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その発問は何を目指すのか?〜道徳の授業をもとに考察します〜

今日は、とある発問について徹底考察します。

少々マニアックな世界かもしれませんが、最後まで読んでもらえると発問に対する考え方が少しだけ変わるかもしれません。

質問と発問の違い

今日のお話を理解してもらうためには、まず「質問」と「発問」の違いを確認する必要があります。

「質問」とは、答えがあるものを問うことをいいます。
例えば、
「あなたは、何歳ですか?」
「好きな漫画は何ですか?」
こんな感じのやつです。
年齢なら「35歳です。」と答えられますし
漫画なら「ヒカルの碁です。」と答えられますよね。

授業に関することだと
「登場人物は何人いますか?」
「登場人物は最後の場面で何をしましたか?」
「登場人物の名前は何ですか?」
こんな感じになります。

要するに、質問は答えが決まっているので

  • 確認作業である

  • 授業のテンポを作り出す

  • 喋りやすい雰囲気を作り出す

このような特徴があるでしょう。

一方、「発問」とは、答えが一つではない、考えて答えるもののことを言います。

例えば
「今までで一番嬉しかった経験は?」
「なぜ、その漫画が好きですか?」
こんな感じですね。
「初めて我が子は抱き上げた時、何とも言えぬ感情になりました」
「ヒカルの碁は少年の成長物語で、気分が落ち込んでいるときに、元気をくれます」
と、答えは人の数だけあります。

授業に関することだと、
「登場人物は何を迷い、どうやってそれを乗り越えたのか?」
「登場人物の生き方から、何を学びましたか?」
など、このような感じでしょうか。
※あえて、めちゃくちゃ悩みそうなものを例として出してみました。

「AかBか、どちらが〜か?」という発問は何を目指すのか?

突然ですが、おたずねします。
「あなたは、ケーキかシュークリームか、どちらが好きですか?」
3秒で答えてください。
そして、食べたくなって人は買ってきてください笑

とまぁ、これが「AかBかどちらが〜?」をたずねる問いですよね。

さて、本題にいきましょう。

発問の中には、
「AかBかどちらが〜か?」という発問があります。

今日はこれについて徹底考察!

「手品師」という有名な教材があります。
手品師が
少年のところに行って一人のために手品をするのか
大劇場に行って大勢の観客の前で手品をするのか
迷うやつです。

あの教材の中で
「どちらに行くのが誠実だといえるでしょうか?」
と、こんな発問をしたとしましょう。
(この発問の是非は一旦横に置いておいて)

子どもたちは
「約束もしたし、男の子の方に行く方が誠実だよ」
「いや、大劇場に行きたい気持ちもわかるなぁ」
と、こんな話し合いになるのではないでしょうか。

この話、最終的に男の子の方に手品師は行きます。
それを踏まえて、何となく
「いや、みんなの言った通り男の子の方に行くのが誠実だよね。」
チャンチャン。
ハッピーエンド♫
ってなってませんか??

これ、この発問の良さを20%しか引き出せていません。

男の子の方に行く方が誠実
大劇場に行く方が誠実
これで答えを出そうとした人は
この発問を「二者択一」の発問と捉えています。

つまり、どちらかが必ず「正解」と思い込んでいるわけです。

冒頭に「ケーキかシュークリーム、どちらが好きですか?」
と聞かれて、どちらがいいかを考えましたよね。
これは「二者択一」のワナにはまっています。

考えてもみてください。
もしかしたら、
プリンが好きな人もいたのでは?
パフェが好きな人もいたのでは?

ケーキかシュークリームと問われて、
無意識の内に、そのどちらかだけに可能性がしぼられてしまっていたのです。

これが、恐ろしい!

そして、この発問をこのように「二つのうちのどちらかを決めなくてはならない」と思って、していた方は二者択一を迫る発問をして選択肢を狭めていたということになります。

図解で理論を説明します

さて、もう少しだけお付き合いください。
話が難しくなってきたので図解しながら説明します。

二者択一という捉え

「AかBかどちらが〜か?」で、どちらかの正解を出そうと考えていた方は、図のように二者択一と捉えています。

しかし、これでは話し合いは広がりません。
(もっとも、これがディベートだとしたら、AかBかを徹底的に比較させていったらよいと思うのですが・・・)

そこで、捉え方を二者択一ではなく、「二校対立」と捉えましょう。
すると、図のようになります。

二項対立という捉え

2項対立という捉えです。
これは、AとBの間に軸があるとイメージしてください。

どちらかに決めるのではなく、「ややAかな」「Bよりだな」「中間だな」と考えは多様になってきます。

ほら、みなさんだってその日の気分ってあるでしょう?
ケーキがいいけど・・・今日はややシュークリームの気分かなって。

そして、最終形はこちら!


二項対立+多項検討という捉え

二つのことを軸にしながら、他の可能性も探る。
これが、二項対立+多項検討という考え方です。

ややAよりのCという別の考え方(軸の上にはありません)
ややBよりのDという別の考え方(軸からさらに離れました)
そして、Eという全く別の考え方

手品師を例に考えると
「少年を大劇場に連れていく」
「ひとまずは大劇場に行って手品をして、有名になってから少年に手品をする」
「どちらも選ばずに第三の選択肢を考える」
こんな感じの答えが出てくるのではないでしょうか。

もちろん、もともと示されていた
「少年のところへ行く」
「大劇場のところへ行く」
という選択肢も残っています。

これらのいろいろな考え方から
多角的に「誠実」について考えられると授業の幅が広がってきます。

実際の授業より

『おもしろすぎて授業したくなる道徳図解』より

さて、実際の授業から見ていきましょう。

「家族のために」という教材で「家族の幸せ」について考えました。

「主人公の家族への想いが強くなったのはAかBかどちらの場面?」

このように問いました。ちなみに
A:夜遅くまで働いていた母が遠足のために朝早くから弁当を作ってくれた。
B:自分の仕事ではないけれど、遠足から帰ってきて自分で弁当箱を洗った。

さて、みなさんは、どちらだと思いますか?

子どもたちとAかBかを話し合っていたら
「いや、AでもBでもなくて・・・これらの経験を終えた後だよ。」
と言って、左下の方にグラフを描きにきてくれました。

ここで、この発問を「二者択一」と捉えてしまっている場合は、
「いや、そんなのダメだよ」と切り捨ててしまいかねません。

こういう選択肢からはみ出してくるような回答は大いに歓迎です。

そこで、もう一度問い直してみました。
「どれが、一番家族への想いが強くなりましたか?」

ネームプレートを貼らしてみたところ、
新しく出てきた選択肢がやや優勢なものの
もとからあった選択肢にそのまま貼っている子もいます。

そうです。それでいいんです。

一つの答えを出そうとしているわけではありません。

多様な角度から思考して
「家族の幸せについて考える」ことがねらいなので、
一つに絞る必要はない。

むしろ、たくさん出てきた方が面白いじゃないですか。

どうすればそういう子に育つのか

最後に。

どうすればそういう子に育つのでしょうか。

一つは発問に対する捉えを変えることです。

3つ目の図のように捉えて
「二項対立+多項検討」と授業者が捉えておきます。

もう一つは、そういう選択肢が子どもたちから提案されたら大いに喜ぶということです。
「なるほどなぁ。それは思いつきもしなかったなぁ!」
こういうことの積み重ねが大切です。

どうしても、クラスの子がそういう思考にならないときはこんな問いかけはどうでしょうか?
「今、AかBかで考えてきたけれど、C(検討はずれな場面)はどうかな?」

「えー、先生、流石にそれは違うよ!あ、でも、もしかしたら・・・」
と、このように問われるとAやB以外の場面に目を向けることになります。
こういうことの積み重ねが大切です。

いかがだったでしょうか?

少々マニアックな記事になりましたが、
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それでは、道徳の授業を楽しんでください〜♫

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