マガジンのカバー画像

日々雑感

45
運営しているクリエイター

#丸谷才一

丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

わたしは一人の作家が気になりだすと、飽きるまで読み続けるという癖がある。
丸谷才一もそんな作家のひとりだ。
昨年の暮れから読み始めて、『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』と、まるで亀の歩みのようにのろのろと読みすすめ、先日『裏声で歌へ君が代』を読み終えた。
(その間、図書館で借りた『忠臣蔵とは何か』は早々に挫折した。)

『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』については、すでに

もっとみる
時間・自由・芸術

時間・自由・芸術

丸谷才一の『たった一人の反乱』(1972)を読んだ。

それなりに面白く読んだが、正直言って、この小説にはさほど強い感銘を受けなかった。
なによりも主人公である「ぼく」にほとんど共感することができなかった。
それはそうだ。
主人公の馬淵英介は、通産省のエリート官僚出身で、民間の電機会社の重役に天下りし、妻の病死後一年も経たずに若い美人モデルと再婚する人物である。
やっかみ半分と言われればそのとおり

もっとみる
丸谷才一『笹まくら』

丸谷才一『笹まくら』

金銭的理由はともかく、むしろ保管スペースがないことから極めて貧しいわたしの蔵書の中に、たまたま丸谷才一の文庫本が四冊混ざっている。
今回は、その中から『笹まくら』(新潮文庫)をとりあげる。

この本をいつ読んだのかまったく覚えていない。あるいは読みかけて放り出してしまったのかもしれない。
幸いなことに、今は、そういった放置されていた本とじっくり向き合う時間がある。
時間はあるが、一方で残された時間

もっとみる