原点回帰を許す

 数日かけてちょこちょこと思いつくまま書き綴って、まったくまとまってないけれど、わたしにとって印象的な出来事だったので、なにを感じてきたか・考えたかの経過を記録として残しておきたくて、ここにあげておきます。


 10年ぶりくらいに、心がぎりぎりざわざわするような小説を買った。

 10代後半から20代のころは、そんなのばっかり読んでいた。筆頭は江國香織さんで、山田詠美さんや川上弘美さんもよく読んでいた。登場人物の思考、言葉、立ち居振る舞いもろもろが、大袈裟でなく、人生の教科書・バイブル・指針と化していて、こんなふうに生きたい!生きなければ!と思い込んでいた。そんな時期でもあった。しかし、30代にはまったく読まなくなったし、読めなくなっていた。きっかけは、30才になった年に経験した、それまでで一番手痛い失恋だったと思う。盲目になりすぎて自分の何もかもを相手に明け渡してしまった挙句、あっさりフラれてしまったのだ。天国から地獄。身も心もズタボロになって、わたしは自分の依存傾向の強さを初めて認識し、向き合わざるをえなくなった。それ以来ずっと続いている。誰かに依存することをやめること。自立と自律。私を生きること。失恋の痛みは時間とともに和らいではいったけど、自分の弱さと向き合うほうはなかなかうまくいかなくて、同じ失敗を繰り返してばかり。進歩がなさすぎて情けないけど、いまだに気がつけば自分を明け渡すようなことを繰り返してしまっている。気づいては戻り、気づいては戻りを繰り返すこと、それができることが肝心なんだと今になって気づく。戻ることを諦めたこともあって、それを未だに棘のように抱えてもいるのだけど…棘の話はまた別に書こうと思う。(きっとどこかに出してしまわなければ、ずっとこのままベンチマークのように抱え続けるだろうと思うから)
 さて、失恋を経て30代になってよく読むようになったのは、傷ついた人が立ち直っていく「癒しと再生」がテーマの物語。あまりにもわかり易すぎて恥ずかしいのだけど、あの頃のわたしにはどうしても必要だった。自分に重ね合わせながら、そんな話をいくつもいくつも読んだ。そうして、それまで愛読していた小説からはだんだん遠ざかっていった。まるでそれらが以前の自分・依存心の象徴であるかのように封印し、避けていた。そうすればそれらがなくなるかのように。
 そんな日々に突然もたらされた、心をぎりぎり、ざわざわさせる小説。ひょんなところから繋がってきて、目の前に現れた。

 この時は、手に取ったら、読んだら、自分がどうなってしまうのか恐ろしすぎて読めなかった。私を生きようとどうにかこうにか進んできた道のりをあっという間に逆戻りしてしまうのではないかと怖かった。だけど、それと同時に、こういうの好きだったなぁと好きの原点を見る思いもあって、ずっと気になっていた。
 それからあたためること早2ヶ月(爆)。なにかピンときて、こどもの日用品の買い物のついでに、ぱっと買ってしまった。2ヶ月ほど前に見つけた小説ではなかったけれど。
 なにかそこに立ち戻ってもいいような気がしたのだ。好きの原点であるなら立ち戻ってみなきゃいけない気もしたのだ。じつはそう感じたのは今回が初めてではなくて、もう数ヶ月前にもあった。心がぎりぎりざわざわして、切なくて身がちぎれそうでどうしようもない感じ。そういうのをずっと避けてきたけれど、それこそが私が私たる所以なんじゃないか、原点なんじゃないかと思ったことがあった。そのときはなにかの欠片を見つけたように感じたものの、そのままにしていた。していたけど、心の中にはずっとあって、件の小説を引き寄せてきた気もする。
 そして先日、読み始めたらページをめくる手を止められなくて、結局夜中じゅう起きて、最後まで目を通した。じっくり読んだわけではなくて、先が気になるあまり飛ばし読みしつつ、最後まで目を通した。飛ばし読みをしたのは、先が気になるからだけではなくて、心がぎりぎりざわざわさせられることが辛かったせいもある。とても立ち止まって話を聞くようには読めないところもあった。だけど、引き込まれたという事実で十分だった。好きが詰まっていて、幸せだった。心をぐっとつかまれて、知らなかった心の襞を教えてくれたり、言葉にならなかったものに形をくれた。幸せな時間だった。そして、やっぱりここが原点、根っこだと感じた。確かめられてよかった。戻ってこられてよかった。
 タイトルに「原点回帰を許す」と書いたけど、恐れを乗り越えてもう一度出会うというよりは、「許す」感覚だった。昔の自分に戻ってしまうかもしれない恐れもあったけど、なにより戻ってはいけないと戒めているところがあったから、乗り越えるというより、過去に手を伸ばすことへの許可が必要だった。もちろん過去には戻れないし、過去を生きるのも健康的でない。よくない流れの中にいた自分に戻ってはいけないけど、過去がすべて悪いわけでもない。ああ、そうか!問題は原点を過去に置いてきたこと、閉じ込めてきたことが問題なのか。原点は過去ではない。そもそも時間軸ではかるものでもない。原点、物事のはじまり、それは本来の自分ともいえるかな。
 今回のことを通して、本来の自分と出会い直したというのか、過去に閉じ込めてきた自分と仲直りしたような感覚がある。知らないうちに閉じ込めてきた心があって、それが開いたような、感情や感覚の鮮やかさが戻ってきたような感覚がある。これも統合なのかな。

 さぁ、数日前に書き始めて、まとまらないままにダラダラと書き進めてきたけれど、ここらで一度締めましょうか。(強引)いくらでも言葉が湧いてきて止まらないから。
 ただ、許せてよかった。ここから何が始まるのか、始められるのか、はたまた始まらないのかは、まったくわからないけれど。

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