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クソみてえなごめんね(戯曲)

 舞台上で若い男と女が会話をしている。

男:いやあ、あの。・・・ごめんね。なんというか。その・・・。一生幸せにするって言ったことは、全然覚えてるんだけど。いや、そのときは本気だったし。ほんとうに。嘘をついたというか、結果的に嘘になったというだけで・・・やっぱ、人の気持ちって、永遠とか一生とかってないんだなっていうのが分かったというか?・・・あの・・・ごめんね。結婚してあげられなくて。

女:・・・そんな、全然。うん。・・・私、十分幸せだったし。うん。確かに・・・私一人で、あの子育てるのかってなったときは、ちょっとびっくりしたけど。でもそんなの謝るようなことじゃないから、ね。むしろ・・・こっちこそ・・・本当にさ、全然そういうつもりではなかったんだけど、遺伝子的には、あなたの子ではなかったわけだけど、まあその、認知してもらったってことで、ちょっと申し訳ないなって気持ちがずっとあるわけで。そこは、うん、素直にごめんだなって。

男:いや、まあ、それは全然。うん。そんな、ね。まあ、事前に教えてくれてたらって思わないではないけど。・・・でも、そんなん分からんよね。・・・というか、そういう系統で言えば、あの、そもそも論的な・・・激しい運動すれば、その、正式に、病院とか行かなくても大丈夫って思ってて、自然な形で、大丈夫だろうって思って、だから無理させちゃったというか。結果的に、切迫で、手術になっちゃって、母体というか、君のこと危険にさらしちゃったってところもあるわけで。それもごめんって思ってる。

女:いやいや、それも、私がやったことではあるし。階段上り下りとか・・・というか、その・・・そういう話になっちゃうと、これも今謝るのはって話にもなるかもだけど・・・アレルギーってさ・・・本当に、そこまでなるって思ってなくて。全然。ごめんね。私の家、結構、アレルギーっていうのは好き嫌いだからみたいな雰囲気で。本当に知識不足で。だからあのときは、本当にごめん。

男:ああいや、そんな別に。気にしてないよ。気付かないで食ったの僕だし。まあ・・・ミキサーにかけられてたからあれだし、呼吸できなくなったのもあれだけど。今ではほら、こんだけ話せるようになったし。介助があれば歩けるようになったし。ね。全然・・・というか、そういう意味では、僕もさ・・・あのー、犬がさ、チョコレート食べれないなんて思わなくてさ。・・・だって、美味しいじゃん、チョコレートって。だから。まさかっていう感じで・・・本当にごめんね。ポチのこと。

女:いやいやそんな。だって・・・うん、チョコ美味しいし。しょうがないよそれは。・・・ポチも、きっと今ごろ天国ではさ、お腹いっぱいチョコ食べてると思うし。うん。ペットだと忌引き取れないから仕事辞めたけど、むしろゆっくりお別れができて、お葬式もできて良かったというか。フリーになってからの方が仕事の依頼も増えて結果オーライで。・・・うん。ていうか、それを言うなら・・・あの、大切にしてたさ・・・聖典?・・・聖典みたいなやつをさ、そういう扱いしちゃいけないっていうのを知らなくて。本当に知らなくて。本当に。それは謝っても謝り切れないところでさ。

男:あー、いやまあ。それもまあ。別に。怒るとか怒らないとかじゃないし。僕がどうとかいうより、君が最後の方の審判で、どうなるか心配だなってところもあるし。・・・というかむしろ、そういう話になると、むしろ僕があの・・・名誉会長?の方ってもう亡くなってると思ってたから、あのとき、ああいう言い方をしちゃったのってすごく失礼だったなって今でも思ってるところがあって。

女:ああいやそんなこと。全然そんなの気にしてないし。というか、全然、あなた方が感知できないのは自然なことで、むしろ逆に何とも思ってないというところもあるから。そこはもう全然だし・・・。だし、そんなことよりかは・・・あー、思い出しちゃったけど。あの、アルバイトで、いつの話だよってなるかもだけど、プレス機がほら、緊急停止しちゃったときさ、中で確認してくれているとはまさか思わなかったから。本当に。なんで停止してるんだろうって、すごい、普通に再起動のスイッチ押しちゃって。

男:いやいやいや。分からないよね。分からないよ。僕も、作業中の札下げ忘れてたところがあって、それは確実に僕が悪いし。まあ、普通は、再起動は担当さんがやるってのはあるけど。結局、労災もおりたし。別に、それで君のことをどう思うってのはないし・・・し、それに、それを言い出したらほら、僕も気が付かなくて、冷凍室の鍵閉めちゃったわけだし。

女:まあまあまあ、私も、時間外にあそこにいたのが変ってところもあるし。それも労災おりたわけだし。足の指だけで済んだって言い方もできるし・・・うん。

男:うん・・・ごめんね、なんか・・・最後なのに、こんな話ばっか。

女:いやいや・・・そんな。むしろ、こういう状況にした私のせいと言うか。

 気まずい沈黙。

男・女:あの(同時に発する)

男:あ、ごめん、先に。

女:いやいやごめん。先に言って。

男:え、じゃあ・・・ほんと・・・あの・・・子供のことはごめんね。事故って言い方もできるとは思うけど。でも、やっぱりごめんっていうのは伝えたくて。結局、君のことも巻き込んじゃったわけだし。

女:ああいや。そんな。・・・むしろ、私の方こそさ・・・絶対に、死刑は回避するから任せてって言ってたのに。・・・ふたを開けたら、控訴棄却されて。あなたの死刑、確定しちゃって、本当にごめん。

男:そんな別に。うん。

女:いや、うん。・・・ごめん。

男:いやいや。ごめんね。なんか。

女:いや。

男:うん。ごめん。

女:・・・いや、ごめんね。

男:・・・あー、いや、あの・・・ごめんね。

女:ごめんね。

男:ごめんね。

女:ごめんね。

男:ごめんね。

 若い男と女はここで永遠に謝罪を続ける。



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