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最後の日の事:その1

いつも、先に起きるのは向こう。仕事の関係上、朝早く夜は早い。バタバタと着替える物音の後に、家の猫に話しかけている声が聞こえる。ひとしきり家猫を撫で終わった後、化粧をしながらお茶を飲んでいる。とにかく朝はバタバタしてせわしない。そして、出勤時間になり普段であればそのまま玄関に直行してドアの閉まる音で出かけた事を確認するのだがその日に限っては珍しく、まだベッドで寝ている私のところに来てハグして行って来ますと言って出かけて行った。

それが、動いている姿を見た最後だった。四月の下旬のここ数日は、非常事態宣言も真っ只中で本来であれば私はこの時期、広島に行く予定だったがスケジュールがバラしになり丸々暇になってしまっていた。。

仕方ないなと思いながらもしばらくはのんびりと過ごしていた。ここ最近は自宅で御飯もあまり食べていなかったので久しぶりに作って食べる機会もあり普通に過ごしていた。

終業時間

そして、その日も普通に過ごしていたが、向こうの終業時間間際に電話がかかって来る。。出ると聞いたことの無い男性の声。

同僚の男性の方の声で、仕事場で、倒れてしまい救急車を呼んで今、処置をしてもらっているとの内容。。え?

そして救急隊員の方が電話を変わり、現在心肺停止で蘇生処置をしているとの事で、普段常用している薬はありますか?持病はありますか?と聞かれ言われるままに答えた後、受け入れ病院が分かりましたら連絡するので出れる様にしていて下さい。と言われ電話が切れる。

用意をしながらこの時は、蘇生すると思っていたので、とりあえず直ぐ出れる様にしてついたら入院の用意をしなければいけないなと思いながら心配ではあったが戻ってくる前提で物事を考えていた。

どうにかなると。

そして、再度電話がかかってくる。電話の中で、他に持病はありませんか?と執拗に聞かれる持病はあるにはあるがもう伝えていた内容で他には特に無いと思いますと伝えると、救急隊員の方が、現状出来る処置をいくつか行なっているが心音が戻ってこないと言われ、電話口でも、救急隊員の方の深刻な雰囲気が伝わってくる。収容病院の場所も教えてもらいすぐ向かう事に。

直ぐに、車に飛び乗りナビに病院を入力して、出発する。そして車を走らせながら段々と胸がドキドキして来る。どうして、今こんな状況なんだろうか?帰ってこれるのだろうか?体が震える。ああ、向こうのお家にも連絡しないと。直ぐに連絡をし、ちょっと分からないから来た方が良いと伝え電話を切る。。。

車を走らせ、段々と胸が苦しくなる。運転しながら、普段特になんとも思っていないのに「神様、お願いします、お願いします、まだ持っていかないで下さい!」と何度も呟いていた。それでも、心の何処かでこの時は帰って来ると思っていたから、まだ入院の事なども一緒に考えていた。

病院に着いてから

本当なら、病院の駐車場に入れなくてはいけないだろうが、病院のロータリーに車を止めて直ぐに受付に向かう。

少しお待ちくださいと言われ、その後、医者に呼ばれ話を聞きに診察室に入った。

心肺停止に対する蘇生処置を二時間にも渡っていくつも行なったが現状戻ってこない状態。CTスキャンでの、肺の状態は、心臓マッサージなどをかなり行なっていたので、白くなっていた。脳は特に出血は起こしていない。持病の場所も直接の原因とは考えづらい位置。

そして、この後、もし蘇生したとしても、高い確率で脳死状態であるとの事。処置をこれ以上続けるのか、止めるのか決めて欲しいと言われた。

私は、まだ多少でも時間のリミットに達していないのならお願いしますと伝え、本当の最後の可能性に掛ける事にした。

こう見えても、結構運は良い方だし、まだ最後まで諦められなかった。そうこうしている間に、私の両親も駆けつけて待つ時間が暫く続いた。。

続きます。。

では。




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