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小説「若起強装アウェイガー」第11話「谷川岳の仮御所」

治英は白鹿丸に連れられて黒の館へ向かうことになった。白鹿丸について歩く治英だが、体のダメージが大きく回復にも時間がかかるため、歩くのもつらい。若起を解けば治英自身はただの中年男のため、見た目の悲壮感はより増した。

白鹿丸「本来であれば、私はお前を倒さねばならん。黒の館の人間としてな。だが私は、その黒の館を裏から支える連中に疑念を持ってしまった。天子様は、新しい御代を創られるにふさわしいと信じてきたし、だから今まで戦ってきた。だがそのには、何の証拠も根拠もなかったんだ。このまま何も知らぬままアウェイガーと戦うというのは、おもしろくない。全てを明らかにし、これからの私の生き方は私自身で決めることにしたのだ」

白鹿丸の言ってることの半分くらいは、治英にはよくわからなかった。
治英「なぜ俺を巻き込んだ」
白鹿丸「お前は強い。味方にとなれば心強いし、敵にまわしたくはない」
戦力としては役に立つ、と亜衣に言われたことを治英は思い出した。それが自分の存在理由なのか。アウェイガーになるまで、全く言われたことの無い言葉だった。

黒の館に到着した二人を待っていたのは、重傷を負った蒼狼丸が自分で手当てをしている姿だった。
白鹿丸「何があった。牛若丸か?博士はどこへ行った」
蒼狼丸は黙って博士の手紙を渡した。
天子様の御動座に同伴するため牛若丸とともに仮御所へ向かうと書かれていた。黒田博士が今さら自発的にそのようなことをするはずはない。博士は人質となったのだ。

蒼狼丸「俺も体が動くようになったらすぐ行く……博士を頼む」
白鹿丸はうなづくと治英とともに黒の館の裏口へ向かった。仮御所へ通じてるのだ。
蒼狼丸「ちょっと待て。なぜアウェイガーが一緒なんだ」
白鹿丸「借りを返してもらうのさ。こいつは強いしな。」

治英と白鹿丸は、仮御所へ通じる道というか、岩という岩をロッククライマーばりにわたっていかなければならなかった。
たまらず治英は若起した。若返った心身と体を守る強装で、ようやく白鹿丸のあとについていくことができた。
治英「こんなの、普通無理だろ。人間の通る道じゃない」
白鹿丸「それゆえ誰も近寄れぬ。天子様を外界から守るには最適の場所だ」

途中、あちこちに死体があった。白鹿丸は眉をひそめた。
治英「遭難者か?そのわりには軽装のようだけど・・・」
白鹿丸「あれは、黒の館の同士、純良種[カタロスポロス]だ。仮御所への侵入者を防ぐために潜んでいたのだが、あきらかに何者かに倒されている。牛若丸がやったと思いたくはないし、その理由も思いつかんが、では誰が・・・?」

過酷な地形を乗り越え、二人は仮御所に近くの渓谷に着いた。
白鹿丸「あの岩壁を超えると、仮御所だ」
そう指差した岩壁の向こうから、牛若丸が姿を表した。
牛若丸「何をしに来た」
白鹿丸「博士をどうした」
牛若丸「手紙を読んでないのか」
白鹿丸「博士はもうこの戦いに疲れていた。今更御動座などに同意するものか」
その時、別の男が博士を連れて岩陰から現れた。スーツ姿の西洋人だ。

セロ「我が名はセロ。お前たち全員、CIAに従ってもらうぞ。でなければお前らが父と慕うこの男は一瞬であの世行きだ」
白鹿丸「どういうことだ牛若丸!なんでCIAと一緒にいる?」
牛若丸「天子様の御動座は、CIAの庇護のもと行われることになった。これで、我が国体の正常化は確実である」

白鹿丸「孝明天皇の血筋の天子様を担ぎ、日本をあるべき姿にするんじゃなかったのか」
セロ「そうとも、新たな天子様は牛若丸を摂政としてこの国を治める。その牛若丸は、今や我らCIAの忠節な下僕だがな」
白鹿丸「裏切ったか!」
牛若丸「お前に言われたくはない!」

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