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日本の社会に足りない労いの言葉

こんにちは! 米田 @ 富士通にてマーケティング変革実行中です。

最近、ニュースを見ていて2つ気になることがありました。企業や自治体の長のやり取りです。日本の組織に共通する課題を感じるとともに、自分も人ごとではなく気をつける必要があると改めて思いました。


東海道新幹線の事故復旧に対する愛知県知事の言葉

7月22日の早朝、保守車両同士の事故が原因で東海道新幹線が始発から運休し、名古屋駅と浜松駅間は終日上下線とも運休となりました。翌日から復旧したものの夏休み開始直後の乗客約25万人に影響しました。

報道記事によると、愛知県知事が翌日の定例記者会見で以下のような発言をしたとのこと。

愛知県の大村秀章知事は7月23日の定例会で、この件について言及した。 「大村知事は『JR東海は大いに反省し、速やかに原因を究明して再発防止策を徹底していただきたい』と、事故について言及しました。

外野から上から目線でコメントする知事に対して、SNS上では

「復旧に勤める現場作業員に、ねぎらいの言葉なし。こんな時は励ませよ!」
「あなた何様なの?感謝することはあっても文句言える立場じゃないだろう」
「現場の作業の大変さを全くわかってないくせに上から目線の偉そうな発言に腹が立つ。」

といったコメントが寄せられました。

検査不正におけるトヨタ会長とメディアのやり取り

 7月18日のトヨタ自動車会長の囲み取材での発言

「今の日本は頑張ろうという気になれない」
「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」

が切り取られ話題になりました。これは自動車の認定試験における不正問題で国交省とのやり取りの文脈での発言として報道するメディアもありましたが、実のところはメディアに対する苦言の文脈で話されたようです。

別の記事では2023年正月の挨拶でも、感謝されないことへの不満を口にされていることがわかります。

「ここ日本では、私たちに対して『ありがとう』の言葉が聞こえてくることはほとんどありません」

発言を見ていると、これも何も考えずに毎年単年ベアのみに注目するメディアに対する苦言と読み取れます。

毎年恒例ですが、年が明けると、春闘の話題が盛り上がってまいります。賃上げの議論では、「単年」の「ベア」ばかりが注目されてまいりますが、本来注目されるべきは、地道に続けている分配の実績だと思っております。

日本人は真面目だが他人にも押し付ける傾向あり

以上、最近の2つの組織における事例を見てきました。メディアを通しての情報なので、細部の表現には誇張があったり不正確な点があることを考慮したとして、「政府やメディアから企業に対して、功績を称えずに外野からの批判が展開された」事例であることは言えるでしょう。

日本と西欧を比べてみると、日本人は他人に対して、より厳しく評価をする傾向にあるように見えます。私が所属する富士通も、従業員12万人の約半数は日本人ですが、もう半分はヨーロッパを中心とする海外メンバーから構成されています。従業員満足度調査を行ってみると、スコアには大きな差が出ます。また、顧客向けイベントの満足度アンケートでも日本と西欧では大きな差が見られます。いずれも「日本人からのフィードバックのほうが厳しい」という結果です。

「日本人は勤勉に働く国民性」であると良く言います。伝統的な日本の大企業、官公庁・自治体・学校、士業など公共性の高い企業・団体に勤めている人は、特に真面目であると感じます。私も自分は真面目であるという自負がありますが、そんな私でもこれらの人々と話していると「何でここまでとことん真面目なんだ!?」と思ってしまうことがあるくらいです。😆💦

会議に参加していても、たとえばイベントがうまくいったことが報告されると実施メンバーからは「何か改善点やフィードバックはないのか」という声が最初に聞こえてきます。「せっかくうまくいったのだから、まずは称え合っても良いのに」と思ってしまいます。

しかし、これは同時に「他人に対しての基準も高い」ことを意味します。

自分がこれだけやっているのだから他人もそうあるべき。
真面目にやるのはあたりまえ。特別褒められることではない。

無意識のうちにこのように考え、他人に対しても「出来て当たり前」「完璧に出来た水準からの減点評価」となってしまいがちです。これは特定の企業・団体の中だけの話でなく、社会全体でそのような風潮であるように感じます。

時代は認める、労う、褒める言葉を求めている

この10数年ほど、「ゆとり世代」「Z世代」が社会に参加してからは、「上意下達」「問題を指摘して叱る」タイプのマネジメントから、「伴走型」「褒めて伸ばす」タイプのマネジメントに変わってきています。企業においても「従業員のウェルビーイング向上」「従業員満足度の計測と向上」が重要なアジェンダとなってきています。

私が所属する富士通でも、ここ数年の変革で伝統的なマネジメントスタイルからだんだんと近代的なスタイルに変わってきています。従業員満足度についても会社全体はもとより各組織でコミットメントのひとつとして掲げて、職場環境の向上を進めています。

最近、富士通ではテクノロジーの力を使って従業員満足度調査の結果を用いてデータ間の因果分析を行ったという試みを発表しました。データ分析の結果から、ウェルビーイングの領域で、「男性は心理的報酬のスコアが高いと他の項目も高まる可能性がある」「女性はチームワークなど周囲の環境がウェルビーイングに結びつく可能性がある」ということがわかり、マネジメントにも活かしています。

出典: 富士通プレスリリース

そして、「心理的報酬」とは、従業員の成果を褒めること、そしてその前に労うこと、認めること、です。「マズローの欲求5段階説」でいう第1段階/第2段階の「生理的欲求」「安全の欲求」は現代の社会人はほぼ満たされている場合が多く、第4段階の「承認欲求」には飢えている人が多くいます

日本の社会への処方箋のひとつとして、お互いに成果を称え合う文化を醸成し、お互いの承認欲求を満たしあうという行為が必要なのではないかと思います。これは私自身も自分事として日々の生活、業務の中で積極的に実践するように心がける必要があると、いつも反省させられることです。

メディアの変革も求められる

そして、日本の社会「全体」でこの行為を広げていくには、メディアの行動変容も重要になってきます。新聞・雑誌 (オンライン含む)、テレビといったマスメディアは比較的昔ながらの伝統的な働き方やマネジメントスタイルを継続しています。また、本来

「政府や社会的強者に対抗して監視する (叩く)」
「中立に情報を伝える」

といった伝統的なマスメディアの信条の下での取材も、インターネットとSNSの普及による「取材の民主化」で押されていてリソースが割けないのか、表面的で短期間の質の悪い取材による批判記事が横行しています。日本社会の行動変容を促すには、このようなメディアの働き方やマネジメントスタイルの変革が急務です。

現代ではマスメディアだけでなくSNSも大きな影響力がありますが、以下のような別の大きな課題を抱えています。

偽情報の拡散
主観的で感情的な情報の拡散

発信する個人の統制は難しいのですが、これはSNSインフラを提供しているプラットフォーマーが責任を持ってインフラの改善で対応すべき内容です。テクノロジーを駆使した安心安全で、より中立的なSNSメディアインフラの確立が求められます。

最後までお読みいただきありがとうございました!では、また!

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