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第58回理学療法士国家試験  午前6-10の解説

息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。

                  
 
 6.Aから照射される極超短波の強度がBの何%か。ただし、cos30°=0.866とする。なお小数点以下の数値が得られた場合には、小数点以下第2位を四捨五入すること。(58回午前6)


1.10.8%  2.21.7%  3. 43.3%        
4.86.6%  5.172.3%

                    【答え】2

【解説】この問題は線源Aは線源Bに比較して、①距離が2倍になっていることと、②角度が傾いていることの2つの影響があるという事です。(図では角度30°のところが、cos30°と記載されていますが、間違いです。)

①距離が長くなっている事による影響
一般に照射の距離と強さの関係ですが、光の強さは距離の2乗に反比例します距離逆比例の法則といいます】(下図のように距離が2倍になると照射面積が縦に2倍・横に2倍になり照射される面積が4倍になるので、照射強度は1/4になります)

これは線源AおよびBがそれぞれ皮膚に対して垂直に照射した場合の強度です。今回はそれに加えて、30°の角度がつけられています(したがってさらに強度は弱くなるはずです)。


②角度の影響について
 角度の影響としてはLambertの余弦(cos)法則というものがあります。
 これは角度をつけた場合の光量*(照射面積ではなくエネルギー量と考えてください)は垂直に照射した場合の光量に比較して、垂直線からの余弦(cos)に比例するという法則です。
 比例というとイメージしずらいですが、余弦 (cos)は通常0〜1の値なので、垂直での光量にくらべcosの値に比例して小さくなるという事になります。

下の図で説明します。照射面に垂直の位置から光を当てると、垂線に対して0°となり(cos 0°=1.0となり)、光量×1.0で光量は変わりません。
それに対して、照射面に対して平行に光を当てると、cos 90°=0となって、光量は0になってしまいます。

①のように、垂線に対して30°の位置から光を当てると、cos 30°=0.866となり、元の光源の86.6%のエネルギー量に減ってしまいます。②のように垂線から60°傾けるとcos 60°=0.5となり垂直よりも半分の光量となってしまいます。

余弦(cos)などがでてくるとちんぷんかんぷんになってしまいますので、どう考えたらよいのか考え方を紹介します。
下の図のように垂線から30°の角度をつけた場合のcos 30°は、元の光線(赤色)に対して、垂直成分(緑色)を求めている事になります。下図のような直角三角形の辺の比(1:2:√3)からcos30°は√3÷2となり0.866となります。これは円周の半径である赤色線の光が30°傾いている事により、垂直成分は赤色の0.867の割合に減っている事を意味します。

結局のところ、面に垂直にあたる緑矢印の光線のパワーは、円周をたどるように面に角度をつけることにより、面に対しては赤矢印の光となり、光線のパワーも赤矢印の長さのように光線パワーが減少するという事なのです。


したがって、実際の光線のパワーは距離の影響の1/4に0.866をかけた値(0.25×0.866=)0.2165となり、答えは2という事になります。

【類似問題】これは51回午前40の問題です。
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極超短波治療の図を示す。Aに対するbの強度はどれか。(51回午前40)

1.1/2  2.1/4  3.1/6  
4.1/8  5.1/16

この場合も距離が2倍になっているので距離の影響は1/4、傾けている効果は垂直線に対しては60°(30°は水平線に対する角度です。垂直線に対しては60°になります)傾いているため、cos60°となり、cos60°=1/2=0.5となります(30°・60°・90°の直角三角形の辺の比は1: 2: √3でした)。
cosの計算がわかっていなくても、右の図で20cmの斜辺(円周)の長さが垂直成分では10cmになっていることから10/20=0.5 (1/2)という事になります(垂線部分を求めると考えれば余弦の定理を覚えなくても良いですね)。
結局のところ1/4 ×1/2=1/8 答えは4という事になります。
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覚えておくべき事は①距離の影響と②角度の影響があるという事ですね。

7.両眼を強く閉眼するように指示したところ、左眼の兎眼がみられた。同じ脳神経の障害で生じる症状がどれか。(58回午前7)


                    【答え】3

【解説】この問題のキーポイントは兎眼(とがん)ですね。何それっていう感じです。兎眼とは「まぶたを完全に閉じることができず、いつも目が少し開いたままになってしまう状態のこと」です。 兎眼という病名は、「うさぎは目を開けて寝る」という言い伝えがもとになっているそうです。うさぎは目がいつも少し開いているから、目が赤いって覚えたらどうでしょうか?
したがって簡単にいえば兎眼=顔面神経麻痺ですね。

それぞれの選択肢を見てみましょう。
1.右方視したときに、左眼が右に向いていません。左眼を内側に向かせる脳神経は動眼神経なので、これは動眼神経麻痺の症状です。

2.普通に開眼したときに、左眼が十分に開眼できません。開眼をさせる神経も動眼神経になります。

 ちなみに開眼させる神経は①動眼神経(眼瞼挙筋)と②交感神経(ミューラー筋)の2つがあります。眼瞼挙筋は上眼瞼にしかありませんが、ミューラー筋が上眼瞼と下眼瞼にあります。眼瞼挙筋は上まぶたを上に上げる作用しかありませんが、ミューラー筋はまぶたを上下に開く作用があります(うーん細かいけど、こういうところの違いがわかっているかが国試問題として問われやすいのです)

 下図のように、動眼神経麻痺では上まぶたが下に下がるだけですが、交感神経障害によるHorner症候群では、ミューラー筋が筋力低下することにより、上眼瞼が下に下がる(軽度眼瞼下垂)に加えて、下眼瞼が上がり、最終的に上まぶたと下まぶたの距離が短くなる(眼裂狭小化)となります。この違いが結構重要だったりします。

 瞳孔については縮瞳は動眼神経、散瞳は交感神経であるため、動眼神経麻痺では散瞳、交感神経障害(Horner症候群では縮瞳になりますね)。

3.歯をむき出しにしたときに、顔の左側の頬が十分に動いていません。これは顔面神経麻痺によるものです。

4.あーっと発声したときに、健側の軟口蓋が挙上し、口蓋垂が健側に偏位しています(これをカーテン徴候といいます。これ重要です)。嚥下に関連する運動は迷走神経になります(感覚は舌咽神経になります)。

5.舌をまっすぐ出すように指示したときに、舌が麻痺側である左に偏位しています。舌の運動は舌下神経です。

これらから正解は3となります。この問題から脳神経の役割をもう一度いろいろ勉強するようにしましょう。

8.53歳の女性。自転車走行中に転倒、受傷し、鎖骨骨幹部骨折に対して観血的整復固定術が施行された。術後のエックス線写真を別に示す。術後翌日の患側の理学療法で正しいのはどれか。(58回午前8)

1.手指運動を行う
2.患部に超音波療法を行う
3.肩関節挙上の等張性運動を行う
4.全身の安静のためベット上で行う
5.他動で肩関節の可動域訓練を行う

                     【答え】1

【解説】鎖骨骨幹部骨折に対してプレート固定術が行われています。問題は手術翌日というタイミングです。このような問題では「これをやってもよいか、だめか」という視点で選択肢をみていくと正解にたどりつく事が多いです。

1.手指運動を行う:○
 逆に「手指運動をやってはだめか?」と考えます。手術翌日なので、肩は固定が必要です。肩を動かすと、鎖骨も連動して動き、固定部の安静が保てません。しかし肘は肩を固定するならOKかもしれません。手指はどうでしょう。鎖骨部に影響ないので、積極的に動かすべきですね。

2.患部に超音波療法を行う。:×
 超音波は骨折治療によく用いられます。骨折の治療を早めると言われているからです。
 「超音波骨折治療法は、四肢(手足を含む。)の観血的手術、骨切り術又は偽関節手術を実施した後に、骨折治癒期間を短縮する目的で、当該骨折から3週間以内に超音波骨折治 療法を開始した場合に算定する」となっています。
 算定するというのは保険適応され、保険で治療する事が認められるという意味です。今回は鎖骨骨折であるので四肢に該当しません。
  
 59回はこれを元に、「四肢の骨折に早期に超音波療法を行う」というのが狙われるかもしれません。

3.肩関節挙上の等張性運動を行う:×
 鎖骨骨折の術直後に肩の運動を伴うリハビリは避けた方が良いでしょう。これが関節運動を伴わない等尺性運動という選択肢なら迷うところですが、等張性運動は完全に×です。

4.全身の安静のためベット上で行う:×
 鎖骨骨折なので、体幹や下肢は影響ありません。また鎖骨部の安静は必要ですが、全身の安静を強要すると廃用症候群になる恐れがあります。

5.他動で肩関節の可動域訓練を行う:×
 術直後は鎖骨や肩の安静が必要です。しかも他動で強制的に動かすのはだめです。国家試験では「他動運動によるリリハビリ」はほとんどの場合、誤りになります。


9.55歳の女性。趣味でジョギングを行っている。変形性膝関節症に対して手術療法が行われた。術後のエックス線写真を別に示す。術後の理学療法で正しいのはどれか。(58回午前9)

1.金属を抜いてからスポーツ復帰する
2.骨癒合が得られるまで完全免荷とする
3.術後から外側が高い楔状足底板を使用する
4.術後早期から大腿四頭筋の筋力増強運動を行う
5.術後2週の安静後に患側膝関節の可動域訓練を行う

                    【答え】4

【解説】
 左膝OAに対して高位脛骨骨切り術&プレート固定術が行われています。骨切り術では脛骨を楔形に骨を切りとり、プレートで固定することで、O脚を是正します。膝の手術の場合は、安静により下肢に深部静脈血栓症を起こしやすいので、持続的関節他動訓練器(CPM:continuous passive motion)も用いて、荷重せずに膝を動かすリハビリが行われます。

1.金属を抜いてからスポーツ復帰する:×
 骨癒合がみられ、荷重が可能となれば、徐々にスポーツ復帰も可能となります。プレートを抜くのは術後2〜3年後ぐらいですので、そこまで待つ必要はありません。

2.骨癒合が得られるまで完全免荷とする:×
 通常、術後1週目ぐらいから1/2荷重とし、徐々に荷重量割合を増やしていきます。ある程度荷重する事により骨折部が圧縮されて、骨癒合も促進されます。

 次に挙げる57回午前13では脛骨高原骨折の問題があります。脛骨高原骨折では、骨折により骨折面がガタガタになっています。そのため、荷重をかけるのはかなり後にあります(PTB装具使いますね)。しかし、OAに対する骨切り術では骨切りした面はスパッっときれいな平面なので、荷重を遅らせる必要はなく、むしろ早めに荷重をかけて骨癒合の促進を図ります。57回午前13をしっかり勉強した方はむしろ迷ったかもしれません。このあたりが国試の罠だったりしますね。

3.術後から外側が高い楔状足底板を使用する:×
 手術で変形は矯正されているので、楔状足底板は不要です。

4.術後早期から大腿四頭筋の筋力増強運動を行う:○
 大腿四頭筋は歩行に関してとても重要な役割を持ちます。大腿四頭筋は下腿のあらゆる手術で筋力低下をきたしやすく、術後リハビリで筋力低下をきたさないようなトレーニングが必要です。よく用いられるのはパテラセッティングと呼ばれるトレーニング法です。下肢に荷重をせずに大腿四頭筋をトレーニングできるので、とても有用です。(実習でもかならず遭遇するので、受験生のみなさんは勉強しておいてください)。

5.術後2週の安静後に患側膝関節の可動域訓練を行う:×
 術後2週間も安静にすると、膝が固まってしまいますし、深部静脈血栓症のリスクが高まります。

【類似問題】57回午前13にも似たような趣旨の問題がでていました。
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76歳の女性。脛骨高原骨折。転倒して受傷し、人工骨を用いた手術を施行された。術後のエックス線写真を下に示す。術後の理学療法で正しいのはどれか。(57回午前13)

1.術後翌日から極超短波治療を行う。
2.術後翌日から足関節自動運動を行う。
3.術後翌日から膝関節伸展の等張性筋力増強練習を行う。
4.術後2週からCPMを行う。
5.術後2週から全荷重歩行を行う。

・類似問題(57回午前13)の解説
脛骨高原骨折に対してプレート固定されています。
1.術後翌日から極超短波治療を行う:×
 プレートが入っているので極超短波治療はだめです(高熱になるため)

2.術後翌日から足関節自動運動を行う:○
 膝は術後翌日は安静が必要ですが膝以外の足関節の自動運動はすべきですね。足関節を動かす事により、下腿三頭筋が収縮するので、深部静脈血栓の予防にもなります。

3.術後翌日から膝関節伸展の等張性筋力増強練習を行う:×
 下肢の術後では大腿四頭筋の筋力低下が起こりやすいために、術後大腿四頭筋(膝関節伸展筋)のトレーニング(パテラセッティング)は重要ですが、術直後は等尺性の運動ならかまいませんが、関節運動を伴う等張性の筋力増強運動を術翌日から行うのはだめでしょう。この等尺性と等張性の違いが58回の設問となっていますね(実はその設問を予想して、今回的中しました)。

4.術後2週からCPMを行う:×
 CPMは術後早期から行うべきです

5.術後2週から全荷重歩行を行う:×
 高原骨折は骨折面がガタガタになっているため、荷重をかけるのを遅くします(完全免荷が3〜4週、その間、PTB装具をつけます)。術後2週で全荷重するのはどう考えても早すぎますね。
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10.60歳の女性。図のような状態で右中指の使いづらさを訴え受診した。自動関節可動域角度はDIP屈曲45°、PIP屈曲30°、伸展-45°、MP屈曲80°、伸展0°であった。この指の変形はどれか。(58回午前10)

1.Z変形       
2.鉤爪変形     
3.ボタン穴変形
4.Krukenberg変形  
5.スワンネック変形

                    【答え】3

【解説】
 慢性関節リウマチの手の変形・足の変形は頻出ポイントです。
 以下の変形はすべて覚えてください。またスワンネック変形とボタン穴変形に対する指ナックルベンダー装具も勉強しておく必要があります。

1.Z変形:母指のIP過伸展なので×
2.鉤爪変形:尺骨神経麻痺に伴う鷲手の事ですので×
3.ボタン穴変形:下参照
4.Krukenberg変形:尺側偏位のことを別名こう呼びます。すなおに尺側偏位と書いてくれれば良いのですが、意地悪な国試ではわかりにく方で出題されます。
右手で考えると手首が尺側に曲がるとKの形に見えるのでKrukenberg=尺側に曲がると覚えたらどうでしょうか?
5.スワンネック変形:下参照

 問題文では「自動関節可動域角度はDIP屈曲45°、PIP屈曲30°、伸展-45°、MP屈曲80°、伸展0°であった」と書かれていますが、ポイントはPIP関節の伸展が-45°という点です。PIP では伸展せず、屈曲拘縮となっています。図をみても、PIPが屈曲して、DIPが過伸展しているように見えます。
 ボタン穴変形とスワンネック変形では主にPIP関節の状態から見ます。ROMの値および図の変形からPIP関節は屈曲拘縮となっているので、この変形は3のボタン穴変形となります。

 リウマチの指病変で有名なのはボタン穴変形とスワンネック変形です。リウマチの指病変はDIP関節に起こるのは稀で、PIPやMP関節に起こるとことが多いのは国試ポイントです。したがってボタン穴変形やスワンネック変形はPIP関節の病変として考えます。

 ボタン穴変形はPIP関節の伸筋腱が断裂する事によって起こります。伸筋腱が断裂するので、屈曲はできますが、伸展ができません。その結果、PIPが屈曲拘縮します。そして、この状態で指を伸ばそうとするので、DIPは逆に伸展することになります。DIP関節の変形は腱断裂ではなく代償作用と考えてください。

 スワンネック変形ではPIP関節の屈筋腱が断裂する事によって起こります。屈筋腱が断裂するので、伸展はできますが、屈曲ができません。その結果PIPが過伸展になります。そしてこの状態で指を伸ばそうとするので、DIPは逆に屈曲することになります。DIP関節の変形は腱断裂ではなく代償作用と考えてください。

 ちなみに、指ナックルベンダーはPIPを曲げるもので、PIPが過伸展になるスワンネック変形に用いられます。逆ナックルベンダーはPIPを伸展させるものでボタン穴変形に用いられます。58回はナックルベンダーが出るかも?



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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