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被災地にいない疫学者より:災害時の食事のポイント

2024年が始まりました。今年は、国の食事のガイドラインである「日本人の食事摂取基準(以下、食事摂取基準)」の5年に1度の改定を来年に控えて、2025年版が公表されます。栄養の実務に関わる人は必ず目を通しておいてほしいガイドラインです。現在活用されている食事摂取基準の2020年版(文献1)は、(一社)FOOCOMのサイト上のコラムで、2020年から34回にわたって解説をしてきました。第1回の記事はこちらです。

現在は2025年版の作成作業が佳境です。今年は食事摂取基準2025年版を絡めた話題もnote記事にしていきたいな、と思っていたところでした。

そんな矢先の2024年1月1日、帰省先である夫の実家の富山から東京へ戻ろうとしていたところ、我が家の家族は大地震に遭遇しました。北陸新幹線の駅で改札を通ろうとしたときでした。とても大きな揺れのあとは、大津波警報。2階の新幹線ホームへ避難してくださいと誘導され、しばらくの間ホームで過ごしました。その後、再度夫の実家へ戻り、3日後にようやく東京へ戻ってくることができました。幸い、家族や親戚の健康状態や家の被害はありませんでした。

一方で、揺れの大きかった地域では、避難所生活を強いられていると聞いています。食事は、災害時の命を守るときに意識しておかなければならないことのひとつです。こういった災害時の一時的な命を守るための食事と、日常生活を送っているときの健康の維持・増進のための食事を、同じ考え方で提供することはできません。食事摂取基準の本文にも、食事摂取基準に記述してある内容を災害時に誤って参照しないようにといった内容が「留意事項」として書かれています。災害時の食事の考え方、そして食事摂取基準がらみの災害時の食事の留意事項を改めて、まとめておきたいと思います。


●災害時の栄養補給のポイント

災害発生時に最初に確保しておきたいのが水、そしてエネルギー源となる栄養素です。エネルギー源となる栄養素で、運搬にも適しているのは炭水化物と脂質でできている食品であるおにぎり、パンなどです。続いてたんぱく質を含んでいる肉や魚を使った衛生面に配慮した料理が食べられるといいですね。そして、なるべく1か月以内に、水溶性ビタミンであるビタミンB1やビタミンCがゼロという状態は脱していたいところです(文献2,3)。

●災害時の食事摂取基準の留意点

一方の食事摂取基準(文献1)は、健康を保ち、改善し、生活習慣病などの病気にかからないようにするために、摂取すべき栄養素の量(基準値)を定めているガイドラインです。

このような視点で基準値を定めているために、災害時にもその状況を適応しようとすると、大きな問題がないにも関わらず、ある栄養素が足りない!といった、不必要な不安を引き起こすことになります。特に、ビタミンB1、B2、Cの基準値は、欠乏症を防ぐ量よりもかなり多めの量が基準値として採用されている可能性があります。どのように基準値を定めているか、そして、この基準値より不足しても慌てる必要はないことは、以下の記事で説明しています。


●栄養士や疫学者の役割

ところで、今回の地震に遭遇後、恩師の佐々木敏先生が東日本大震災のときだったか、「被災地にいない栄養士や疫学者は、冷静に情報を伝えるのが仕事だ」というようなことをおっしゃっていたことが脳裏をよぎりました。そしてちょうど同じころ、東京にいた研究室出身者も同様のことを考えていたようです。連絡を受けて私たちはすぐにX (Twitter) などを活用した情報発信を始めました。たとえばこのような発信で、災害時の食事に関して伝えました。

栄養業務に就く多くの人に届いていればいいなと思います。

●まとめ

災害時の命を守るための食事と、平時の健康の維持・増進のための食事は、注目しておきたいポイントが異なります。災害時の優先順位は、水とエネルギー、そしてたんぱく質、水溶性ビタミンです。健康で、それまで普通に食べていた人の場合、1か月ほどはそのほかの栄養素の欠乏の心配はないと考えられます(文献3)。栄養に関わる人が一緒になってこれらの情報を一般の人に届け、決していたずらに不安をあおることがありませんように。今被災されている方々が命を守り、健康を維持できるように、私もできる範囲で協力できればと思います。

追記:
こういった災害時の食事のポイントがエビデンスに基づいて言えるのは、まさに災害時に調査を実施し、データをとっていて、研究ができたからです。
そんな緊急事態の調査の大切さはこちらの記事で説明しています。


【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.
2. Tsuboyama-Kasaoka N, et al. Asia Pac J Clin Nutr 2014; 23: 505-13.
3. 佐々木敏. 栄養と料理 2016; 82(4): 81-5.



すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

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