あの時の君へ。

小学2年生になった君へ。
1年生の担任の浅野先生は本当にいい先生で今でも覚えているくらいだけど、2年生の記憶はほとんどないんだ。

断片的に思い出せるのはいつもいつも何かに怒っていたね。
今こそ何に怒っていたのかしっかりと向き合うべきなのではないかとも考えるんだ。もう遅いかもしれないけど、遅くなってしまったことには怒らないで欲しい。


─────「給食当番以外のみんなは静かに読書をして待ちましょう。」
先生と呼ばれる人が言葉を発し、それに子どもたちは従う。
意味のわからない謎のルールではあるが周りに習い、君も学級文庫に手を伸ばす。

しかし、繰り返される日々で新鮮であったはずの冒険や困難が語られる物語たちは、繰り返された毎日によって誰かのくだらない中身のないものへといつしか落ちぶれ、キラキラとした物語から一冊のただの本へと変わり果てた。

さらに繰り返されたn度目の今日、ふと君は思う。
静かにすることが目的なら本を読むことは必要ではないのではないかと。
静かにさえすればこの何度も繰り返され結末がわかる本たちから解放されるのではないかと。

君はそれを実践するが、すぐに

─────「なぜみんなは静かに読書をできるのに、君は出来ないのですか?」
こう言われてしまう。君は本当はいろいろ話したかったけど頭に思い浮かんでは言葉たちがどこかへ消えていってしまう。いつもはもっと上手く話すことができるのに今は言葉を発することさえできない。
頭の中にあったはずの言葉たちは出口を見失い、いつか目から涙として流れた。

─────「泣いていてはわかりません。とにかくあなたも本を読んで静かに待っていなさい。」

─────「 ─────。」

─────「 ─────。」

─────「 ─────。」

やっぱり、もう思い出せることはあまり無い。
大事なことを思い出してあげれていないような気がする。君にかけてあげたい言葉も、今僕が欲しい言葉も、あの時飲み込まれてしまった言葉なのかもしれない。

また思い出したことがあれば書き留めておきたい。





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