無職転生
去年の今ごろは、新しく始めた職場に少しずつ馴染んでいった時期だ。僕は昨年、警備会社に務めていた。それまでアルバイトを転々としたり、福祉就労の経験しかなかった僕には、新鮮でとても勉強になる職場だった。職場の人間関係にも恵まれていた。一言にいって、いい感じだったのだ。普通の職場で普通に働けるという自信にもなった。けれど、服用している精神科の薬を止めてしまったせいで、調子を崩した。結局、軽い躁状態になって、自ら辞職してしまったのだ。
大きな失敗をしたと随分後悔した。僕は振り出しに戻ってしまったのだ。無職が楽しかったのは最初の3ヶ月だけだし、それも躁状態でハイテンションになっていたからだ。
なにもやることのない、一人暮らしのニート生活は地獄だった。はじめ、幻聴の名残りもあって、憂鬱気分だったからしかたがないが、社会と関わりが持てなくなったことを自覚し始めたのだ。
つまらない、面白くない、どうでもいい、とという考えが頭に浮かぶ。死ぬ気などないくせに、死にたいという言葉が頭から離れない。
近頃、病院のデイケアで他人とよく話すようになって気づく。俺、久しぶりに会話してるなぁ、と。仲の良い友人もできた頃から、また、元の自分に戻っていく感覚をおぼえた。
9月、A型事業所で気になる職場があるから、そこで雇ってもらうことになるだろう。
2年程、そこで働くつもりだ。2年後、力が残っているようならば、もう一度、一般雇用にトライしてみたいと思えるようにもなった。
躁状態の反動で大きな落ち込みを感じているときには、もうなにもやれることがないと俯いていた。A型事業所より一般雇用のほうが仕事は面白い。給与も当然多いし、やりがいがある。去年、微力ながら一生懸命働いてそう思った。とても、充実した日々だった。今度は、双極性障害をオープンにして働ける、市役所などの障害者雇用がいいだろうか。
薬を止めることなく働く。そうすれば、きっと大丈夫と信じたい。体調はかなり良くなっている。若いから回復力があるのだろう。医者からも、すぐまた一般就労するようになると、言ってもらえている。
なにより、僕は割と暇が嫌いなのだ。一生懸命やれることをいつでも探しているし、何もしないと、つまらない。たとえ、辛くても働けるうちは働きたい。
普通に働くということの幸福を、あれ程体感していた僕なのに、薬をやめてしまったばかりに、マンションで燻っている。
同じ失敗は繰り返さないぞ。
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