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「わたし達はおとな」難しくて身勝手だった覚えたての恋愛

「わたし達はおとな」をNETFLIXで観た。
気にはなっていたけれど、モラハラ男の映画だと聞いていたので、過去の痛い記憶がほじくり出されてしまうのが怖くて、観るのに覚悟が必要だった。
結果、主軸となる問題は自分が経験したこととは違ったので、客観的に観られる場面が多かったが、もう思い出したくもない過去の誰かと重ねてしまう場面もあった。とにかくリアルで生々しくて苦しい映画だ。

STORY
大学でデザインの勉強をしている優実(木竜麻生)には、演劇サークルに所属する直哉(藤原季節)という恋人がいるが、ある日、自分が妊娠していることに気付く。悩みながらも優実は直哉に妊娠と、ある事実を告白する。直哉は将来自分の劇団を持ちたいと願っていた。現実を受け入れようとすればするほどふたりの想いや考えはすれ違っていく…。まるで隣の男女の生活を覗き見しているような不思議な映画体験で私達をスクリーンに釘付けにし、その切迫感と「圧倒的にリアリティのある日常」を突きつける本作。同じ時を過ごして、お互いを求めたあの時、そして今、お互いが分からなくなって…

映画『わたし達はおとな』|「(not) HEROINE movies」オフィシャルサイト (notheroinemovies.com)


⚠ネタバレと感想⚠

この映画は特別で珍しい物語ではなくて、本当にどこにでもあるような話。よくいる男と女の話だったと思う。
直哉の言動は、あからさまな暴力や暴言ではなく、常に冷たいわけでもない。表面的にはたまに優しい。でも、いつも相手を自分の思い通りにしたくて、彼女という存在は、自分の言うことを聞いてくれて当たり前だと心の底で思っているのが透けて見える。
映画の冒頭から、具合の悪い優実が台所に立ちご飯の準備をしているのに、直哉はゴロゴロしていて、そこから心がざわざわした。途中、つわりで具合が悪くなった優実に対しては、「予想できなかったの?これはらはちゃんとしよう?」と、諭すような言い方しているところは、優実のことを思って掛けた言葉など1つもなくて、どれも自分にもう迷惑を掛けないでほしい、という思いから湧いて出てきた言葉だった。
優しいふりして、全然優しくないとこが本当に怖い。知らないうちに2人の間には優実が直哉に従うという上下関係が出来ていたと思う。

優実は押しには弱くて、考えていることを相手にあまり言わないタイプ。言いたいことを飲み込んで、家族の訃報さえ直哉に伝えることはない。
そして、大学でのガールズトークはいつも恋愛の話。輪の中にいるためには、恋愛していることが条件のようだった。顔がタイプの直哉と付き合っていることが嬉しくて、少しの違和感は目をつぶっていたはず。
優実は、直哉が嫌いなグリーンピースを食べられるように味付けを変えて献立を工夫したりする。若い時は自分も未熟なのに、相手の子供っぽい部分が目について、自分の方が大人だと思った途端、何かしてあげようという使命感が生まれることもあるだろう。
年齢を重ねれば、相手を変えることの難しさを知るけれど、自分が頑張った分だけ相手が応えてくれたり、相手が変わってくれるかもという期待感は若い時の恋愛ほど大きかったと思う。

この映画を観て「避妊しない時点で、責任感ないし、大人とは言えない」「彼氏がクズ」「彼氏は避妊しろ、彼女は拒絶しろ」とか、そういう正論で片づけるのは簡単なんだと思う。その通りだけど、それで終わってしまう。実際はそんな正論で片付けられないこともあるはずで、どうしてこんな関係性が「あるある」で、モラハラ彼氏と言いたいことを飲み込む彼女の構図がありふれてしまうんだろうと悲しくなる。

同じ経験をしたことはないけど、同じような男と付き合ったことはあった。私も同じように自分の言葉を飲み込んで、何も言えず、何も言わずに、何カ月も付き合っていた。
まだ本当にお互い未熟だったから、彼氏ならこうしてほしい彼女ならこうするべき、好きならもっとこうしてほしい、好きならもっとできるはず、ってそれぞれの物差しで測って、押し付けられたり押し付けたり、自分を押し殺してひたすら我慢したりしていた。

恋愛って本当に難しかったな、と思う。自分の思いを伝えることも、考えをうまく伝えることも、私にはできなかった。だからこそ、静かにしていれば、日々は前に進んでいた。そんな時期があった。意思もなく流されていたわけではなくて、意思があったからこそ、分かり合えないことが苦しかった。
今思えば、価値観も追いついてはいなかったと思っている。私が週末に友達との予定を入れていたり、連絡が遅れたら、彼氏はブチ切れた。周りに相談したところで、「私がもっと連絡返さないから相手も寂しくてエスカレートするんだよ」と言われたこともあった。
ここには書けないような色々なことで、相手の考えを押し付けられ、私の考えは間違っていて従うべきだと要求され続けていた。終わりにしたいと言うのも怖くて言えなかった。
「私が合わせたらいいのか、、、」と当時は思ったけれど、お互いの妥協点を話し合おうとしても理解されず、何よりも自分が優先されるべきで、いつも合わせるのは私の方だったのは、どう考えても正しくはなかったと今になったら分かる。

あまり後味も良くない映画で、当時の痛くてヒリヒリした想いを思い出してしまう物語だったけれど、多くの人がこんな身勝手な恋愛を経て、だんだん大人になっていくものなのかもしれない。

2024/05/01


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