【経理勉強録】固定資産の減損会計。

※こちらのnoteは勉強がてら経理系の何かしらをまとめていくものです。私も後で読み返して、なんか間違っていたり付け加えたいことがあったらがんがん加筆修正していきますのでそのつもりでご覧下さい。
※文中の「※」は、脱線気味や細かい話をするときの注です。必要に応じてご覧下さい。

1:「資産」とは何か?

 固定資産の減損、ということはよく聞きますが、それを理解するためにはまず、「資産とは何か」に触れなくてはなりません。

 討議資料として開示された「財務会計の概念フレームワーク」(※1)では、以下のように定義されていますので、ここを出発点にしましょう。

資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう(2)(3)。《出典:企業会計基準委員会、討議資料「財務会計の概念フレームワーク」3章本文の4
ここでいう支配とは、所有権の有無にかかわらず、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態をいう。経済的資源とは、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい、実物財に限らず、金融資産及びそれらとの同等物を含む。経済資源は市場での処分可能性を有する
場合もあれば、そうでない場合もある。《出典:企業会計基準委員会、討議資料「財務会計の概念フレームワーク」3章本文の4の注2》 

 要するにこういうことです。
 企業は、日々様々な活動を行っています。例えば銀行からお金を借りたり株主からお金を集めたり(現金預金)、機械や土地、車等を購入したり(有形固定資産)、利鞘を得ることを目的に株式を購入したり(売買目的有価証券)、ソフトウェアを購入したり(無形固定資産等)、といった感じです。
 これらは全て、企業が儲けるために行っていることです。現金預金や固定資産を使って事業を回してより多くのお金を得たり、有価証券を、買った時より高いレートで売ってより多くのお金を得たり――ということです。
 このように、より多くの現金(キャッシュ)を得るために貢献するためのモノを、資産と呼んでいます(上のフレームワークの太字部分)。

 ということは、逆に言うとこうなります。

買った時より多い現金を得ることができないモノは、もう資産とは呼べない。言ってしまえばゴミである。

 これが、減損会計の根本的な考え方になります。

2:減損会計とは何か?

 つまり、減損会計とは、「ある資産について、買った時より多い現金を得ることが見込めない場合、その見込めない分は資産として認めないとして処理をする」会計となります。

 例えば、最近タピオカが流行ったので、その流れに乗るぞと思って、あなたは期首にタピオカをひたすら作ることができる機械を買ったとします。値段は1,500万円、耐用年数は15年(定額法、間接法で償却)とします。どれだけ売れるか試算したところ、仮に3,000万円売れるとしましょう(めちゃくちゃ少ない気はしますが、まあ、仮定なので……)。
 さて、1年目はかなり儲けました。500万円くらいです。流行りなだけあって流石だな、と思いながら2年目に突入します。
 ところが2年目、急にブームが冷めてしまい、タピオカがめっきり売れなくなってしまいました。マズいな、と思いながらも、それでも2年目はギリギリ200万円売れました。まだ希望はある、と思いながら3年目へ。
 しかし悪い予感は当たり、3年目には50万円にまで落ち込んでしまいました。今後、タピオカが再びブームになるのはいつかは分かりませんが、この機械の耐用年数残り12年の間には、爆発的にブームになりそうにない。分析をした結果、元々得られるであろうと予測した3,000万円には届きそうにない、せいぜいがあと100万円くらいだろう――と結論付けたとします。

この3年目で、タピオカ製造機は100万円の価値しか持たない(何故なら、最大でも100万円までしか稼ぐことができないから)、となります。この時に、タピオカ製造機の資産を100万円にする、というのが減損です。

 実際の仕訳としては、まず、減損をしなければ通常通り減価償却を行います。つまり、2年目までは以下の仕訳を切ります(単位は万円)。

【1年目】
減価償却費 100 / 減価償却累計額 100
【2年目】
減価償却費 100 / 減価償却累計額 100

 ということで、3年目期首時点では、機械の資産価値は1,300万円(貸借対照表上は1,500万円、減価償却累計額200万円)となります。ここで、100万円しか資産価値がないので、機械を100万円にしなくてはなりません。
 とはいえ、機械は1年持っていてその分消耗しているわけですから、通常通り減価償却をまずは行います

【3年目①】
減価償却費 100 / 減価償却累計額 100

 それから、実際に資産価値を100万円にするため、以下の仕訳を切ります(※2)。

【3年目②】
減損損失 1100 / 機械 1100

 よって、機械の資産価値は100万円(貸借対照表上は機械400万円、減価償却累計額は300万円)となります。
 さて4年目以降ですが、変わらず減価償却(もしまた資産価値が下がったら減損)をします減価償却については、残っている資産価値を、残りの耐用年数で割って償却していきます。つまりこの場合では、100万円を12年で償却する、ということになるのです。

 なお、こちらの減損損失は損益計算書上、特別損失に計上されます。また、減損損失を一度計上したら、絶対に戻入れはしません。たとえ将来またタピオカが大ブームになって資産価値を取り戻したとしても、減損損失を取り消して資産価値を貸借対照表上も上げる――なんてことはできません。

3:減損損失の判定方法

 さて、ここまでで概略と、どのような仕訳を最終的に行うのかは分かりましたが、実際にはどうやって減損損失をすると判断すればよいのでしょうか。

 基本的には、以下の4ステップで行うことができます。

①資産のグルーピング
 これは、キャッシュ・フロー(お金の流出入のこと)を生み出す最小単位でグルーピングをしていきます。例えば、先のタピオカ製造機であれば、それ単独でキャッシュを生み出す元と判断するのならば、タピオカ製造機だけが1つの資産グループとして見られます。
 或いは、製造機を外に野ざらしに置くわけにはいかないから、タピオカ製造専用の工場を建てたとして、それもキャッシュを生み出す源泉であると合理的に判断できれば、タピオカ製造機と工場建物を1つの資産グループとすることができます(※3)。

②減損の兆候
 次に、減損をするための事態になっていないかどうかを確認します。実務的には2年連続でキャッシュ・フローがマイナスであれば減損の兆候ありと見なします。その他、キャッシュの獲得分(基準では「回収可能価額」という。後述)を低下させるような事態が起きないかどうか、経営環境が悪化していないか、そもそも資産グループの市場価格が下がっていないか、などで判断します。
ここで「減損の兆候なし」となれば終了です。減損をしません。が、ここで「減損の兆候あり」となれば次の③に進みます

③減損損失の認識
 ここでは、本当に減損するかどうかを判定します。判定方法は、資産グループから得られる割引前将来キャッシュフロー(※4)の総額が、帳簿価額を下回るかどうかです。下回れば減損、下回らなければ減損しません
 基準に沿って難しく書いてありますが、要するに、資産グループの残りの資産価値(減価償却後の貸借対照表額)より、将来手に入れられるキャッシュの額の方が小さかったら減損する、ということです。今までしてきた説明と同じです(※5)。
 ここで減損するとなったら、いよいよ減損額の測定です。

④減損損失の測定
減損損失額はいくらか
、を判定します。減損は、回収可能価額という、「将来どれだけ回収ができるか」の金額分まで行います。つまり、帳簿価額と回収可能価額の差額が、減損損失額となります。
 この回収可能価額は、次の2つの価額のいずれか大きい方とします。

正味売却価額:「資産を減損判定時に市場で売るといくらになるか」という資産そのものの価格に着目したもの
使用価値:「将来手に入れるキャッシュである割引前将来キャッシュ・フローを、減損判定時点の価値に直したらいくらになるか」という、時間価値を考慮した資産の稼ぐ金額に着目したもの(※4)

 「大きい方」となっているのは、「価値が残っていれば価値があると見なす」という考え方によると思います。減損も、「価値が残っていれば別に減損はしない。価値が無ければ減損する」というのが出発点なので、一貫しているかな……と思ったりなどします。
 分かりやすくするために、先のタピオカ製造機の例をもう一度持ち出すと、1,200万円(機械1,500万円-減価償却累計額300万円)が帳簿価額、100万円が回収可能価額となるので、減損損失額が1,100万円になる、ということです。

 なお、ネット上では会計基準の要点会計基準適用指針が載っていますので、こちらも参考にしてみて下さい。


※1:この概念フレームワークを作ろうとした背景は次の通りです。
 日本ではそもそも慣習に沿った経理処理がなされることが多いということがあります。「今までこうやって処理してきたから、こう処理するものでしょ」というものです。具体的な処理方法から抽象的な原則を決めていくことから、これを帰納的アプローチと言います。とはいえ、当然ながらこのアプローチは限界があります。「今までやってきてこなかったものはどうするのか?」「今までやってきた内容が間違っていたらどうするのか?」に対応しきれないわけです。
 ということで、「大枠はこうなっているから、それを元に処理を決めていこう!」という、先に抽象的な原則を決めてから具体的な処理方法を決めるアプローチを目指そうとしている訳です。これを演繹的アプローチと言います。概念フレームワークは、この演繹的アプローチを目指すために作られました。
 しかし、これは正式な枠組みや原則ではなく、あくまで討議資料――つまり「私達が今議論している内容を公開しますよ。正式版じゃありませんよ」に留めています。これは、国際的に概念フレームワークを決めている最中に、勝手にフレームワークを設けてしまうと無用の混乱を招いてしまうため、と説明されています。

※2:減損の仕訳は、原則、対象の資産から直接控除して行います(上記の仕訳がそうです)。これを直接控除形式と言います。
 なお、対象の資産から直接控除せず、減価償却の間接法のように累計額を積み重ねる形で控除することも容認されています(独立間接控除形式、または合算間接控除形式)。上のタピオカ製造機の例をそのまま用いると、仕訳は以下のようになります。

減損損失 1,100 / 減損損失累計額 1,100

 この場合の貸借対照表上の表記は、独立間接控除形式では『機械は1,500万円、減価償却累計額が300万円、減損損失累計額が1,100万円』となります。
 一方、合算間接控除形式では『機械は1,500万円、減価償却累計額が1,400万円』となります(但しこの場合は、内訳を注記する必要がある)。
 とはいえ、結果として資産価値が100万円であることは変わりません。

※3:なお、例えば「工場建物と、その建物にある機械Aと機械B」という風に資産をグルーピングすることもあると思います。この場合には、工場建物は機械Aと機械B両方にかかる共用資産と言い、少し減損の仕方が面倒になります。つまり、グループ全体の減損分から、共用資産以外の減損分を差し引いて共用資産の減損分を求めます。何故なら、複数の資産にかかっており、個別に減損を判断できないからです。

※4:「割引」という言葉を理解するに当たり、「時間価値」という概念を理解している必要があります。詳しく書くとこれも長くなるので具体例を言うに留めると、「銀行にお金を10,000円預けておくと、年1%の利息分だけ預金が増える。今預けた10,000円というお金と、利息分が加算された10,100円というお金とは、金額は違うけれど、同じ価値のお金である」ということです。日本人は普段、超低金利政策の影響で「いやいや、今預けた10,000円は、将来も10,000円でしょう」ということを出発点に考えるので、「金額は違うが同じ価値」ということに馴染みがありません。これもそのうち勉強がてら書きます。

※5:なお、割引前将来キャッシュ・フローの見積期間は、経済的残存使用年数と20年のうちいずれか短い方とされています。要は、一番長くても20年目まで見積もればよくて、21年目以降は20年目と同じキャッシュ・フローを用いてよい、とされています。あまりにも遠い未来であると資産価値もそんなに大きくなく(20年以上も動いている機械は故障も多くなるし、大体その機械で作る製品が20年以上先もブームである可能性は、限りなく低い)、見積もる意味があまりないからです。

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