し得ない異世界や並行世界から襲来した、超高度能力生命体である。
 ある時彼らはこの地球に侵略し、人間の住む社会を餌場として思う存分喰らう様になっていた。普段は人間に擬態して社会に溶け込み、隙をついて食事をするのだ。
 単純な力では、彼ら『界来種エイリアン』に敵う術などない。人間が正体を見破り、あまつさえ撃破するなど不可能に等しい。
 ――そう。

「――随分と楽しそうだなァ」

 単純な、力では。
 言い換えれば。
 界来種エイリアンに対抗できるほどの可能である、ということでもある。
「勝利の美食に浸るにはまだ早えぞ。味わいたければ俺の屍を越えていくんだな――越えられるものなら」
 『お肉仮面』の方は、人間の体を保ったままであった。
 だが、生肉の仮面であったものには脈動する管が浮かび、目の部分からは鋭い光が漏れている。そしてコンテナの、地面に垂直な面に、両手足だけで掴まっている。人間では考えられない凄まじい握力だった。
 界来種エイリアンはその豹変ぶりを見て、呟く。
「――嗚呼、『特殊殲滅官グラウンダー』か。忌々しくも愚劣の結晶。宿、化け物め!」
「勝手に来て勝手に荒らしてる害虫お前らが言うかよ」
 『お肉仮面』はコンテナを握る力を込める。鉄製であるにも拘らず握った部分がひしゃげ、今にも千切れそうだった。
「ただ餌にされる程、人間はお人好しじゃあねえんで――なッ!!」
 『お肉仮面』はコンテナを蹴り、その推進力で界来種エイリアンへ一飛びに向かう。蹴られたコンテナは揺らぎ、90度回転してまた倒れた。
「馬鹿が!」
 界来種エイリアンは触手を伸ばす。如何に『特殊殲滅官グラウンダー』と言えど、体は人間そのもの。破壊して了えばそれで終いだ。
 界来種エイリアンの触手の内1本が『お肉仮面』に襲いかかる。これだけでも通常の人間より脅威だ。
 だが。
「――お前がな」
 『お肉仮面』は、崩れない。
 何の気無しに、触手を片手で薙ぎ払うような動作をする。
 払われた触手は、綺麗に先端が千切られていた。
「……あ?」
 界来種エイリアンは、当惑した。
 が、その隙を見せたのは一瞬であり、すぐさま複数本の触手を伸ばす。だが、結果は同じ――いとも容易く触手は全て千切られていた。
(何だ、何なんだコイツは)
 しかも、千切られたところの触手が見つからない。
 ダラダラと血液に当たる青い体液を漏らしながら、界来種エイリアンは『お肉仮面』を見据える。

 コイツは、ただ握力で力任せに千切っているだけではない。
 まるで、――!

「気づいたか」
 『お肉仮面』は、青い血で染まった手を掲げる。
「そうだ――コレが俺の異能力だよ。恥ずかしくて自分で名前は付けてねえが、皆『喰荒しハンディーティング』って呼んでるよ。ま、中々イカすよな」
「……」
 相当に厄介な力だ、と界来種エイリアンは推察する。千切ることは単純だとしても、その後消えていることの説明が付かない。本人も付けていないし、もしかすると付けられないのかもしれない。
 『特殊殲滅官グラウンダー』とは、そういう人間達なのだ。力の実態を碌に押さえもせず、ただ界来種エイリアンを殺すために力を得る者も少なくないのだ。
 だから、推察するしかない。
 恐らくは、この『お肉仮面』の異能は、強靭な身体能力だけではない。
 千切った部分を強制的に消滅させる、或いは異空間に移動させるのだと――!
「さて、界来種エイリアン――閉塞おひらきの時間だぜ。骨を断たせず肉を断ってやるよ」
 『お肉仮面』は構える。界来種エイリアンも同じく。
「――死に晒せ、界来種エイリアン
「――貴様がな、特殊殲滅官グラウンダー
 やり取りを交わした後、『お肉仮面』が走る。先制攻撃とばかりに両腕を掲げたまま。
「馬鹿が!」
 界来種エイリアンは残る10余りの触手を伸ばす。それを、一方向ではなく、上下左右あらゆるところから伸ばす。全方位に向ければ対応できないと考えての攻撃だ。
「死ね、死んで早く餌になれ、人間!!」
「……良いね」
 『お肉仮面』はそう言うと。
 5階から降りても怪我一つない脚で地面を思い切り蹴り、体を前へ推進させる。
 人間離れした速度で、触手を全て切り裂きながら猛進する!
「なっ――!?」
 触手の雨を降らしながら超スピードで潜り抜ける『お肉仮面』に、界来種エイリアンは驚愕する。
 が、『お肉仮面』はそれに構わない。殺し合う同士の間に、対話など不要。

 見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ
 目にした敵は、ただ屠るだけ。

「喰らうぜ――お前のける体」

 ――悪食グロスイート
 両腕で対象の内臓までをも食い千切る、一撃必殺の絶技。界来種エイリアンは触手の体をクロス型に喰らわれ、四つ裂きにされる形となった。
「……が、あ」
 界来種エイリアンは呻き、恨めしく睨み、そして絶命した。
 周りには、ヤクザ達の死体も転がっている。どうやら全員助からなかったようだ。
「だから逃げろって言ったのによ……」
 まあ、ある意味にはなったか。
「俺は警告してたんだぜ……直ぐに逃げなかったお前らが悪い。この世の中は弱肉強食だからな」
 俺は弱い肉じゃないけれど。
 『お肉仮面』は悠長にもそんなことを考えながら、斡旋屋トランスポーター『電楽サロン』に電話をかける。
「終わったぞ」
『ご苦労様。その声色だと余裕だったみたいだな』
「冷たい反応だな、相棒」
『相棒と言うな。何だかくすぐったい』
「相棒〜!」
『ニヤニヤしながら言うな。やめろ、俺のことを弄るな。いいからとにかく戻ってこい。でないと、浄土屋謹製の高級銅鑼焼きは全部食っちまうからな』
「食ったら殺す」
『豹変してんじゃねえか。冗談だって――取り敢えず、早く戻って来いよ』
「分かった」
 『お肉仮面』はそれで通話を切り、鼻歌混じりに、死臭の漂う現場を後にした。

***

「……ちょっと話がある」
 リバーシブル財団。
 表向きは製薬メーカーを主軸に様々な企業へ出資をしながら世界平和を謳い、裏向きは政府の命により特殊殲滅官グラウンダーを製造、育成しながら界来種エイリアンを殺して世界平和を守る、文字通りのリバーシブルな財団だ。
 その財団の所有する某所の秘密拠点の一つに、溜息をつく『電楽サロン』と、幸せそうに机に置かれた沢山の銅鑼焼きを頬張る『お肉仮面』がいた。
「あんあお、ああいっえ」
「ちゃんと食べ物は飲み込んでから話せ」
「……っと、手厳しいねえ。お前は俺の母さんか?」
「目付け役ではあるな」
「違いない。それもとびきり有能な目付け役だぜ。こんなに美味い銅鑼焼きを用意してくれるんだもんなあ!」
「……話が逸れた」
「折角逸らしたのに……って睨むな。分かった、分かったよ。で、何だよ、話って」
 両手を上げて降参する素振りを見せながら『お肉仮面』が尋ねると、『電楽サロン』が答えた。
「今回も見事な仕事ぶりだったな」
「……なんだよ相棒、急に褒めやがって。気持ち悪いな」
「まあ、人の話は最後まで聞けって」
 『電楽サロン』の顔は、笑顔だった。
 この時点で既に嫌な予感がしていたが、『お肉仮面』に逃げるという選択肢は存在しない。
 逃げられる筈がない。
 この生肉仮面には――界来種エイリアンを原材料に作成した肉仮面には、強制服従の術式が組み込まれている。界来種エイリアンの未知の力により、生肉の元となった界来種エイリアンに呑み込まれてしまわないように、そして、呑み込まれても即座に『対処』ができるように。
 その仮面の制作者こそが、『電楽サロン』――リバーシブル財団の斡旋屋トランスポーターにして、界来種専門技術者エイリジニア。まさしく彼は、であるというわけだ。
 『電楽サロン』は、無邪気に銅鑼焼きを頬張る『お肉仮面』に向かって続ける。
「それでお前は、十分にその異形の仮面の力を使いこなすと財団長から認められた。早い話が、昇格だ」
 笑顔を続けながら言う彼に、『お肉仮面』は痺れを切らして尋ねた。
「まどろっこしいな。早く本題を告げろよ」
「……『怪拓者アンセスター』との戦闘命令が降った」
「……へえ」
 『お肉仮面』は仮面の下で口角を上げる。
怪拓者アンセスター――界来種エイリアン達の元締めにして、この世界を襲撃した最初の怪物共か」
「そうだ――やれるか?」
 『電楽サロン』が尋ねる。
 そう、のだ。
 それに『お肉仮面』はすかさず答えた。
「やれるか、だと? やってやるさ」
 『お肉仮面』が銅鑼焼きを無造作に噛みちぎった。
 それから勢いに任せて手を机に叩きつけた。机はいとも簡単に真っ二つになった。
「質問するな、尋ねるな。確認さえもするな。おい、『電楽サロン』――俺はそんな生半可な覚悟でこの生肉の仮面を付けてくれと頼んだんじゃねえんだ。残ったなけなしのもの、人間であった時のもの全部をドブに捨てて、異質な力を手にして、荊の道に足を踏み入れたんだ。お前も分かってる筈だろうが。それとも、強敵に向かう前に確認しなきゃならねえ程、俺は腑抜けて見えるのか?」
 射る様な視線を向ける『お肉仮面』。
 その視線にたじろぐではなく、『電楽サロン』は、ふう、と一息吐く。
「……いいや、悪かったよ。言い直す、言い直してやる――」
 そして、
 『お肉仮面』は、それにただ応えるだけだ。

「殺してやれ、『お肉仮面俺の相棒』」
「分かったぜ、『電楽サロン俺の相棒』」

🥩🥩🥩

 今日も、社会に紛れる界来種エイリアンを、闇夜に紛れて始末する者がいる。
 生肉の仮面を被った、甘いもの好きな怪物ヒーローも、その一人。彼はどこかで怪物の肉を喰らい、人知れず平和を守っている。

END?

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本作品はこちら↑の企画を元に生まれたものです。他の方の作品もぜひご覧下さい🥩

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