(起業家的)セレンディピティの幻想
2022年12月24日(土)快晴。
クリスマスですね。
甲斐家は子供が4人居りますので、サンタさんに向けて手紙が窓に貼りまくられています。そんな(どんな?)クリスマスに相応しい、セレンディピティと呼ばれる不思議な幸運の話について、少しお話しできればと思います。
では改めまして。
セレンディピティという言葉を聞いた事はありますか?
wikiによると、
と定義されているようです。
自然科学的なセレンディピティの事例は、有名なところで言うと、ポストイット(付箋)の発明や、バイアグラの開発などがありますね。
イメージとしては、「え?そんなつもりで作ってなかったのに、こんな用途があった!?」で爆発的にヒットした。とか、「あの人、不思議な縁や運を持ってるよね。」とか。そういう類の、幸運な偶然を手に入れる力や能力とでも言うのでしょうか。
私自身、確かにセレンディピティと言える経験が多いです。思い返せば、本当に不思議な縁や運に恵まれてここまで生きてこれたような気がします。また、周りの起業家の先輩たちや友人も含めて、このような力を持った人が多いなと感じています。
実際、少し検索するだけで、「成功者の絶対法則」というような形で書籍化もされていたりしますし、「ビジネスで注目される・・」というような記事も散見され、実際にその存在に注目が集まっていることがよくわかりますね。
しかし、そんな中で、本日お話ししたいことは、
セレンディピティはあくまで【ゲームの裏技】のようなもの
だということです。
では、私の経験を踏まえて、順を追ってお話します。
まず、いくつかのエピソードを。
全て書くことは不可能に近いので、時系列で書けるところまで書いていきます。
創業メンバーとの出会い
ちなみに私は非エンジニアの創業者です。
10年間ずっとトレーディングに勤しんできました。
資産運用は比較的得意ですが、起業、組織、エンジニアリング、労務、人事、、、正直はじめは何もわかりませんでした。
デザイナーやエンジニアに知人がいるわけでもなく、ソフトウェア開発の右も左もわからない状態で起業しました。
しかしFOLIOは、とっっっても優秀なクリエーター達と共に、創業することができました。
勝手にメンバーを実名で紹介(+少し不正確な表現がある可能性もあります)しますが、
今、デジタル庁にいることは知ってますが、正直、何してるかわからんくらい多岐にわたって活躍しているデザイナーの広野くん
FOLIOの後、Amazonでも活躍し、今はとあるスタートアップの米国立ち上げをしている竹村くん
サイバーエージェントで若手トップクラスの出世頭だったインフラエンジニア澤田くん
今もFOLIOの資産運用アルゴリズムの根幹を支える京大数学科出身の天才廣瀬くん
バークレイズの同僚で、マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータサイエンス出身でFOLIOの証券取引システムを0から創り上げたKomsit
現在、ROBOPROというFOLIOの基幹プロダクトのPdMを任せている山口
最後に、一時はFOLIOの社長も担ってもらったバークレイズ時代の優秀な後輩だった梶原くん
控えめに言っても最高ですね。
そんな仲間達と、どうやって出会ったのか。
きっかけは忘れもしない2015年9月1日(私、34歳の誕生日)。
創業の3ヶ月前です。すでに梶原とは起業のアイデアを毎週末、家で練りながら、あーでもないこーでもないを繰り返していた時でした。
そんな折、⑥山口から「誕生日おめでとうございます」というメッセージが届きます。実は山口との出会いは、彼が東京大学在学中に、バークレイズ証券のインターンに来ていたというものでした。しかし、インターン以降は連絡もほとんど取っておらず、本当に久しぶりの連絡でした。ただ、そこでふと、彼が、数学が異様に得意だったことを思い出し、良いきっかけと思い、以下の質問を投げかけます。
動きは可能な限り早く(大事)、次の日には家の近くの居酒屋で飲みながら、事業の構想を話していました。山口も(タイミングよく)起業を考えていたようで、とんとん拍子で一緒にやる話が進みます。
しかし、そこから皆んなで何度も会って起業準備を進めるのですが、まだここまでFOLIOエンジニア、仮で1名(Komsitを誘っている最中)
このまま行くと普通?の金融の会社になりそう。。。
そんな中、ダメもとで山口にデザイナーに知り合いがいないか尋ねたところ、「非常に有名なデザイナーがYahooにいます。」と言うではありませんか。早速の早速(大事)、六本木の「サイゼリア」にて、起業アイデアを話します。このエピソードは広野のブログnoteにも書かれています。(ちなみに偶然にも広野は山口と学生時代に一緒に事業をしていた仲間だったとのことでした。)
途中の採用プロセスは省きますが、この山口⇨広野との出会いから、広野にYahoo同期のエンジニア竹村を紹介してもらいます。そして、竹村の大学同期だった澤田の採用、澤田のサイバーエージェント&大学の同期だった廣瀬への採用と繋がっていきます。文字通り芋づる式なご縁です。
まさに、「芋づる式」セレンディピティ。
そう。イモヅレンディピティ。
ここでみなさま。これって単なるリファラル採用じゃない?
そう思った方もいるかもしれません。
違うんです。
本当に私がここしかないと思ったタイミングと、彼らが転職を考えていた(少なくとも頭にあった?)タイミングがバッチリ合致したという、努力ではコントロールできないタイミングの妙がそこにあった。
結果、創業前の時点でデザイナー・フロント・バック・インフラ・証券システムのTopエンジニアが見事に揃いました。(奇跡)
現実的には、自らがどれだけ動いても、人脈を広げても、「自分が会いたいタイミングで」「自分が求めていた人物像と(名指しではなく)出会うことができて」「出会った相手との自分のタイミングがバッチリ合う」ということはほとんど起きません。
Open Mindや、人脈を広げる、自ら動くという努力だけでは説明できない、意図せぬタイミングの合致という部分がセレンディップの重要なポイントかなと思います。
ここで一点誤解して欲しくないことは、「Open Mindで、積極的に動く。常に情報を持っておく。特定の人物や会社の動きを察知し、いいタイミングでアプローチをかける。」という類のものは、セレンディピティとは考えていませんが、それ自体は起業家として非常に非常に重要な行動だと思います。
シード投資家との出会い
FOLIO社は、創業時に3億円の資金調達を行っています。
投資家はDCMとDNX(敬称略)と言う、世界的にも著名なVC2社でした。
2015年末という時期はまだ資金調達環境も成熟・加熱しておらず、起業経験のない私がいきなりそんな超有名VCから3億というお金を調達できたことは、ほとんど奇跡に近かったと思います。(起業経験のない私は、そもそも両社を知りませんでした。。汗)
では、どのようにして、私はこの最高の VC2社と出会うことができたのでしょうか。
きっかけは、創業を決めてから参加した数少ない会合であるWharton SchoolのAlumniの集まりでした。結論としては、そこでDCMの原さん、DNXの倉林さんと同時に出会うことになります。(ちなみに私はWharton Schoolのようなピカピカの大学院は出ていません。)
では、なぜ、そのような縁もゆかりもない会合に出ることができたのか。
それは、これまた偶然、エンジェル投資家でもあるGS時代の先輩からお声がけをいただいたランチの席で、当時DNXで(アルバイトとして)働かれていたWharton出身の方と知り合い、近く集まりがあるからおいでよとお声がけいただいたのがきっかけとなりました。
優秀な創業時の仲間たちの出会い。世界トップクラスのCapitalistとの出会い。偶然が偶然を呼んだつながりが、FOLIOの原型を創り上げ、今に繋がっていると強く思っています。
「4RAP」というFOLIOの基幹プロダクト
先日リリースを出させていただきましたが、
FOLIOは2022年上半期の投資一任契約(ファンドラップ・ロボアド)の新規契約件数において、日本一となりました。
その背景には 4RAPというSaaS型システム提供サービスの存在があります。この4RAPというものは、日本ではかなり珍しい形でサービス提供を行っており、「自社のロボアド基盤そのもの」を対外金融機関に提供することができるのです。
これをSBI証券に導入してもらったことによって、SBI証券口座をそのまま用いてファンドラップの提供が可能となり今回の結果を生み出すことができました。
しかし、元々この基盤は、対外的に基盤提供をするために作られたものではありませんでした。
実は、LINEさんとの協業サービスのために、お客さんの声に答えるために、既存システムの外側に新たに1年以上かけて作り上げたシステムだったんです。
あくまでお客さまの声に応えるために新たな機能実装をして出来上がったロボアド基盤が、今やSBI証券様や愛媛銀行様をはじめとして、日本全国の金融機関がロボアド・ファンドラップ事業を展開するための非常に有効なシステム基盤として全然別の形で広がろうとしています。
まさにセレンディップの典型的な事例とも言えるのではないでしょうか。
上記は事業においての話でしたが、プライベートでも、学生時代にバイト先のお客さんに家庭教師で雇ってもらった先が、日本を代表する任天堂の山内さんのお家だった。とか、現メルペイCTOの曽川君とかも、ものすごく偶然、彼が学生の頃からご縁をいただいていたり、よく考えると、私の人生は本当に素晴らしいご縁をいただいてきました。
さてさて、ここまで長く書いてきましたが、本題はそこではありません。
起業家的セレンディピティの「幻想」
です。
そろそろ、まとめに入っていきましょう。
ここまで色々なエピソードを書いてきましたが、起業家的な目線ではセレンディピティというものは、ゲームチェンジの力でも、ゲームクリアの力でもなく、単なる【ゲームの裏技】でしかないのではないかと考えています。
わかる人にはわかると思いますが、数多くのゲームでは裏技を使うと自分の残機を無限増やせるという裏技が存在します。普通であれば、5回死んだらゲームオーバーの所、100回死ねるんです。まぁ、簡単にいうと挑戦し続けることができる裏技です。それ以外にも、スタート時点で無敵状態で始めることができる。そんな裏技も存在します。
では、これを起業に落とし込んで考えてみましょう。
いい仲間と偶然出会うこと、いい投資家と偶然出会うこと、いいプロダクトに偶然出会うこと、しんどい時に力強いサポートに出会うこと。全て起業にとって非常に重要な要素だともいます。
私も、これによって、素晴らしいスタートダッシュができたり、しんどい時に助けてもらったり、と、本当に恵まれてきたと思います。
しかし、もっともっと重要なのはその後です。
いい仲間と出会った後に、仲間を増やし、しっかりとマネージし、それを組織に変え、自律的に大きくなるフレームワークを作り、1つの会社が有機体として同方向に向かって一気にスケールしていくことの方が、圧倒的に難易度が高く、重要です。(もちろん創業メンバーでFOLIOをやめた仲間達もそれぞれのFieldで大活躍してます。)
また、いい投資家ほど、厳しい目を持っています。投資をしてもらうために、良い投資家と出会った後に、死ぬほど準備をしなければなりません。出会うことも重要ですが、そこからしっかりと投資をしてもらうこと。そして、投資をしてもらってからは、より事業価値を創り上げ、しっかりと投資リターンを返すこと。そっちの方が何倍も何十倍も難易度が高く、そして大切です。
いいプロダクトの種に出会うことはとても重要です。しかし、初期プロダクトをどうGTMさせていくのか。GTM戦略を練り上げ、微に入り細に入り実行に落としていく。ビジネスモデル、プロダクト、マーケティング、営業戦略も含めて同時に綿密に作り込み、チームで一気にやり抜く。MVP、PMFから、Growth、GrowthからDominant。その難易度の方が何百倍も高いし重要です。
あくまで、ここまで書いたセレンディピティという幸運は、人より有利な条件で何かを始めることができたり、苦しい時に奇跡的なサポートに出会うことができるという話です。
表現が正確かはわかりませんが、100機持っている状態で勝負し続けることができる運、もしくは死にそうになった時に、ゲームを巻き戻せる運です。確かに、挑戦し続けることができるというのは、起業家にとって圧倒的に強い武器です。
ただ、
本当の意味で結果を残すことは、死ぬ気の「気合と根性」でしか達成できないのではないかな
と思います。
最近よく、起業家の大先輩の方々とご一緒させていただきます。
本当に結果を出されている方々ばかりで、みなさんもセレンディピティの塊のような方々ですが、それ以上に、それに感けることなく、視座高く、常に会社のために弛まぬ努力をされていると思います。
同じゲームでも、上手な人は1機でゲームクリアする人がいます。
入り口で100機持っていても、途中で力尽きる人もいます。
大切なのは、ゲームの裏技を知っているかどうかではありません。
そんなものがなくても、ゲームクリアに到達する人は数多く存在します。
セレンディピティというものは成功において、非常に大切な能力なのかも知れません。
しかしながら、これだけは言えると思います。
起業家的セレンディピティの「幻想」の真意でもありますが、、
セレンディピティは万能の力ではありません。
成功の必要条件でも、十分条件でも、ましてや絶対条件なんかではありません。
私も創業メンバーとの出会いが今につながっていて、彼らがいたからこそ今があると思いますし、DCM、DNXのみならず、SBIさんやLINEさんのサポートで今があります。
本当に偶然のタイミングでの出会いの塊が、私に何度も、そして素晴らしい形で挑戦し続けるというチケットをくれました。
ただ、結果を出すために本当に必要なのは、愚直に歯を食いしばって挑戦し続ける力であり、こだわり続ける姿勢であり、そこに裏技はない。
と強く思っています。
諦めたらそこで試合終了ですよ。
そんな、安西先生の声が聞こえてきそうな、メリークリスマス。
ではみなさま、
師走のお忙しい中で、ご一読有難うございました。
良いお年を、お過ごしください。
2022年12月24日(土)
甲斐真一郎 拝
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