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鴨と過ごした三十日

庭で偶然カモの卵を発見し約三十日が経過した頃、予定通りにカモの親子は引越していった。正確には引越しの現場を見てはいないから、無事にヒナが孵ったのか、水辺に到着できたのかどうかは定かではない。

ただ産毛と思しき柔らかな羽が巣に残されていただけで、それ以降は一切姿を見なくなった。鶴の恩返しではないけれど、絵本の物語に出てくる動物みたいにいつの間にかスッと消えてしまった。

草原のかげにそっと隠れて卵を温め続けたカモを見られなくなるのは寂しいけれど、こうしてカモと過ごした三十日は終わりを告げた。

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カモが庭にいる間中、なぜか心がいつもわくわくしていた。朝起きるのが楽しみになったし、雨が降ると「カモが喜ぶかも」と少し嬉しかった。

ユーチューブでカモの引越し動画をたくさん見て学び、日本全国でカモが愛されていることを知った。都市部の小さな池でも引越しの様子が見られるらしく、警察がカモのために交通整備をしている姿には思わずクスッとなった。

カモが庭に巣を作ってくれたことで、野鳥が安心して巣作りできる環境は一般家庭でも作り出せるのでは、と感じた。もちろん人里離れた山や川で巣作りできたらそれがベストなのだろうけれど、自分が暮らしているここは湖畔の町であって、人と野鳥がどうしても近くで生活することになる。

だからこそ庭をもっときちんと整備して、野鳥が安心して卵を産んだり育てたりできるような、繁殖に貢献する場所になったらいいと思った(もちろんヘビやハクビシンなど天敵がいるのも事実だが)。

生き物をそばに感じる暮らしが面白い。

カモと過ごした三十日間、心が理由なく震えている感じがした。人が毎日を楽しく新鮮に生きるには「感じる」ことがとても大切なんだと思った。

頭でメリットやデメリットを考えながら取捨選択をするのではなく、ただ感じて震えることも大切なのだと教えてもらった。

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カモが三十日間使っていた巣

野鳥の住処と言えば、やはり鳥の巣箱は効果的らしい。鳥が好む方角や条件があるらしいのだけれども、それでも巣箱を設置することで利用してもらえる可能性は十分あるそう。これから木の端材を使って鳥の巣箱などこしらえてみたい。

大人の夏休みの自由研究は、野鳥観察になりそうか。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。