見出し画像

Lidingö, 眺めの良い部屋

日本で一度も引っ越しをした経験がないのだけれど、ワーキングホリデーの1年間の間に3回引っ越しをした。そのなかでも一番長く住んだのはストックトルムの東側にある、Lidingöという島だ。秋から冬にかけて6ヶ月間住んだ。たぶん関西でいうところの芦屋みたいな地域で、高級住宅街が並ぶ閑静なエリアなのだけど、わたしが住んだのは約四畳半の小さな部屋だった。家主と学生数人とのフラットシェアで、壁がとても薄かった記憶がある。どれくらい薄いかというと、隣の部屋の携帯の着信バイブを自分のものと勘違いしてしまうくらいに薄かった。

それでもこの部屋に住みたかったのは、窓からの景色がものすごく綺麗だったからだ。11階にあり、海を挟んでストックホルムの中心部が見えた。いくつか港が並んでいて、さまざまな大きさの船がよく行き来していた。空も広く、時間帯によって赤にも青にもピンクにも黄色にも灰色にもなった。

晴れた日の夕方
真下を見るとこんな感じ。
この高さなのに部屋の大きな窓が全開にできてしまうことに気がついて初日にすくみ上がった。

この部屋はBlocketという、日本でいうところのメルカリみたいなサイトで見つけた。慢性的に住宅が不足しているストックホルムでは、大家さんから直接部屋を借りるのがとても難しい。よってワーホリやらでひょっこり来た人間は、すでに大家さんから家を借りている人から又貸し(セカンドハンド)という形で部屋を借りるか、同居人という形で誰かが住んでいる家の一部屋を借りることになる。Blocketは、そういう家や部屋を貸したい人と、借りたい人がやり取りできるサイトの一つだ。

この部屋の広告に載っていた窓からの景色の写真に惹かれて、家主にメッセージを送った。途中でいちどやりとりがパタリと途切れ、部屋の掲載も消えてしまったが、どうしてもこの部屋に住んでみたかったので頻繁にサイトに訪れては新しい空きが出ないかチェックしていた。

別の日の日暮れ

そんな時、全く別のサイトで、ピクニックイベントの開催者として家主の写真と名前が載っているのを発見した。純粋にピクニックもしたいし、部屋の空き状況についてきけるかもしれないとそのイベントに参加したところ、来月空きがでることが分かりその場で入居が決まった。思ったよりあっさり物事が進んだことに拍子抜けしつつ、小躍りしながら帰ったことを覚えている。

同居人はドイツ、ベルギー、イタリア、ポーランドなどほかの国から来た学生で、みんな結構シャイで、でも挨拶をするとにこやかに返してくれるいい子ばかりだった。学生とのシェアハウスといっても定期的にパーティーが企画されるなんてことはなく、たまに料理をする時間が被れば雑談するくらいの気楽な関係だった。日本から来て3ヶ月目くらいに、どうにもカラオケが恋しくなりギターを買ってしまった。隣の部屋のドイツ人に、部屋で弾いてもいい?と聞いたらもちろん!と言ってくれた。弾いていると、メッセージで “you play nice” とひとことメッセージが来てほっこりした。

窓辺に物をたくさん置いているのは、うっかり自分が窓を開けてしまわないためのおまじないだった

その後いくつか事情が重なり退去することになってしまったけれど、また部屋が必要ならいつでも連絡してね、と家主が言ってくれた。今のとこ住む家があるので必要はないが、たまにあの景色が恋しくなる。春と夏もきっと綺麗だろうな。また散歩しに行こう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?