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028 あれだけの感傷も絶望も後悔も愛も恋も

朝目覚めるたび、覚えてもいない夢の中へ何かを置いてきてしまった気になるんだ。皮膚だとかまつ毛みたいに、毎日新たなわたしが作られてはあの日のわたしが剥がれ落ちてゆく気がしている。痛みもない。それは喜ぶべきことなのかどうかも分からない。昔は瘡蓋みたいに剥がせばちゃんと痛くて、ちゃんと血だって流したのにね。ねぇ、ちゃんと、って何だろう。痛くなかったらちゃんとしてないのかな。あれ。何が言いたかったんだっけ。私はもうすでにあの日と同じ熱量であなたのことを思い出せなくなった。きっとあなたはもっと早くに私を忘れたことだろう。勝手にブロックして勝手に消えたことをちゃんと憎めもしなかった。ただ、恨めしかった。それでも、愛おしかった。愛の裏には恨が居るらしかった。いまは、愛もないから、恨だってないけど。思い出なんて綺麗な言葉にするほど、何かあったわけでもないし、ただ、私の言葉のために選ばれたような恋でした。こうしてあなたのことを呟いて、たくさんの友達ができて、いいねの数もフォロワー数も驚くほど増えたよ。みんな、誰かを愛しては同時に恨んでいるらしい。けれどもう複写何ページ目?ってくらい薄れた筆跡を眺めては絞り出した言葉じゃ誰にも届かなくなってきたみたい。潮時ってやつ?だからといってアカウント消したりはしないけどさ。そもそもあなたと過ごしたたかだか半年を何年擦ったんだって話なんだから、長持ちした方だと思うよ。我ながら。それほど、それだけ、それくらいには、   いた。そのスペースに夢見がちなあなたは愛を入れるだろうか、心情を慮って恨むを入れたろうか、何も、入れないのかもね。空白を、空白とする人だったから。なんてもう半想像みたいなあなたのシルエットをまたなぞっては、別に捨てようと思ったわけではないんだけど、なんか、もう、きっと、私から少しずつ剥がれ落ちて角質とか髪の毛と一緒に掃除機に吸われちゃうんだろうな、と思うわけ。ねえ、私の、あれだけの感傷も絶望も後悔も愛も恋も、きっと死ぬ前のわたしには残っていないの、嫌になるね。嫌になる程、私って、生きているね。



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