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【不定期雑記 #28】#空色杯 応募作『移住惑星のディール・メイカー』セルフライナーノーツ

 どうも、透々すきとう実生みつきと申します。

 こちらの記事は、第6回空色杯に寄せた書き下ろしの読み切り短編『移住惑星のディール・メイカー』の自己解説セルフライナーノーツ記事です。自己満足とも言います。
 大いにネタバレもありますので、未読の方は是非お読み頂ければと思います!




 ではいきます。
 ちなみに先に言っておきます。何だか小難しいこと考えながら書いてるので、いつもより真面目です(そもそもいつもが真面目じゃない話も書いてる、サンタさんとか……)。

○タイトル
→正直かなり悩みました。この物語、中々ピタリと当てはまる言葉が見つからず……。しかし、「何となくかっこいいこと」「内容として、移住先の惑星であることが分かること」は意識しました。特に後者は、こうしないと本文最初で何の話か分かりづらいのもあります。
 本来は本文に書いて勝負すべき所ではありますが、情報量を既に詰め過ぎているのに、これ以上詰めると読者がついて来れなくなりそう、ということがありました。
 という事で、「移住先の惑星の話」だと分かった状態で読み進められるようにすることと、「取引、交渉が主体の話」だと分かり、かつ目を引くタイトルにしようともがいた結果、ああなりました。割と良いタイトルになったな、と自負しています。

○表紙画像
→いつもの通り、AI画像生成を利用しました。利用したのはLINEの「お絵描きばりぐっどくん」です。基礎に入っているのが確かStable Diffusionだった気がします。「廃墟、赤い花」と打ったらあれが出てきましたので、そのまま採用。
 なお、画像の赤い花の部分、よくよく見ると同じ色の文字を埋め込んでいます。
 "It's up to you." 「お前ら次第だ」と書いてあります。赤い花になるのもならないのも。

○文字の配置について
→主催の天野蒼空さんにも仰って頂きましたが、文字の配置やら何やらがおかしな小説になっています。途中の「がたん」という音は完全に驚かせる為だけにその配置にしましたが、それ以外は意味を持たせています。
 例えば太字部分が幾つかありますが、これは師匠である静冷の教えであるか、或いはその教えに乗っ取った交渉・仲介術であることを表しています。

また、文字が中央に寄っているものもありますが、これは弟子である鎮静自身の考えであることを表しています。

 そういうことを意識して読んで頂くと、「へえ」となる部分はあるかもしれません。師匠の教えは弟子の中でキチンと血肉になり、そしてそれを用いて彼はこれからも復讐の道を行くのです。
しかし彼の復讐はかなり陰湿な復讐だよなあ、と書いてる本人も思ってるのは内緒

○「仲介に必要な事はね、相手双方にとって、マシな取引と思わせる事よ。」云々
→この物語の根幹を成す師匠の教え。この文章は推敲段階でかなりこねくり回しており、途中訳分からなくなりかけましたが、まあ言っている事はシンプルです。が、その後の仲介と交渉論は中々アレなので解説でも。
 仲介と交渉というのは、「意見の食い違う複数の人を、言葉で以て仲裁する」という意味では本質的に同じです。ただ、その「意見の食い違う複数の人」というのが、仲介だと自分以外の第三者達であり、交渉だと自分と自分以外の第三者達というだけなのです。即ち、「仲裁対象に自分が含まれるか」どうかに違いがあります。
 ぶっちゃけ、自分が含まれている交渉ならば(余程のことが無ければ、或いは余程頑固で無ければ)妥協はしやすいものですが、含まれていない仲介はそうはいかないと思います。他者が腹の内で何を思って何を望んでいるのか、それを探りながら折り合いをつけるのは非常に難しいのだと私は思っています。その根幹には、他者の理解は難しい(又は殆ど不可能)という考えがあり、しかもその他人が相手1人ではなく、2人以上になった時は、その難易度は指数的に跳ね上がる。それを今までやり遂げてきた筈の天才、静冷が星の怒りを遂に買ってしまう程に。
 だから、凡人と自認する鎮静の方が、この2つを両立させようとしているので余程末恐ろしい才能を発揮していると言えます。私にもっと筆力があればこの辺り、更にちゃんと書けた気もしますが……。
 ちなみにこの鎮静のキャラクター性の根幹にあるのは、漫画『ブレス』の1話にあった言葉です。

「一番末恐ろしいヤツってどんなヤツかわかりますか。才能がある奴じゃない。自分には才能がないってわかったうえであがいてくる奴なんですよ」

『ブレス』1巻より

○「蔦に呑み込まれた電車」
→今回のお題は、伸びた線路に赤い花、そして見える高層建物、というものです。線路が中心に置かれているので、それに引っ張られて電車をモチーフに書く可能性は十分にある(で結果的に、二次選考の三作品の内、私だけ電車が中心になっていませんでした)と思います。
 というか私も引っ張られかけましたが、前回参加時の優勝作で電車というモチーフを使ったので、今回はそれ以外のモチーフで勝負しよう!(あわよくば優勝しよう!)と思った訳です。

 なので、電車というモチーフは使わない。むしろ電車というモチーフは明確に捨ててやる、という意図も込めて、今回のモチーフの一つである植物に呑み込まれてしまった描写にしました。これが吉と出るか凶と出るかは分かりませんが、まあそればかりは審査員の方々の好みのみぞ知る――と言ったところでしょう。

○「繁栄の残骸」
→廃線しかり廃墟しかり、こういう繁栄の歴史を背後にしながら廃れていったモノには、人を惹きつける魅力があると思っています。その歴史が長ければ長い程、モノには「物語性」という価値が付き、その価値の高いモノ=多くの人を惹きつけ得るモノは博物館という場所に陳列される訳です。そうでもないモノは捨て置かれて廃墟や廃線となる訳ですが、それでもそこに価値を見出して態々訪れる人もいる訳です。
 そういう実感があるので、捨て置かれたモノをこう表現してみました。こうした表現は自分の中にスッと浮かぶ様になってきましたが、それでも表現に悩む事はまだ多々あり、訓練はいつまで経っても終わりそうにないなあ、とかそんな事を考えてます。

○植物がヒトから生える描写
→大分前からこういう描写のある小説を書こうとしていて、全く別構想の小説(花が咲く奇病が流行った世界での現代小説)がありましたが、「ここでも使えるな」と思い至って描写だけ拝借した感じです。こういう引出しももっと増やしておかないとなあ、とか思ったりします。

○ 「黄土色の瞳で男を射抜く、土気色の肌の少年」
→星の意識体なので、何となく地面を連想させる様な色で統一してみました。ちなみに惑星をこういう人間の形をした意識体として扱うのは、西尾維新さんの小説シリーズである『伝説シリーズ』から影響を受けています。

○「怪物惑星ソラリス」
→言わずと知れた、スタニスワフ・レムのSF小説『ソラリス』のことです。この小説を読んだ経験があったからこそ思いついた話とも言えます。ちなみに粗筋は、意志を持った惑星ソラリスの研究の為降り立った研究員達が、ソラリスによって徐々に狂わされていく(或いは勝手に狂っていく)という話です。(似非)学術的・形而上学的な記述も多く読むのは難解ですが、ストーリーを追うのはそれ程難しくなく、頼れる者の殆どいない惑星での閉塞感と先の見えない暗闇感、そして徐々に狂気へ走ってゆくハラハラ感を味わえます。腹の底から物語を理解するには相当な胆力が要ると思います……(私も全部理解したとは言えない)。

○「天才は嘗て易きを語ったが、凡人には行い難い」
→これは西尾維新さんの『戯言シリーズ』、赤き征裁オーバーキルドレッド哀川潤さんに対して、いーちゃんが放った言葉をもじっています。哀川潤があまりに強すぎる天才で、皆それが出来ると信じているからこそ、凡人からすれば「そんな事は普通はできないんだ」と、そんなセリフ。
 真の天才は、自らが天才であることすら自覚しません。

○鎮静の目的について
→この交渉と仲介と復讐とを三つ同時成立させる、みたいなことは当初考えていませんでした。
 しかし物語を進めて「一体なぜ彼は、こんな事をしているんだろう」と考える内、鎮静を静冷と並ぶ単なる聖人君子として描くのは何だか違うなと思ったのです。そう書いてしまうと、人間は反省をしないまま、或いは表面的にだけ反省をしただけでお咎めを逃れた、みたいな形になりかねないからです。散々自分たちを穢されておいて、そんな度量の広い事を惑星デスタはしないだろう……と思いますし、都合の良い話は書きたくないな、とも思いました。
 で、結果的には「静冷を殺されたために、人間に対して復讐をする」、かと言って「惑星デスタに肩入れもし過ぎない」という危ういバランスの上に立つ主人公像が出来上がりました。多分こんな作り方は2度と出来ない気もしますが、こういうキャラも作れる様にはなったんだな、と実感してます。

○「一度力に打ちのめされ萎んだ者は、その殆どが跳ね除ける為の弾性を失う。
→太字なので静冷の教えです。元ネタは『魔人探偵脳噛ネウロ』で、ネウロに楽しく拷問されメタメタにのされたDRを見ての葛西善二郎のセリフ。彼は一度折り曲がった鉄板は、元に戻しても折り目が付いて元には戻らない(そんな奴は仲間じゃない)という比喩で出していましたが、それをもじった感じです。

○「嘗て彼女が助け長年保護養育した青年――現在、劉鎮静と呼ばれる男だ。」
→若干鎮静の過去にも触れましたが、何があったかは皆さんのご想像にお任せします。それにしても、ここだけ読んでも静冷の聖人っぷりも発揮されてる様なエピソード。昔からこういう聖人君子を書くことがままあったのですが、最近はあまりに凄くなりすぎない様に抑制はしているつもりです。

解説おしまい!

 ということで解説でした。
 ちなみにこれを書いている時点で空色杯は一次(審査員達の票によるもの)は突破して二次(恐らくは実質的な最終?)まで行ってます。どこまで食い込めるかは謎ですが(ちょっと好き放題詰め込み過ぎたのと、結構話が堅くなってしまったので)、良いところまで行けたら良いなあと思っとります。

以上です。


追記(7/17)

 色々不安要素はありましたが、大賞を頂きました!(ちなみに視聴者選考も獲得したので二冠です!)
 読んで頂いた方、そして選んで頂いた方、本当にありがとうございました!

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