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理想に出会う近道

ヤギを飼い始めてから、畑を荒らされるようになってしまった。

普段は綱に繋いで、草を食べて欲しいところへ連れていくのだけれど、ヤギ小屋を掃除する毎朝の短い時間は放し飼いにしている。

そうすると、綱を付けていないヤギたちは自由に動き回り、楽しそうにし、時には猛ダッシュで走り回る。たまにはバーッと運動をしたくなるようで、ノリノリのランニングタイムだ。

ただ、この放し飼いの時間に畑に侵入し、出たばかりの野菜の新芽を摘まれてしまうことがある。

「そこはダメ」

言えば多少はシュンとして、畑からソロソロと退散してくるけれど、数日するとまた忘れて入ってしまう。食欲と記憶力では、断然食欲の方が勝っているらしい。美味しい物を目にすると、とんでいってしまう。

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ヤギが大切な畑に誤って入り込まないように、畑の周囲に柵を立てることにした。

柵を立てると言っても、自分たちで開墾した畑のサイズやヤギの背丈にぴったり合う柵など市販品で売っているわけもなく、結局自分たちで作ることにした。

材料にしたのは、敷地内に好き放題生えている竹。

田舎暮らしをしていると「あるもので作る」といった考え方が生まれやすい。竹はまさにそれで「これだけあるんだから何かに使えるでしょう」という判断になる。そんなわけで、竹を使って柵作りがスタートした。

竹を切り、枝を落とし、半分に割り、土中へ埋めて最後にビス打ち。

とても地味な作業で、完成まで三日間かかった。一日は夫と一緒だったけれども、二日間は一人でやったからなおのこと大変だった。何度も重たい金槌を振り下ろすから、握っている手の親指が痛くなった。

誰かがやってくれたらラクだなあ、買ってきて置くだけならラクだなあ、作業しながらいろいろと弱音を吐きそうになる。

そうこうしているうちに、柵が出来上がった。

もしも市販品でなんとか調達しようとすれば、お金はかかるし、寸法が合わなくて苦労したかもしれない。自分で作れるならばそちらの方が、応用が利いて良いこともある(見た目は悪いけど)。

田舎には幸い材料は山ほどあるのだから、あとは気力と体力の問題だ。

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柵を作ってからは、ヤギたちは畑に侵入しなくなった。

柵作りの目的を何とか果たすことができて安心している。これでヤギの放牧タイムは引き続き確保されることになった(もしも柵がうまくいかなかったら、しばらく放牧は無し、と考えていた)。

作ることは大変だ。こうがいい!と贅沢に思い描いてその通りにするのは、想像以上な手間がかかる。

けれども、自分で作るのが一番「理想のもの」と出会う近道のような気がする。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。