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産業保健師として企業外支援から企業内へ移ってみて

2023年春に転職をして、企業外産業保健活動(労働衛生機関)から企業内産業保健師となりました。
企業内に入って1年たった今、感じたことを書き連ねようと思います。
企業内は現在の職場しかわからないので、N=1のため一般化できていません。当たり前ですが、どちら(企業外or企業内)がいいとか、悪いとかそういう話でもありません。とりあえず書いてみます。


効果(成果)を出さねばというプレッシャー

企業外の頃の活動

企業外支援をしていたころは、支援相手(顧客)の希望を確認し、企業の課題(健康診断結果や問診結果)を分析。企業をうっすらと理解したうえで、講話やイベント、面談を実施してきたつもりでした。
実施後に、独自でアンケートを取って理解度の確認してきましたが、実施したアンケート結果による満足度や理解度の状況が、自分の成績に繋がるわけではありませんでした。
また、その介入による効果(実際の行動変容・健診結果数値の変化)については確認できていなかったので、正直「自分が介入をしての効果を知りたい」と思ったことが、企業内に入りたいと思った理由の一つでもありました。

企業内に入ってから感じたこと

企業内保健師となってから、組織は課題感を持ちながら、健康に向けて取り組んでいる様子がありました。
その様子を見て感じたのが【課題に向けて・目標を決めて取り組み、数値目標を到達させることが目的になっている】という印象でした。
(もちろん全てがそうではないし、私の感じ方の問題かもしれません)

例えば「週3回1日30分以上の運動習慣がある人を30%にする」という目標を掲げて、数値を「30%」にするために活動をしているという感じです。

例えで出しましたが、世の中的に「運動習慣がある」というのは、とても良い健康的な週間で、様々な疾患の予防につながる可能性があるというのは納得できます。
そして「運動習慣がある人を増やす」というのは本当に重要な施策になると思いますし、「今がこの程度だから、まずは30%まで上げよう!」という目標があるのも全然間違ってはいないと思います。

でも、その活動はそもそも健康になるための活動であるはずが、数値を上げる(結果を良くする)ために色々対応しているなぁ的なことを感じることがあり…。何となく「健康のためというより・結果を出すために行われている活動だな」と思ってしまった私がいました。(何度も言いますが、もちろんこればかりではありませんヨ…。)

よく「健康経営を投資と考えるか・コストと考えるか」という話がありますが、会社で予算をとってやっている以上、やはり効果を確実に出さなければならないのだなと、感じました。
多分会社として「投資」と考えていたとしても、その成果(結果)によって、産業保健に携わっているスタッフの昇進や雇用状況が決まるだろうし、部署として予算を確保できるかが変わってくるからです。

企業外と企業内を比べてみて

企業外にいるときは、お金を払ってもらって実施している側だったこともあり、正直【産業保健にかける予算拡大・待遇改善】みたいなことは、自分は考えたことがなくて。
「効果的で満足度が高いものを創って提供する」「担当会社の安全衛生の水準を少しでも上げる」ことに全力投球できました。

企業内にきたら、そうではない場合もあり
営業活動と産業保健が同じ列に並べられ、成果を求められる場合もあるのだと感じました。

もちろん、我々は社員の健康に寄与できると見込まれているから雇われています。「経営(お金・予算)」が絡んでいる以上、きれいごとだけでは会社は健康への投資は続けられないでしょう。

一時的な「社員の健康」「組織の健康」を魅せるために作るのであれば、短時間でも効果的なことができると思います。とりあえず目の前に、社員や組織が健康になった!という数字(結果)を作らなければ、部署も産業保健スタッフもどうなるかわからないという状況もあるでしょう。

でも「人生を通して(退職した後も)健康でいてもらうために」「数十年後の組織の健康を作るために」ということをベースに活動するのであれば。
きっと計画的に実施をしていき、試行錯誤と積み重ねが必要になると、私は思っています。
行政保健にしろ・産業保健にしろ、特に予防活動の施策については、本来の効果が見えてくるには、それなりに時間がかかるもの」だと私自身は理解をしていたのですが、それを待ってもらえない場合もあると、企業内に入って知ることができました。


社員との距離感

企業内では社員の日常を目の当たりにし、一緒にその日常を過ごすことができるのが醍醐味だなと感じています。
自分が健康支援をしている方が目の前にいる、という状況。この環境で働きたくて企業内へ来たというところはあるかもしれません。

  • 外勤に出る社員さんを「いってらっしゃい」で送りだす

  • 繁忙期はピりついた雰囲気になる

  • 社長賞を取った社員がいる

  • 初めて商品を売った新人さんの報告を聞く

  • 部下にも上司にも言えない中間管理職の話を聞く などなど

この人たちが仕事で全力出せるように・出してもらうために、私ができることは何だろうか・頑張りたいな、という気持ちになれます。

一方、企業外では正直ここまで距離は詰められませんでした。
そもそも、会社の情報もリアルタイムでは入ってくることは稀で、いつの間にか部署や事業が丸々なくなっていたこともありますし、いつのまにか会社が経営破綻したこともありました。
定期的に会社へ訪問し、定期的に面談をした社員などもいましたが、それでも会社の動きは見えてこないし、部署の動きも背景も、一から情報収集をする日々でした。

でも、社員や会社との距離感が近くなれないから良くないのかというと、そういうわけではありませんでした。
実際、立場的に「外部の人だから言えること」もあったし、会社としても「外部の人が言ってることだから」と話を聞いてくれることもありました。
面談をしていても、先入観なく客観的に話が聞けた部分はあったかもしれないとも思っています。

企業外支援の頃は、複数の会社を担当してきたので、私自身の日常の中で社員さんが作った商品を見たり、街中で自分の健康支援をしている人が働いているのを見ることがありました。
そういう意味では、企業外支援だとしても、支援をしている人たちが頑張っている結果が日常で見えていたなぁとは思います。


施策に直接携われる

企業外の頃の活動

会社がこうありたい・担当者の困っていることなどをキャッチして、それに合わせて対応をしてきました。
私の方から課題を共有することもありましたし、課題解決に向けて会社の規定(ルール)変更に携わったこともあります。しかし、携わったといっても、一般的なことや他社の状況について資料にまとめて、社内の担当者(総務や人事)が役員へプレゼンをするための資料作りのお手伝いをした程度でした。
そして、どちらかと言うと健康施策の一つとして講話の依頼をいただいて話をしたり、施策の一部となる事が多かったなぁと今は思います。

企業内に入って

考えることはほぼ似てます。課題を考えて、課題解決のために何ができるのかを考える。
でも、施策として何をするのか。課題解決のために、どのようにお金を使って、いつ、何をやるのか。こういったことは企業外の時にはあまり考えてこなかったことだなと感じます。また、予算をどのように使うのか・全事業所で同じことを行えるのかなど、全社的な視点で考えることは、かなり産業保健をやっていくうえで大事な視点なのだなぁと改めて感じました。


先のことを考えて、自ら動ける

企業外支援のころは、各社の健康診断の時期を基本軸に「どの時期に何の資料を作る」「この時期に人事にこの説明をする」に加え、各社の課題に合わせて面談をしたり、人事とやり取りをしたりしていました。
正直季節感はなく、会社の1年についてはあまり考えずに活動をしてしまっていました。

しかし、企業内に入ったら。1年間の間にも、新人さんが入ってくる!この時期が繁忙期!健康診断の前!異動の時期!と1年の中でも色々あります。
この時期にはこういう空気になるんだ、みんなこうなるんだ!が何となくでもわかるってめちゃくちゃ大事だなと2年目になった今、感じています。

それは1年の中で節目節目がある意味色々とチャンスだという気持ちがあるからです。そのチャンスを逃さないように、いつチャンスが来てもいいように、色々と資料を準備したり、こういう説明をできるといいなと思い、ちょこちょこ勉強をしてきました。

昨年の入社した当初から「歯科検診あるらしいから検診に関する発信の時には、こんな内容のメールを送るのはどうだろうか」「管理職と連携するにあたって、これを知っておいてもらいたいな。資料を作ろう」と、事業所のことを考えて、いつか使うかもしれない資料作りや勉強をひっそりちまちまやってきました。

『産業保健師になったけどヒマ~』みたいな人もいるかと思いますが、もしそのヒマを持て余してるのであれば【今、必要とされていること】だけでなく1年間で発生するであろうことを妄想して【もしかしたら、今後必要となるかもしれない】ことまで考えてみるのはどうでしょうか?
もちろん、考えたことがボツになる可能性もありますが、資料を作るために勉強したことは無駄にはならないし、来年以降それをアレンジして、活用できるかもしれません。
正直私は、この1年間1回もヒマだと思わずにここまでやってきました笑。
社畜的考えかもしれませんが、自ら考えて動けるのは企業内保健師の醍醐味だと思います笑。


産業医に色々委ねがちになる?

何となく、企業内に入って「常勤産業医が出てきがち?かも?」と感じています。(これこそN=1なので、もちろん違う会社もあると思います)

企業外の頃は、必要時面談を依頼されて1件いくらという単価で面談を行っていました。だから、会社から依頼がないと面談はしないし、できない。
面談をした方がいいかどうかの相談もありましたが、会社でどこまで判断していて、何を悩んでいるのか・産業医が何を判断する面談をするのか。事前に考えながら面談の実施についても考えてきました。
契約企業の人事(顧客)も料金が発生することもあり、医療職側の役割と人事の役割を改めて整理して伝えると、納得いただけていた状況があったなと思います。

今回、企業内に入ってみて常勤で産業医がいるからか「面談をしなければならない症候群」なのか「一応面談やっておいた方がいいですよね?先生!症候群」なのか、わかりませんが。とりあえず先生に色々と投げつけることが増えたかもしれないと思っています。
もちろん必要時は、産業医の面談をした方が良いと勧めます。
しかし正直企業内に入って、これまでの判断基準が崩れてしまい、看護職の面談?産業医の面談?というのが分からなくなってしまいました。(これは企業内外と言うより、転職あるあるかもしれないですネ)


サブスク産業保健師!

企業内保健師さんたちは「面談、1件あたりいくら」と考えたことありますか?特定保健指導を実施されている方は感覚があるかもしれません。
私は企業外支援をしていた頃、会社の課題解決のために「こういったことをしたい!(一番身近なことでいうと社員へ面談をしたいなど)」と考えたとしても、●時間〇円、●件〇円で契約をしているため「追加料金を支払ってまでやって欲しい」と感じてもらえる説得をすることができないこともあり…。歯がゆいなぁと感じることが多々ありました。
産業医の面談も保健師の面談も1回(〇分)あたりの値段を支払ってもらってやっているからこそ、その価値があるだけのことをやりたいと思って、勉強もある程度してきました。


私は「企業内に入ったら保健師はサブスク!(面談何件やっても企業で払うお金は変わらん!)気になったら、気になった社員さんに声かけられるタイミングがありそうだぞ!」と思いながら企業内に転職しました笑。
今、実際にサブスク(企業内)保健師になって、社員さんと話すハードルが下がったのを感じます(社員さんはもちろん働いているので、私からは目的がなければ話しかけませんが、社員さんから声かけられて話すことがあるなぁと感じます)
色々考えると、ある意味予防的に社員さんと関われているかな?と感じることあります。

社員さんとやり取りするには「時間をいただいている」「しかも勤務時間内であるならば、生産性のある時間をいただいている」いう意識。
そして、価値のある面談にするために十分に準備をして、目的を達成するための面談をする。これは、今後産業保健活動を行うにあたって、企業外であろうと・企業内であろうと忘れないようにしようと思います。


企業内・企業外、それぞれ色々

と、まあこんな感じで。
企業外支援から企業内に来て、色々と感じることがあり、それに合わせて変えてきたこともありつつ、変えないでやってきたこともあります。

企業内支援・企業外支援、どちらもそれぞれ特徴があるので、実際にやってみて、この部分は企業内の方が自分には合ってる・この部分は企業外の方がやりやすかったなど。色々感じることはあります笑。

この記事を通して【企業内=産業保健ではなく、産業保健の中でも色々な選択肢】があることを知って欲しいと思って書いてみました。また、今後転職を考えている方へ、企業外という選択肢を考えるときの情報の一つとなるといいなぁと思っています。


↓よかったらこちらの記事もどうぞ(企業外支援について)