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自分にしか見えない風景

「この風景ってきっと今の自分にしか見えていないよなあ、貴重だなあ」という瞬間は、きっと誰もが味わったことがあるものだと思う。

例えば、旅して素晴らしい景色に出会えたりするのはもちろんだけど、出産の時や、仕事で目標達成した時なんかもそうかもしれない。ゆっくりゆっくり味わいたい高揚感というか、空を見上げたくなるようなのびのびした感じ。

でもそういう瞬間は、意図して迎えるものではない。突然見えるものだ。

自分にしか見えない風景。誰もがこういうものを持っている。例えば他人にその風景の話をしても、もしかしたら理解されないこともあるだろう。そんなことが特別に見えたの?って。

だから自分にしか見えない風景をわざわざ大衆に向けてお披露目なんてしたくないし、する必要もないだろうと思う。他人に持ち掛けても幸せにはなれない。

自分にしか見えない風景を感じながら、自分に正直に生きていくということ。そういう生き方はとても静かである。

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ご縁あって始めたカヌーももう5年目になる。定番のカヌー仲間も決まってきて、今年から月一で定例の練習会が開かれることになった。

カヌーが好きな理由はとても単純で、自然が近いアウトドアスポーツだから。

船のすぐ真下を見れば小さな魚が泳いでいるし、綺麗な川であれば透明感を体いっぱいに感じることができる。ここは東南アジアだったかしら?と思わせるような雄大な崖と森をすぐ近くで眺めながら船を進める。

場所によっては川の綺麗さよりも、地平線の美しさを味わうこともある。

先日の練習会ではそんな感じだった。雨も降っているし風が強い日で、もう漕げないムリと何度も思ったけれど、遠くに目をやれば地平線が広がっていて。

ああ今の自分にしか見えない風景だなこれは、って感じた。

その風景のことを、カヌー仲間には言わなかった。もしかしたら同じように感じていた人が一人くらいはいたかもしれない。それは分からないけど、気が付けば静かな時間が流れていた。

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言う言わないは自由だ。とっておくかシェアするか、それも自由だ。それでも確かにみんながみんな、当人しか見えない貴重な風景を大切に持っているはずで。

その瞬間を見過ごさず丁寧に味わうことが、大きな安定を作っていくような気がするんだ。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。