成長するIT企業がラボを持つことの意味

人工知能によるイノベーション

Appleの時価総額が1兆ドルを突破したという。米国上場企業で初らしい。また、米国上場企業の時価総額ランキングも、Appleを筆頭にAmazon、Microsoft、Alibaba、Google、Facebook、とIT銘柄が続く。ありきたりな話で恐縮だが、このような未来をインターネットバブル崩壊の頃に予測できた人間は果たしてどのくらいいたのだろうか。

さて、こうした企業が熱を入れて投資している分野が人工知能である。そして、その中でも重要視されているのは言うまでもなくDeep Learningである。各社はDeep Learningの基礎・応用研究、DeepLearningのためのチップセットの開発、TensorFlow、DSTNE、CNTK、ONNX等のライブラリ開発、既存サービス・プロダクトでの活用や新規プロダクトの開発など進めている。

また、米国企業だけでなくAlibaba、Baidu、Tencent等の中国のIT大手も力を入れている。Baiduは、Appoloと言う名前の自動運転のためのソフトウェアをオープンソースで開発しているし、PaddlePaddleと言うオープンソースのDeepLearningライブラリを開発している。Baidu及びAlibabaはAI chipの開発やAI企業への投資を積極的に行なっている。

そして、Appleは横浜へAI研究のためのハブを開設。また、GoogleのAI研究Topを引き抜いた。GoogleはGoogle BrainというAIを研究するチームを持つ。マイクロソフトは、Microsoft Research AI(MSR AI)と言うAI研究専門のラボを、FacebookはFacebook AI Researchを持つ。AlibabaはAlibaba A.I. Labsを持っている。

国内ITベンチャーも研究機関を設立する流れ

さて、最近インハウスの研究機関を設立する国内ITベンチャーが現れてきている。古いところ(?)では楽天が2006年に楽天技術研究所を設立、Yahoo!Japanは2007年にYahoo!Japan研究所を、リクルートは2012年にリクルートテクノロジーズ社を設立し技術にフォーカスした研究開発を行なっている。

2013年以降は、人工知能に関する研究開発を推進する部署、研究所(ラボ)が創設された。ドワンゴ(2014年ドワンゴ人工知能研究所)、サイバーエージェント(2016年:AI Lab)、DeNA(2016年:PFDeNA)は比較的古い部類だろう。サイバーエージェントのAI Labは人工知能学会での研究発表や、大阪大学基礎工学研究科 石黒浩教授らとの共同研究も進めておりアカデミアとの結びつきも強い。

以降、ワークスアプリケーションズ(2017:ワークス徳島人工知能NLP研究所)、M3(2017年:エムスリーAIラボ)、メルカリ(2017年:mercari R4D)、マイネット(2018年:mynet.ai)、スタートトゥデイ(2018年:スタートトゥデイ研究所)らが研究機関を設立している。クックパッドのように社内に専門部署を立ち上げている会社もある

非上場企業でもDeepLearningに関するアクティビティは高まっている。最近ではスマートフォンアプリの解析・マーケティングツールの提供を行うRepro社もラボを開設した。今年6月にはグルーヴノーツは大手企業と共同でOPEN AI LAB(福岡)やOPEN AI LAB TOKYO(東京)を開設している。

MIRU2018で見たIT企業ラボのレベルの高さ

日曜日から札幌で開催されている第21回 画像の認識・理解シンポジウム、通称MIRUという学会主催イベントへ参加していた。MIRUとは、Meeting on Image Recognition and Understandingの略である。例年は10社程度らしいが、今年は30社程度の企業がブースを出展している。もちろん弊社も出展させて頂いた。

多くの会社が自社の人工知能に関するアクティビティをポスターやデモの形で展示し、質問があれば解説していくスタイルである。弊社もAMD社製GPUを用いたDeepLearningのクラウドコンピューティングサービスの会社なので、AMD社製GPUを用いたDeepLearningのデモを行うなどさせて頂いた。

そして、弊社ブースへ上記研究所(ラボ)等を含むITベンチャーへ勤務する方々が遊びに来てくださったので情報交換させて頂いたのだが、正直なところレベルの高さに驚かされた。私の経験上で言えば、数年前まではITベンチャーではお目にかかることがなかったであろうレベル感の方々である。そうした方々がITベンチャー内で研究開発を行なっている。

ひとくちに研究開発と言っても実業と大きく乖離した研究開発をしているわけではない。技術の潮流は見つつも実戦へ投入できそうなものはどんどん投入している。そして、DeepLearningの技術はまだまだ使い方が明らかになっているとは言い難い。多少なりとも使えそうな技術についてはどんどん試してみて経験を得ることが重要である。

企画と経営はテクノロジーとカルチャーの潮流を無視してはならない

以前、私はあるIT関連の東証マザーズ上場企業で新規事業を生み出すロールを持った立場で働いていたことがある。その際、革新的な技術やコンセプトがリリースされるたびに創業者CEOへ説明していた。Bluetoosh-low energyを用いたiBeacon、Oculusを用いたVR技術、人工知能、シェアリングエコノミーなどである。CEOは概念が理解できるまで何度も質問を繰り返し理解した。

この結果、CEOはあらゆる意思決定が早かった。もともと0からビジネスを立ち上げることに長けている人間である。技術の概念と使い所を理解したらとにかく意思決定のスピードは早い。iBeaconを用いたプロダクトを開発する際も、まずは実証実験というところで「子会社のレストランで試してみよう」と言い出したのは彼だった。

また、シェアリングエコノミーの理解も素晴らしく早かった。私はシェアリングエコノミーの流れを説明する際、クラウドコンピューティングの流れのコンテキストとして「所有から利用へと大きなパラダイムシフトが生まれている」と説明した。彼はすぐさま多くの若者たちへ所有欲の有無や背景をインタビューし、あるサービスのコンセプトを作り出したのだった。

これらの経験から、大小を問わず、いち早くチャンスを掴みに行きたいのなら、企画を立てるロールの人間と経営サイドの人間は少なくとも技術の潮流は理解しているべきだろうし、カルチャーの大きな流れも把握していなくてはならないと感じている。日本という国は技術サイドからビジネスの企画はほとんど立たない。たいてい企画や経営から生まれる。そして、Go or Notを判断するのは経営である。

成長するIT企業がラボを持つことの意味

上記のような理由から、少なくともそれなりの規模を持った企業であるならば、自社に関係のありそうなテクノロジーやカルチャーの潮流をウォッチする専門のロールを持った人間なのか部署なのかは必要であると提言したい。それがAIラボである必要性は必ずしもないものの、技術の潮流をしっかり追っていれば人工知能は絶対に無視してはならないことはわかるはずだ。

繰り返しになるが、事業やPR等、各種企画を立てる人間や経営サイドの人間は常にテクノロジーとカルチャーの潮流をウオッチしておくべきである。しかし、一人の人間に与えられた時間は1日24時間しかないのも事実である。その時間を割いて情報を収集することができるかと言えば、それは正直難しいのではなかろうか。

ならば、自分の代わりに自らが必要とする情報を深いレベルで理解し、濃密な情報をインプットしてくれるロールの組織なのか人なのかは必要ではなかろうか。将来、収益を生む可能がある。そして、何かをしたいと思った時に身近なところで検証までを進めてくれる専門の人間がいる、いないでは初速があまりに違う。新しい技術に精通した人間というのは常に取り合いである。

それに、背景にある情報をいちいち説明するのは面倒だし、場合によっては秘匿性の高い情報を扱わなくてはならない場合もある。そうした情報を社外にだすのは得策ではないかもしれない。様々な事情を考慮しても近しいところに技術を理解して、レギュレーションを理解していて、最低限そのままPoCまでできる人間がいるということのメリットは大きいはずだ。

最後に

先月の世界経済フォーラム(WEF)の選出した「世界で最もイノベーティブなスタートアップ、61社」をみると、何と言っても人工知能関連の企業が目立つ。猫も杓子も人工知能の時代が遠くない将来、必ず到来すると確信している。

関連記事:

https://www.businessinsider.jp/post-172566

https://sites.google.com/view/miru2018sapporo/

https://www.businessinsider.jp/post-170705

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?