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小説「若起強装アウェイガー」第12話「天子様の正体」

牛若丸は二人に笛で超音波攻撃をした。若起していた治英は獣の動きで岩壁沿いにかわしたが、白鹿丸は攻撃をモロに受け、全身を切り刻まれた。白鹿丸もまた手をすり合わせた気流攻撃で反撃。だが傷を受けており全力を出せない上に、牛若丸が笛の音波で作る空気の壁に阻まれ、全くダメージを与えることができなかった。

牛若丸「戦えばこうなることはわかっていたはずだ。純良種[カタロスポロス]としての能力は僕のほうが上だからね。死にたくなければ、我に従え」
そう。牛若丸は無拍の動きで予備動作無く笛での攻撃を行う。超音波攻撃の射程距離では、白鹿丸は牛若丸の指の動きを見てから反応しても間に合わないのだ。

だかそこで、牛若丸は全く意識の外から巨体に襲いかかられた。蒼狼丸だ。傷の手当てを終えた蒼狼丸がやってきたのだ。牛若丸の背後からものすごい腕力で体を締め付けると、そのまま笛も潰してしまった。

蒼狼丸「これで文字通り、手も足も出せまいっ!」
牛若丸「離せっ!こっちには博士が」
そう牛若丸が言った瞬間、セロの左腕に仕込まれたコインマシンガンが二人を乱れ打ちにした。蒼狼丸は背後から牛若丸を締め付けていたため、ほとんどのコイン弾は牛若丸に命中した。その勢いで二人は岩壁の割れ目へ落ちていった。

セロ「役に立たん連中だ。これではせっかくの人質が・・・」
二人に気を取られたセロのスキをついて、慧のゲノムカード・狼の力を得た治英がその俊敏性で博士を奪い返した。治英は博士を担ぎ、白鹿丸のもとへ戻った。
白鹿丸「博士・・・」
黒田博士「すまぬ、すまぬ、すまぬ」
全身を切り裂かれ戦闘不能の白鹿丸に対し、博士はただ謝るばかりだった。

治英は間髪入れず、セロに向かっていった。右腕の伸びる手刀が、シャッ!シャッ!と何度も治英の強装をかすめた。
治英「細かいことはわからんが、二度とアメリカに日本を占領などさせないっ!」
セロ「細かいことはわからんなら、黙ってヒッコんでろ!」

慧のゲノムカード・狼の力で治英の強装にはいくつもの牙が生えていた。それを利用して肘打ちをしかけた治英であったが、視界からセロの姿が消えた。
治英「?!」
全くの死角から、セロはナックルダスター付きのパンチをぶち込んだ。まさしくイスナーニのスピードで、相手を探し戸惑う治英の常に死角から攻撃を何度も加えた。その威力はイスナーニより強く、一発一発が強装を通じ大ダメージを与え続けた。

セロ「お前がハル・ノートに載ってなかった男か。だがその存在も今ここで消える!」
コークスクリューパンチをセロが治英に発した瞬間、それを待っていたかのように治英も決定的な技を出した。
治英「ダイナマイトフィストォー!」
二人のパンチは同時に相手に命中したが、ただでさえ若起のあと時間が経って強装が弱くなってるところに、セロの攻撃で強装の粉塵が大量に宙に舞い、セロを焼き飛ばすがごとき強力なダイナマイトフィストが発せられた。コークスクリューパンチの反作用で飛ばされたセロは爆発して死んだ。

セロとの戦いで治英の強装はすでにボロボロとなり、若起を解くまでもなく崩れ砂となった。その中に砂金のような輝きがあったことには気づかなかった。
黒田博士の手当てで立って歩けるようになった白鹿丸の元に、蒼狼丸が牛若丸を担いで崖のそこから上がってきた。
蒼狼丸「死んじまった。俺が殺したようなものだ」
戦わざるを得なかったとはいえ、同じ黒の館の同士を死に追いやってしまった。蒼狼丸の心には罪悪感と後悔が残った。

四人ははじめて仮御所へ入った。天子様にお使えする伴のものが邪魔をするが、彼らはスポンサーである、旧幕府軍、旧皇族、旧華族、旧財閥といったところから遣わされてきたなんでもない普通の人間だ。戦闘力はない。彼らを追い出し、御座所の御簾を乱暴に外すと、そこにいるのはまだ小学生にもなってないような男の子だった。ろくに話すこともできず、きちんと教育を受けているかも定かでない。
白鹿丸「この子が・・・孝明天皇の子孫だって?」
それ以上、言葉が出なかった。
黒田博士は知っていたかのようにうなだれ、かつて自分がそうしてきたように、どこか身寄りのない子を連れてきて利用したのではないかと想像し、慙愧する。
蒼狼丸は、やり場のない怒りを必死に我慢した。
治英は、子供を騙して大人の道具にするのは良くないという教科書的な憤りは感じたが、それ以上の、三人それぞれが持つ感情は想像できなかった。

その子を連れて黒の館へ戻ると、蒼狼丸は牛若丸の墓を作った。
蒼狼丸「いまさら、だがな・・・」
天子様だった子供は三人で育てることにした。
アウェイガーほどではないにせよ、自然治癒力の高い純良種[カタロスポロス]の二人は、あらためて黒田博士の手当てを受け、体を休めている。
白鹿丸「確かに、借りは返してもらったぞ」
蒼狼丸「お前は、どうするんだ」
治英「白の館へ行きます。もうアウェイガーはほとんど生き残ってないにせよ、白河博士が健在なうちは、国会議員皆殺し計画もまた行われるでしょうし。それに・・・あそこには救いたい人がいるんです」
そして心の中で、誰にも聞かれないようにつぶやいた。
「世界でたったひとり、俺の存在を認めてくれる人が」

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