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田んぼの質感

梅雨に入ってから田んぼが綺麗だ。

日本では大体5月に田植えを行う。稲を植えたての田んぼはまだ稲が小さく細いから、果たして田んぼに苗が植わっているのか、いないのか分かりづらい。

田んぼには水がたっぷりと注ぎこまれていて、まるで海のように光を反射する。5月の田んぼ道を歩いていると、なんだか広い水辺にいるような感覚になる。

それが2か月もすれば苗はぐんと大きくなって、海に見えていた景色はなくなる。一気に透き通った緑色の絨毯に変身する。柔らかそうな稲の質感。

風が吹けば稲は毛皮を身に付けた動物のように、ふさふさとなびく。

遠目から田んぼを見ると生き物に見えてしょうがない。撫でたい。犬みたいによしよししてあげたくなる。7月の田んぼの質感はとてもよい。

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自分にしかないお気に入りの「質感」って結構誰にでもあるのかな、と思う。

今はもう捨ててしまったけど、幼稚園~高校にかけて大切にしていた枕カバーがあった。その枕カバーはシルクのようにつるっとした触り心地で、手の中でくしゃくしゃにすると気持ちがよかった。

「また枕カバー触ってるの?」

母によく指摘された。

母の友人に外国人男性がいて、その人にも言われたことがある。彼の友達にも、好きな布をくしゃくしゃに撫でるクセがある人がいるよ、ということだった。

彼はその行為を英語で「アックアック」と名付けていると言った。正直どんなスペルか分からないし、たぶん彼の造語。だけれども外国人にも自分と同じようなクセがある人がいるのだと、ちょっと嬉しくなった。

枕カバーを捨ててからはもうそのクセは無くなってきたけど、今でも枕カバーに似た質感の布に出会うと「アックアック」をしてしまう。手の中でくしゃっと……。くしゃっとしてどうするわけでもないのだけど、それが気持ちいいのだ。

その人にしか分からない好きな「質感」がきっと誰にでもあるのだと思う。そういえば今日夫が新しい服を着て出かけた。

「新しい服、着心地はどうだね?」

「サラサラしてる」

そう言って夫は新しい服のお腹らへんを軽く撫でた。あっもしかしてそのサラサラが好きな質感なのかい?と心の中で思った。

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7月の柔らかそうな田んぼを見て「質感」の話をしたくなった。

これからまた稲はどんどん大きくなって、秋にはお米が実り収穫だ。その頃には柔らかくてふさふさした感じではなくなっているだろう。お米の重さで稲穂は垂れて、ずっしりとした様子になっているはず。

稲はあっという間に姿を変えてたくさんのことを感じさせてくれて、なんとも面白い植物だ。


そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。