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2人の八ヶ岳・天狗岳への山旅


なぜに天狗岳なんだろう。昨年の今頃は1人で天狗岳に登ってきた。確かその前の年には友人と登ってきた。つい先月もしらびそ小屋から天狗岳を眺めていた。
なんとなく天狗岳に呼ばれてるって気がするんです。

夏休みに息子と2人で山を歩き、テントで眠り、また山を歩く旅をしたいと思ったのはいつからだろう。3年ほど前から冬以外は月に一度のペースで山を歩きはじめました。息子もその頃から一緒に歩いています。もう数えられないくらい色々な山を歩いてきました。息子にとって八ヶ岳は2度目で、昨年の10月に登った編笠山以来。その時は息子にとって初めて青年小屋でテント泊をしました。

2人で歩くっていう初の試み!いつもは明香がいるから、どっちかが息子のペースに合わせながら歩くけど、今回はずっと息子のペースに合わせて後ろを歩きました。いつもより荷物は重いし(2人分の食料、寝袋、衣類などなど)、息子の歩くスピードは僕の約半分なので、じわじわときますね。
全行程のコースタイムのペースが、いつも1人で歩くペースの倍近くかかりました。それでも、7歳児の小さな足でしっかりと歩き通せたことは凄いと思います。
お互いの弱さや強さを認めて、受け入れて、支え合って無事に下山できました。
「何を大袈裟な!」って思うかもしれないけど、この時期の八ヶ岳は雷も多く、そしてトレイルは常に濡れていて滑りやすい(僕は終盤に転びました)そういった意味でもパートナーとして信頼し合い、一緒に歩くのはとても大事です。
この山行を終えて日常生活に戻ってきて感じるのは、息子との関係性が今までとは少し変わったかなって。どう変わったかは分からないけど、きっとこの先にこの山行での思い出が効いてくると思います。

これから写真を交えて振り返りたいと思いますが、その前にもう一つ。
山行に出る1週間前に、明香と共通の古くからの友人が癌を患い旅立ちました。
僕たちは闘病していたことも全く知らず、それは本当に急に訃報を聞いていまだに信じられません。明香の同級生なのです。まだまだこれからの年です。
本人は癌を宣告されてもしっかりと受け止めて、必ず良くなって、やりたい事、行きたいところがまだまだあるんだと言ったそうです。
生きていて見るもの、触れるもの、感じるものは本当は一瞬の出来事なのかもしれない。昨年は、愛犬の「あさ」が旅立った後に天狗岳に登って、今年は友人が旅立った後に。何かの巡り合わせかもしれないけれど、山という神聖なる場所は「死」に向き合う為の場所と言っても過言ではないかも知れません。

念願のチョコボール

10時半に唐沢鉱泉を出発して少し歩いたら
僕「あれ!?父ちゃん車の鍵閉めたかな?」
息子「多分閉めてないよ」
うーん、せっかく気持ちが乗ってきたのに引き返すとは。案の定、鍵を閉め忘れてたし。これはまだまだ始まりに過ぎず、僕のうっかりがさらに続くことに。
ゆっくりなペースで着実に高度を上げながら、たまにはしりとりしながら、こまめに休憩という名のおやつタイムをとりながら歩いてると
息子「父ちゃん、おにぎりいつ食べる?」
僕「え!?おにぎり車に忘れてしもた」
なんと明香が前日に握ってくれたおにぎりをまたまた車に忘れてしまったんです。
しかも中腹に来てたから引き返すことも出来ず、おにぎりは保冷ボックスに入ってるから翌日下山した時に食べよ!と前向きに切り替えてまたまた歩き出す事に。

テントはBIGSKY SOUL2 これは名品!

大人の足だと2時間で到着する黒百合ヒュッテに、3時間半かかってやっと到着。
夏休みだから小屋も大賑わい。中学生の団体が1人ずつジュースやアイスを買うのに長蛇の列。僕は、さっさとテントの受付をしたいのになぁと少しイライラしながらも列に並ぶ。何にイライラしてたかと言うと、その団体の引率者に何とも言えない不信感がありまして。まぁそれはさておき、黒百合ヒュッテの小屋番の女性は非常に優しくて、そんな小さなイライラが吹っ飛びました。ここの小屋は何が素敵って、トイレが素晴らしく綺麗なのです。世間一般の山小屋のトイレイメージが吹っ飛びますね。感謝しかありません。

C.Cレモンの残りを確認する息子

さっさとテントを張り早めの夕食。エビスビールの6缶パックを買うとおまけについてくる焼き鳥の缶詰が家に大量にあったから持って来て食べた。それがビールにぴったりで美味しかった。写真に写ってるわかめご飯に、お湯を注ごうとした時に倒してご飯をこぼした僕。怒る息子。でも普段は飲まないC.Cレモンのおかげでご機嫌。

夕食後、中山峠まで散歩

ご飯を食べてパジャマに着替えてテントでゴロゴロしよっと思ったら、息子が探索に出よう!と。意外と元気だなって安心したのを覚えてる。ここからテントに戻った時に僕が持っていた息子の防寒着を落としたことが判明。またまた中山峠まで探索しに行くことに。この頃には息子は、怒りよりも呆れてました。

諏訪方面に落ちる夕陽
漫画を読むのは欠かせないらしい。僕も文庫はいつも持参

見てください!僕の枕。青い小さいの。これはカメラのクッション用座布団なんです。僕はどうしてもエアピローが合わなくて、どうしよっかと探してたら出会いました。薄っぺらいけど、折ると中々高さも出て寝心地も悪くない。山道具はナイロンや化繊素材が多い中、この綿素材の肌触りがなんとなく心地よい。
欲を言えばもう少し大きいと嬉しいんだけど40グラムなだけに文句は言えない。
汚れても臭くなっても洗濯機で洗えるのも良いところ。

枕なんていらないぜ!って。

なんて可愛いんだって眺めてた。息子の寝顔を。こうしてゆっくりと寝顔を眺めるのも久しぶりだな。大きくなったなって思ってたけど、大きな山の中にいると本当に小さくて。そんな小さな生き物が山の中で笑ったり、歩いたり、ブーブー言ったり。なんだかね、何してても可愛くて仕方がないんです。
旅立った友人も一度だけ息子に会ったことがあって、可愛いって言ってくれてたから、友人の視点でも眺めている気がしました。

息子が撮ってくれた一枚
翌朝、黒百合ヒュッテから天狗の奥庭への岩登り

翌朝は5時に目覚めて息子を起こし
僕「どうする?しんどかったら、このままゆっくり寝てのんびり下山でもいいよ」
息子「天狗岳に登りに来たんだから!絶対に行く!」
すぐに起きて湯を沸かして、僕はコーヒー息子はポタージュ、2人でパンを食べて早々に歩き出す。黒百合ヒュッテから天狗岳へのルートは2通りあるけど、僕たちのルートは一番乗りで誰もいない壮大な景色を2人で貸し切って歩いた。
八ヶ岳ならではの青空に雲の下に広がる茅野の風景、遥か先に見える北アルプスの山々。この景色を息子と見る為にここに来たんだ。

胸がスーってなる
東天狗と西天狗、今回は東天狗に登った

息子もこの景色を眺めてから俄然エネルギーに満ち溢れて、岩場のトレイルをズンズン進んでいく。もう天狗岳の山頂にはチラホラと人影が見えてきた。早朝に山の中を歩いてるだけでも、なんとも言えない充実感が湧き上がってきます。
まさに生き生きとしてくるんです。

後少しからが長く感じる

息子と初めて登った山は千葉県の高宕山です。その頃からを思うと、なんてしっかりとした足取りなんだ。むしろ頼もしく感じられる。ここから山頂で休んで、黒百合ヒュッテに下って、テントを片付けてって考えると先は長いけれどこの足取りを見て大丈夫って思えた。

下山時の一枚、疲労マックス

無事に山頂にも到着して肌寒くなったので防寒着を羽織って少し休憩。
天狗岳から広がる景色を眺めながら
息子「かあちゃんにもこの景色を見せてあげたいな」って言ってたのが印象的。
それから中山峠を経て黒百合ヒュッテに戻った時に雨が降ってきた。
テントに入り前室で湯を沸かして早めの昼食を食べました。ここまでの行動時間は約5時間。息子はすぐにでも歩き出したいって言ってたけど、明らかに疲れが出てきてるからテントでゴロゴロしようと。横になったらすぐに寝息を立てて1時間くらい昼寝しました。僕も少し寝たおかげで気持ちも引き締まり、ちょうど雨が止んだのでテントを撤収して小屋でポカリを買って12時に下山開始。
ここからが思ったより大変でした。なかば想像していたけれど、雨が降った後なのでとにかく岩が滑りやすい、木の根も滑りやすい。息子の歩幅だと一つの岩を降りるのにかなり時間がかかります。それでもゆっくり歩いても陽があるうちには下山出来るペースなのでとにかく慎重に。前日、登りの時に岩でおでこをぶつけてちょっと赤くなりました。それもあって滑ってこけたら大怪我につながるので要注意です。って言ってたら僕が滑って転びました。息子の前だから強がったけど、今もまだ少し足首が腫れてます。でも、僕が転ぶ前に息子はブーブーと文句ばっかりで。歩きたくない、お腹すいた、疲れたって。その都度、励ましたり休憩したり、ケンカしたり。
ところが、怪我をした後すぐに
息子「父ちゃんの荷物重かったら、ちょっと背負おうか」と言ってくれました。
その言葉に僕が励まされて、しっかりしなくてはと。
それまでグダグダに歩いていたのに、急にしっかりとした足取りでまるで、父ちゃん俺の後をついてこい!的な感じで、なんだか泣けてきました。
そんなこんなで、唐沢鉱泉手前の橋に着いた時には前日の笑い話(僕が煎餅を食べた後に口に煎餅がくっついていたまま歩いていて、橋で待ってくれていた人に笑顔全開でお礼を言ってた)で盛り上がり無事に駐車場に到着しました。
他にもまだあってモバイルバッテリーを持っていったにもかかわらず、コードを忘れて隣の人に借りたり。
終始「父ちゃんったら!」と言われながら歩いた旅でした。
2日間で約8時間の行動。息子は僕が思ってるよりも我慢強く、そして有言実行!
根性の強さは明香譲りかな。どっちかっていうと僕の方が弱音を吐くから。

きっとこの先、息子よりも先に僕が死ぬことになるでしょう。
その時に、僕が死んだ後にこの山での出来事を、息子が思い出して笑ってくれたら嬉しいな。物とかお金ってあまり重要じゃないと思うんです。
それよりも思い出や、記憶はずっと残ると思います。
だって、友人との思い出や記憶は忘れないし思い出すとやっぱり笑顔になる。
それは「生きる」ってどういう事なんだろうって。深く問いかけるきっかけにもなります。

親愛なる麻希ちゃんへ
またきっと会えるよね。
またボアダムスのライヴに行こうね。
一足先にのんびりしてて。
また呑みに行こうね。
また僕が酔っ払って会計できないと思うから、幹事よろしくね。
また明香と3人でご飯食べに行こうね。
天狗岳で夜中ふと目が覚めて星空をボーッと見てたら、近くに居るのを感じたよ。
また星空の下に行くね。
ありがとう。
出会えたことに感謝しかないよ。