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フルート奏者、若林かをりさんのライブパフォーマンス「Lux in Tenebris/闇の中の光」を観てきました。公演日からちょっと日が経ってしまったのですが、とても素晴らしい公演だったので、少し感想を残しておきたいと思います。

今回の公演を簡単に説明すると、同名のCD作品をもとにライブ化したもので、演奏されるのは全編サルヴァトーレ・シャリーノ(1947-)のフルート無伴奏作品。その演奏に 加えてタイナカジュンペイさんのモノクロームの写真が映し出されます。写真の投影は松本永さんによる照明と空間の演出が加わり独特の世界が生み出されるというインスタレーション・パフォーマンスです。

本公演はなんといっても演奏、写真、舞台照明/演出が三位一体となり総合的な舞台作品として圧倒的な世界観を構築していたことがとにかく素晴らしかったです。一貫してモノクロームで統一され、光と影、静と動、白と黒。そして生命賛歌と死への畏怖、等、あらゆる対極をみせながら、その間(はざま)にある見えざるものを克明に描いていきます。演奏と写真との対比は想像していた以上に効果的で、音を出すときの繊細な息遣い、黒い衣装を着て光と闇の間で演奏する身体の動き、その全てのパフォーマンスが生々しく動的であるのに対し、舞台に映し出される写真は、あらゆる動きや営みを瞬間冷凍したように静的です。まるで時の止まった世界で音楽が鳴り響いているような、ここではないどこかに連れていかれたようでした。
 
全体として1時間弱のコンパクトな作品でしたが、これまでにない非常に意欲的な試みであり、シャリーノという作曲家の作品を味わうには最上の上演形態であったと思います。クラシック音楽の公演では、映像や照明の演出がある場合でも付け足し感がぬぐえない場合が多く、成功している例はまだ少ないと思いますが、本公演は演奏と演出が非常にうまく溶け合い、舞台作品として総合的に魅力ある作品として完成していました。こうしたアプローチは今後に続いて欲しいと思いながら、私自身も挑戦していきたいとうずうずしてしまいました。

 

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