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「牛乳は飲んだ方がよいですか?」への回答は?

前回のnoteで「食品〇〇は食べたほうがよい」「避けたほうがよい」という考え方はしないほうがよいですよ、ということをお伝えしました。

その理由は、健康維持のための食事を考えるのであれば、食品レベルではなく、食品に含まれている栄養素レベルで考える必要があるためでした。日々の食事を考えるときには、体に必要なその栄養素を必要な分摂取するためにどの食品を組み合わせて食べればよいかな?と考えればよいわけです。そして、その食品が苦手なら、替わりの別の食品で補えばよいわけです。そういうことから「この食品を食べないとダメ」ということにはなりません

この話を書いたきっかけは、ダイエットのアドバイスをしている企業の方から「対象者さんから『牛乳は飲んだほうがよいですか?』と聞かれたときに何と答えたらよいでしょう」と尋ねられたためでした。その回答はひとつではなく、その対象者さんの状況によって千差万別になりそうです。たとえばどんな場合にどんな解決策があるのか、紹介してみますね。



●ときには余分なエネルギー源に

たとえば、その対象者さんが少し肥満体型の男性だったとします。今後のことを考えてダイエットをしたいそうです。体重を減らすには、摂取するエネルギー量を今より減らし、消費するエネルギー量を増やす必要があります(文献1)。今より少しだけ運動量を増やす工夫をしてもらうことにしつつ、食事も見直すことにしましょう。

そこで食習慣を聞き取ってみたところ、毎日カフェラテを仕事中に2~3杯飲んでいるとのこと。砂糖は入っていない無糖のものを選んでいるそうですが、牛乳(普通乳)を使って作られています。1杯150 mLでその8割が牛乳となると、エネルギー量としては1杯で70~80 kcalほどありそうです(文献2)。それが2~3杯となると140~240 kcalとなります。これをエネルギー量ゼロの飲み物であるコーヒー、紅茶、緑茶などに変えれば、エネルギー摂取量が抑えられます。

聞けば、特にカフェラテじゃなければだめ、というこだわりもなく、コーヒーでもよいとのこと。それならばあえてカフェラテ(牛乳)にしないで、別の飲み物に替えることはできそうです。骨密度も今のところ正常値であるこの対象者さんにとって、カフェラテ(牛乳)は余分なエネルギーを摂取している食品である可能性があります。この方に「牛乳は飲んだ方がよいですか」と尋ねられたら、「間食としてのカフェラテで余分に牛乳からエネルギーを摂取している可能性があるので、カフェラテは飲まないで、コーヒーに替えてみましょうか」という回答が、ダイエットのためのひとつの解決策を伝えることになるかもしれません。

●飽和脂肪酸を含むという特徴

牛乳が含むエネルギー量がそれなりにある理由は、エネルギーを産生する、たんぱく質、脂質、炭水化物を含んでいるためです。そして、中でも脂質は1 gあたりのエネルギー産生量がたんぱく質や炭水化物に比べて高いですし、牛乳に含まれる脂質の大部分が、飽和脂肪酸という、体にとって摂取を抑えたい脂肪酸でできています。牛乳はそのほかに、カルシウムやマグネシウムといったエネルギーを産生しないミネラルなども含んでいます。

そんな牛乳を、日々のカルシウム摂取源として必要と考えて、毎日2杯、朝食時と昼食時には飲むことにしていた女性がいたとします。健康診断でLDL-コレステロールの値が高いことがわかりました。骨密度も少し低めです。LDL-コレステロールを抑えるためには、飽和脂肪酸の摂取をなるべく抑えておきたいところです。一方で、骨の健康のためにはカルシウムの摂取を減らしたくはありません(文献1)。

この方に「牛乳は飲んだ方がよいですか」と尋ねられたら、「普通乳ではなく、低脂肪または無脂肪の牛乳に替えるのはいかがですか」と回答する方法がありそうです。毎日普通乳を2杯となると、含まれている飽和脂肪酸を余分に摂取している可能性があります。低脂肪や無脂肪に変えると、その飽和脂肪酸の摂取量を抑えられます。そしてカルシウムなどの他のミネラルの摂取量は確保できます。

低脂肪や無脂肪の牛乳が好みでない場合は「牛乳を1日1杯までにしませんか」という回答もありそうです。それで牛乳からの飽和脂肪酸の摂取を半分にはできそうです。

●意外と多い!牛乳以外からのカルシウム摂取

そうして牛乳の摂取量を減らす、または飲まない、という選択をとったときに、多くの人が心配されるのが、カルシウムの摂取が不足するのではないか、ということのようです。けれども、まず、前回のnoteで説明したように、ひとつの食品に含まれている栄養素はたくさんあることを思い出してください。「牛乳 = カルシウム」のような式が成り立つわけではありません。牛乳を飲まなくなることによって減ってしまうカルシウムは、不足しないように別の食品で補えばよいわけです。

日本人がカルシウムをどのような食品から摂取しているのか確認すると、やはり乳類が28%で多いですが、そのほかに野菜類が17%、豆類が13%、魚介類が8%となっています(文献3)。ほうれん草や小松菜などの緑の濃い葉野菜や、納豆などの大豆製品、そして骨ごと食べられるにぼしや魚の缶詰などにもカルシウムは含まれています。それらの食品からカルシウムを摂取し、その量が十分であれば、わざわざ牛乳からカルシウムを摂取しなくてもよいわけです。

野菜も豆も魚も好きで和食中心に三食十分に摂取し、間食もあまりない対象者さんが、「骨の健康のために牛乳を飲みましょう!」という食情報を見て心配になり、好きでもない牛乳を飲み始めたとします。そんな方に「牛乳は飲んだ方がよいですか」と聞かれたら、それまでの牛乳を飲む前の健康診断の状況なども確認したうえで、特に問題がないような場合「飲まなくてもよいですよ」と答えてもよいかもしれません。

●そのときの最適な食品ならお勧め

一方で、健康診断の結果、骨密度の低下が見られたとします。食事の内容を記録してもらうと、いまひとつカルシウムの摂取量が十分ではないようです。どちらかというとやせ体型のこの方から「牛乳は飲んだ方がよいですか」と聞かれたら、エネルギーとカルシウムの確保のために「嫌いでなければ飲んでみるといいかもしれません」とお答えするのは問題ないと思います。ちょうどその方の状況から、「普段の食事に牛乳を加える」ことが簡単な解決策になりそうなら、牛乳はその方にとってはお勧めの食品になりますものね。

●まとめ

「食品〇〇を食べたほうがよいですか?」というおたずねに対して、誰にでも使える回答ってないんです。その人の今の食事の内容、健康状態、好み、生活習慣などに合わせて、その都度お勧めする食品とその食べ方をカスタマイズして食事のアドバイスは出来上がります。そして、そうしなければ効果はないと思われます。

「食品〇〇は食べたほうがよい」「避けたほうがよい」という食情報があったとしても、それは誰にでも効果がある方法だと思わないでください。どんな人の場合かな、その対象者さんにとってのお勧めかな、という視点を決して見落とさないようにしてくださいね。

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【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版案. 2024.
2. 文部科学省. 日本食品標準成分表2010年版. 2010.
3. 厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査. 2021.


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