「僕も約束を忘れる、といった習性がある。広汎性発達障害といじめ」宮台真司先生 | 映画『アマノジャク・思春期』全国公開記念 第二回:

映画『アマノジャク・思春期』の全国劇場公開を記念し、2019年7月28日(日)下北沢トリウッド公開上映2日目、社会学者・映画批評家 宮台真司先生とのアフタートークの一部始終を文字起こししました。こちらは第二回目の記事です。

<映画『アマノジャク・思春期』公式HP>
https://www.amanojaku-sishunki.com/

<有料配信用の特設サイト>
https://shortmovie-shishunki.wixsite.com/theater

<登壇者>
宮台 真司 社会学者・映画批評家
岡倉 光輝 映画『アマノジャク・思春期』脚本・監督
理沙 映画『アマノジャク・思春期』プロデューサー

□参考図書のご紹介。

切通理作著『お前がセカイを殺したいなら』(1995)フィルムアート社


✲携帯・PCなどのハッキング被害と闇バイト被害、スパム被害も注意。
※令和5年から   

僕も約束を忘れるとか、時間を守れないとか、そういった習性がある

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理沙:宮台先生が寄せて下さった感想で、“峰岸は多視座を生きる者”とありました。宮台先生の場合、女の子の側に立つことでいじめを回避したわけですが、岡倉監督の場合はどうだったんでしょうか。

岡倉:自分は4歳くらいの時、世田谷から家族と引っ越したんです。で、引っ越した先の隣に女の子が住んでいたんです。当初、その女の子が挨拶してきて、一緒に遊ぶ約束をしました。でも僕、その十分後くらいには約束したことを忘れてしまったんです。二時間くらい、周辺を散策して自宅の前に戻ったら、その女の子、泣きそうな顔をして待っていて。それで、『約束をすっぽかされた』と泣いちゃったんです。

理沙:劇中に、峰岸家の飼い犬に金柑をあげるシーンがありましたが、あれも実話なんですよね?

岡倉:その女の子には、お兄さんがいたんです。で、あるとき、そのお兄さんが、飼い犬に金柑を与えて喜ばせているのを見ました。その女の子の家の隣にあった駐車場に、金柑の樹が生えていたんです。ちょうど実がなっている時期でした。『たくさん金柑を与えたら、犬はもっと喜ぶだろう』と思って、僕は金柑を大量にもぎ取ったんです。で、その家の門の前で、犬に金柑を与えました。劇中のシーンは、このエピソードが元となっています。

宮台:僕も約束を忘れるとか、時間を守れないとか、そういった習性があります。何かに取りかかると手離れが悪い。また、空気が読めない。あるいは読むのが嫌いです。

岡倉:僕もそうです。

宮台:同類ですね(笑)。加えて、今で言えば、炎上が大好きです。いつも炎上させたくてたまりません(笑)。岡倉監督とはお互いに何か似た感じがしますね。今はこういう症状って広汎性発達障害などと呼ばれて、自閉症スペクトラム(自閉症系連続体)に数えられています。そう言われたことはありますか?

岡倉:炎上願望はありませんが、発達障害の傾向はあるかもしれません。

宮台:最先端の研究では、全人口の1割にそうした傾向があるので、病気ではなく、人類の生き残りに必要な『神経学的マイノリティ』だと考えられています。約束を忘れるのはハタ迷惑で、それでいじめられることもあるけど、逆にいじめられる僕らにとって、忘れる能力はすごく重要です。

〈社会の外〉に意識を飛ばす技(わざ)を身につけていた

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宮台:ところで、岡倉監督にとって、小学生の時の体験や、それ以降の手術の体験が、生き方にどういう影響を与えたのか、映画を作る仕事をしていることと関係があるのか、教えてもらえますか?

岡倉:自主制作映画として、ライフワークとして、この映画を撮りました。顎の手術をするまで引きこもっていた時期から家の近くのTSUTAYAやレンタルビデオショップで※アート映画をよく借りて見ていたんです。それで映画に興味を持つようになって。
新聞のコラムで見かけた『まぼろしの市街戦』(1966)も手に取っていて好きです。大学に入ってから、映画サークルの上映会に足を運ぶようになったのですが、そこで見た映画が面白いものが多くて、自分でも撮ってみたいと思うようになったんです。
その後、大学2年で映画サークルに入って、4年まで在籍していました。ただ、どうしても脚本が書けなかったんです。でも、映画を撮りたい、何かを表現したいという気持ちは強かったんです。自分の少年期の悩みを題材にしたら、思いのほか、すらすらと脚本を書くことができました。それを周囲に読んでもらったところ、『これ、撮ってみなよ』という反応が多くて、実際に撮ったという経緯です。

宮台:そうですか。僕も19歳のとき、8ミリ映画ブームだったので、大学の映画サークルに入って『ミクロコスモス』という映画を撮りました。その映画のモチーフが(『アマノジャク・思春期』と)似ています。いじめられっ子の男子と女子がいて、屋上で2人が過ごしていると、いじめっ子の集団がやって来て、阿鼻叫喚の騒動が起こる話でした。不思議なシンクロですね。
僕は引きこもらなかったけど、いつも〈社会の外〉に意識を飛ばす技(わざ)を身につけて社会では生きていました。分かりやすく言うと『心は引きこもっているけれど、外面が社交的に見える』状態を維持するのが技でした。

『社会と社会の外との境界』でつながるタイプの映画が増えた

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宮台:抽象的水準で言うと、今そういう映画が増えています。〈社会の外〉につながることによって、何とか毎日を生き延びる人間たち。彼らは、自分たちと同じように〈社会の外〉につながる人間たちを見つけ、屋上でつながるわけです。屋上は比喩で、『社会と社会の外との境界』のことです。そこでつながるタイプの映画が増えました。

地上をマジガチで生きられない者たち

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Ravel - "悲しい鳥たち"

宮台:地上をマジガチで生きられない者たちが屋上でつながる。そんなモチーフの映画が、とりわけ海外にはあります。たとえば恋愛映画の本場フランスがそう。『屋上でつながれるかどうかが真実の性愛かどうかを分ける』とする映画が目立ちます。フランソワ・オゾン監督『17歳』(2013)やマウゴシュカ・シュモフスカ監督『ラヴァーズ・ダイヤリー』(2011)なんかそうですね。
ただ『17歳』の主人公である援交女子高生は、屋上でつながれても地上に降りられない。生には、屋上でつながった人間同士が、仲間になって地上に降りなければいけない。それは友人関係でも恋愛関係でも同じです。『17歳』はそのことを描き出しています。『ラヴァーズ・ダイヤリー』はそこには届いていません。地上をただ一人で生き続けられないのです。
日本にはそれに相当する映画が少ない。日本では監督たちが、少女漫画を原作に、結論が丸見えの御伽話を撮るからです。そこは『社会の外』に出た者にしか描けません。
第三回「良い映画とは、観る人々の経験のアーカイブスを刺激する」宮台真司先生 へ続く

<映画『アマノジャク・思春期』公式HP>
https://www.amanojaku-sishunki.com/

※『図鑑に載ってない虫』『のぼうの城』(2013) 『野性の証明』
『春夏秋冬そして春』(2003) 『イヌミチ』や大森一樹監督作品
黒澤明監督作品など

<映画『アマノジャク・思春期』とは>
ある少年の「受け口」の容姿への悩みを通し、彼の周辺で繰り広げられる騒動を描いた作品。また2005年4月の発達障害者支援法の施行前、「発達障害」の周知がない時代が本作の背景となっており、その少年は隠れた発達障害をも抱えている。本作では「いじめ」という普遍的かつ社会的なテーマを中心に据え、子どもの純粋さと同時に残酷な側面、そして、いじめの標的となる当事者の個別の事情を、実話に基づいて、生々しく描く。

※能登半島の皆様にお力をお貸しください。
『赤い羽根共同募金 能登半島』の語句でご検索を。

鍵屋一「ひな型でつくる福祉防災計画 ~避難確保計画からBCP、福祉避難所~」(2020)◎災害対策の関連本

・第2回池袋みらい国際映画祭 地域審査員賞
・第3回ところざわ学生映画祭 グランプリと観客賞*別題Goblin
・福岡インディペンデント映画祭2018 優秀賞

・カナザワ映画祭2017 審査員特別賞[のびしろ賞]
会場:金沢21世紀美術館
金沢駅から徒歩33分(車で10分)

・第18回TAMA NEW WAVEコンペティション 特別賞[多摩商工会議所 会頭賞]
会場:ヴィータホール[ヴィータ・コミューネ8階]
聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩2分

・福井駅前短編映画祭2018 グランプリ[フェニックス大賞]
会場:テアトルサンク
福井駅から徒歩9分

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