マガジンのカバー画像

32
おそらく恋みたいな話
運営しているクリエイター

記事一覧

032 彩度の高い夏が嫌いだ

032 彩度の高い夏が嫌いだ

六月某日。夜はまだティシャツ一枚じゃ肌寒くて、寒い寒いと燥ぐ隣でパーカーくらい着てくればよかったねと腕をさすった。一歩先、振り返って「温めましょうか?」と腕を広げて見せる君に、「公道ですので遠慮します」と返しながら追い抜く。「フラれた〜」と結局後ろから抱き締められて、歩き辛いと文句を言いながらふたりで笑った。買ったばかりのアイスがビニール袋越しに素肌に触れて、冷たいはずなのに丁度よく感じた。暖かか

もっとみる
030 ああ、また君のことを書いてる

030 ああ、また君のことを書いてる

ああ、また君のことを書いてる。

届かない方がいいような手紙を電子の海に流しては、誰かのハートを貰ったりして、世の中には似たような人が沢山いるんだね。静かにほったらかして別れの言葉ひとつ吐かずに、憎しみの言葉ひとつかけれずに、去っていくような酷い人。

この世が心正しい人ばかりになってくれれば、誰も傷つかないだろうか。いっそ私が一番醜く思えて生きるのが苦しくなるのだろうか。肺が汚れていくにつれて人

もっとみる

寂しくて、仕方がなくて、誰でもいいからそばに居てと望んだ。若い女はきっとそれだけで価値があった。彼氏じゃない人と触れ合って、『なんだこんなに簡単なことか』と思った。「好きな人じゃないとキスなんて出来ない」そう言って頬を赤らめた純情な私はあの日死んだ。

028 あれだけの感傷も絶望も後悔も愛も恋も

028 あれだけの感傷も絶望も後悔も愛も恋も

朝目覚めるたび、覚えてもいない夢の中へ何かを置いてきてしまった気になるんだ。皮膚だとかまつ毛みたいに、毎日新たなわたしが作られてはあの日のわたしが剥がれ落ちてゆく気がしている。痛みもない。それは喜ぶべきことなのかどうかも分からない。昔は瘡蓋みたいに剥がせばちゃんと痛くて、ちゃんと血だって流したのにね。ねぇ、ちゃんと、って何だろう。痛くなかったらちゃんとしてないのかな。あれ。何が言いたかったんだっけ

もっとみる
027 無責任に、烏滸がましく、あなたの幸せを祈っている

027 無責任に、烏滸がましく、あなたの幸せを祈っている

「わたしのこと、ほんとうにすき?」
画面の中の少女がそう問いかける。好きだよ、と答えてハッピーエンド。めでたしめでたしよかったね。でもそれ、ほんと?ほんとうってほんとなの?ドラマでも漫画でもよく聞くこの台詞を最近自分に問いかけている。私、あの人のこと、ほんとうにすきだったのでしょうか。

結局のところ『ほんとうにすき』ってなんだろう。何を持っていれば、どんな感情を持ち合わせていれば、ほんとうだと言

もっとみる

きっと永遠は無いということを知っている
だから今日優しくする明日も大切にする明後日傷つけてしまったらごめんと言ってやり直す明々後日傷つけられたら悲しかったと言って抱きしめてもらう
そうやって毎日を続ける折重ねる
繰り返しは少し祈りに似ている
君が少しでも永く傍に居てくれますように

女の勘ってすごいよね、嫌なことほど良く当たる、サプライズの期待はことごとく打ち砕かれるのに、あなたの視線が私の奥を見ていることはよく分かる、振り向いてしまったらどんな子がいるんだろう、知りたいけど知りたくないな、気づいていないふりをするから私を追い越して行ってしまわないで

「あの子、結婚するんだって」
良いよね、の部分は声にしなかった。けれどおそらく伝わってはいて居心地の悪そうな「へえ」が返ってくる。この苛立ちは勝手な期待であって、それはあまりに自分勝手だと思った。でももう何年も願い一つ叶えてくれないあなただって、十分自分勝手じゃないのかな。

もう、思い出して立ち止まるほどの熱量はどこにもないよ、良い思い出にしてしまった、平凡な日々を愛しく思うし大切にしたいけれど、もう、何か、書きとめておきたいような気持ちも、見当たらないよ、あなたが全部持っていってしまった

023 あの駅の屋根の色はどのくらい青かっただろう

023 あの駅の屋根の色はどのくらい青かっただろう

先月、クラスの真ん中で「あんなに好きになれる人にはもう二度と出逢えない」と泣いていたあの子、今は別の人と付き合っているらしい。「全部好き」なんて惚気ているのを聞いたから、愛や恋は思っているより軽いのだと思った。これは遠い昔の話。

人は忘れてしまうことを知っている。いつか、君がいないことは普通になって君と行ったところや君と見たものを思い出として消化するようになることを知っている。だからあの日の君の

もっとみる
022 糖分のベタつきは未練に似ている

022 糖分のベタつきは未練に似ている

冬のアイスが格別に好きだけど、食べるのは下手。のろのろと食べている内にいつも溶けてきて指先がベタベタとする。舐める指の先はアイスよりもくどく感じて鬱陶しい。だからコーンのアイスは苦手。あなたはコーンのあのサクサクとしたところが美味しいのにと言ったけれど、ぐしゃぐしゃに湿ったコーンしか食べたことがないからよく分からない。コーンとアイスを一緒に食べるから美味しいのであって、コーンとアイスが一緒になって

もっとみる
021 次産まれる時はただ幸せに溺れるあの子になりたい

021 次産まれる時はただ幸せに溺れるあの子になりたい

お花屋さんになりたいって声に出して言えたあの頃みたいに未来に希望を持てなくなったのはいつからだったっけ。あの子はあの人と結婚して家族を作りたいと笑顔で語るけど私は来年の話だってしたくないのにな。未来が明るいと信じられる心が羨ましい。今が不幸なわけじゃないけど。目の前にある幸せだけを掻い摘んでいたいな。見えないものを考える余裕を持ちたくない。明るい希望を期待して裏切られたことしかないって思ってる。あ

もっとみる
020 一過性のいい思い出みたいに振り返っているのに

020 一過性のいい思い出みたいに振り返っているのに

男に染まる女なんかつまらないって、誰が言ったんだっけ。スマホに目を落としたまま呟いた「わかる〜」。ほんとはあんまり考えてない。好きなもの?あなたの好きなものを好きになりたいな。自分の好きなものを捨ててしまうわけじゃないけど。好きになれないものもあるけど。だってどんなにプレゼンされてもトカゲは可愛く見えないし、どんなに奇妙がられても地雷盛りラインは辞められない。それでもさ、付き合うまではあなたの気を

もっとみる

楽しいくらいにお酒を飲んだとき、「ああ、あなたの声が聞きたい」って思ったりする。昼間に月を見かけたときだとか、家の前に野良猫がやってきたときだとか、そんなときにもなにか共有したいと思う。ねえ、あなたはどうだろう。