小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 4)
1話目はこちらから。
Episode 4:「霊前」カップルトーク。
「……本当に行くことになるとは」
「だって約束したし!」
「まあ、したけど」
「じゃあ、つべこべ言わずについて来るっ!」
午後10時過ぎ。子供が歩くには遅すぎる時間帯だ。警察に見つかれば補導確定――どころか、世間的には幼い男女2人で歩いている所を見られたら色々終わりだ。
こういうのを、世間では不純異性交遊と責め立てるらしい。
が、カナと自分の交遊は不純では無い。子供同士でいるからと言って不純と断じるのは大体大人達な訳だが、彼らは安直極まりない。
何が安直かと言えば、自分たちのことを棚に上げ、またそれに気付かないという点で、だ。まさか、不純異性交遊を宣う大人達は「自分達大人の恋愛が全て純愛です」と言うんだろうか。世の中に蔓延っているらしい下らない恋愛ドラマを見ても尚。不倫報道が世の中を騒がしていても尚。
子供の恋愛が純とは限らないとは、確かにそうだが、糾弾する権利は少なくとも大人には無い。
こういう論になると、「では誰が糾弾するのか」ということになるが、それは愚問というものだ。
糾弾できる者などいない。
誰も人の恋愛には口出ししてはならない。
年齢など関係ない。
恋は恋だし、愛は愛なのだ。
……多分。
さて、閑話休題。
しかし、カナの行動力には驚かされる。
聞くところによると、幽霊屋敷にいく発端はクラスメイト――暗苅(くらがり)朽凪(くちな)に聞いた噂らしい。都市伝説やオカルト、そう言った類の話を好物とする女子だそうだ。カナにそう聞いている。で、その話を聞いて『面白そう!』と思ったカナが自分を半強制的に引っ張る形で行くことにした、という経緯。
なんというか、行動力の化物である。だがカナにとっては朝飯前なのだ。今はもう夜だけど。
「えーた、えーた! 楽しみだね!」
「ああ」
半強制的に引っ張り出されたとしても、カナとなら何をしても楽しいから良いのだが。
たとえ、カナの行動力によって滅茶苦茶なトラブルが起きたとしても。
……過去にも滅茶苦茶なトラブルが起きたが、何とか生き残っているのだから問題など有りはしないだろう。
「そういやカナ。幽霊屋敷に行くのに何を持ってきたんだ?」
「え? 持ち物はね!」
と、背負うピンク色のリュックサックを指さしながら答える。
「まずは懐中電灯でしょ」
「ああ」
まあ普通だな。
「次にスマートフォンでしょ」
「ああ」
現代の象徴だ。中毒者がいるとかなんとかという話だが、電子機器に中毒になるのは、人間としてどうなのかと思うが。
そして次。
「次にカメラ!」
「スマートフォンで事足りるだろ」
カメラ機能使えよ。スマートフォン製作者が泣くぞ。知らんけど。
「あとは食糧と水! 3日分!」
幽霊屋敷に泊まる気か。
「ほら、異世界に行って帰って来れなくなったりとかしたら大変じゃん!」
「んなことあるか」
カナはライトノベルの類とか読まない筈なのだが。
「まあ、異世界は冗談として!」
「冗談なら良かっ――」
「本当は、食べ歩きをしようと思っていたのです!」
「アトラクションじゃねえんだぞ」
……何だろう、こういうことがあるからトラブルが起きる気がするんだよな。
……。
カナが楽しそうなら何でもいいか。後始末は自分がすればよろしい。
「あとはね!」
「まだあるのか」
「塩!」
「除霊でもするのかよ」
しかもよくよく聞いたら、スーパーで売っている市販の塩。幽霊舐めるな。むしろ舐められる。二重の意味で――塩も舐められるし、幽霊からも舐められる。
人間の自分が言うのも可笑しいけど。
「あとは御札!」
「どこから出て来たそんなもの」
「クチナちゃんに貰ったの!」
「……成程」
他にも幾つか持って来ているみたいだが、割愛する。カナの天然と自分のツッコミの応酬など自分は十割愛しているが、他人にとっては退屈だろう。
取り敢えず、準備は万端なようだった。
「にしても、クチナと仲良いみたいだな」
「そうだねー。結構話していて楽しいし! この前は『怪電波事変』の話もしてくれたんだよ!」
「何だそれ」
どこのライトノベルのタイトルだ。
「なんか突然、自分の意志に反する行動を取っちゃう電波が街中に流れているんだって! その電波を受信しちゃう人が、毎日1人はいるんだってさ!」
「……へえ」
自分の意志に反する、か。
なんだか懐かしい響きだった。
そういや親戚にもそういう奴がいたと思い出す――既に世界からは退場していて、世界の歯車にも伏線の1つにもなれなかったが。
「今もその電波は流れているかもしれないんだって――朽凪ちゃんが言ってた!」
「中々恐ろしいことを口走るなそのご友人」
オカルト、陰謀、都市伝説――こうしたものはほとんどが眉唾モノだが、その中にはたまに真実が混じる。
例えば自分は幽霊こそ信じない――あれはおよそが勘違いか恐怖による幻覚幻聴作用に近い。
だが『呪い』の存在は信じる。
何故なら自分も『呪い』を身に宿している、という状況証拠があるからだ。
無痛覚のことではない。それ以上の異常な呪いがこの身には宿されている。
……閑話休題。
「そういや、今の幽霊屋敷はどういう感じで話を聞いているんだ?」
「えっとね……確か、『武闘派幽霊』なんだって」
「武闘派」
幽霊が。
せめて呪いを使って欲しいのだが。というかそれ、自分は幽霊に勝てるのだろうか。
……否、常識的に考えれば、常套手段では勝てない。
だから正攻法なぞどこ吹く風、正義を振りかざして、正々堂々と不意打ってやるしかない。
自分にとっては、カナを守ることこそが至上の正義なのだ。
「カナ」
「なに?」
「自分から離れるなよ」
「……うん!」
えへへ、とカナが笑う。
可愛らしい笑顔だ――この笑顔を守るためなら、自分は何だってする。
そう、何だって。
――目の前に、目的の幽霊屋敷が見えてきた。
さて、ここからだ。
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