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あなたは今、目の前にいる人との時間を大切に想っていますか?〜男1人と女1人の、飲みの席〜

毎日のようにお酒を飲んでいるお客様を対応していると、自然と人を観察する習慣が身に付いてくる。そうすると自然とその人の人間性や、飲んでいる人達の関係性も感じ取れるようになってくる。洞察力が身に付いてくる。

そんな中、1番興味をそそられるのが、「男1人女1人」のカップルの関係性が見ていて面白い。

付き合いたての若い彼氏彼女関係、上司と部下、はたまた不倫関係など、席に座った瞬間から2人の関係性が想像付く。

とりわけ夫婦関係はすぐ分かる。2人の空気感が、長い間一緒にいるせいか、信頼関係があるせいか、まるで違う空気感を醸し出す。

その2人の飲みの席での雰囲気が、夫婦によってまるで違うから、とても面白い。

若い夫婦でも、年配の夫婦でも、それぞれ違う形の夫婦像があるのだと毎回感じる。

「よく見る夫婦の飲みの席」

良く見かける「夫婦の形」がある。日本的な、日本人たる夫婦の関係性なんだなと、その光景を見るとつくづく思う。

男性は席に着くなりメニュー表を見始め、しばらくすると何も言わずに女性に渡す。すると女性は、

「何頼むか決まったの?」と聞く。

「うん」男性はその一言だけ返す。

しばらくすると女性が「すいません」と店員を呼ぶ。

そこからは想像がつくと思う。男性は黙々と食べて飲んで、女性が話しかける言葉に、たまに相槌を打つ程度の反応。女性は何となくその場を取り繕うとし、言葉を選びながら話しかける。

その繰り返しである。

それが最後まで、その状況である。

男性は食欲を満たし、満足した様子だが、女性は大抵不満げである。

そういう雰囲気の夫婦は、ほぼ100%会計を女性が済ます。その間男性はというと、先に店を出て行ってしまう。「ご馳走様」も言わずに…

それに対して女性は、お会計を済ますと、気持ちの良い笑顔で「ご馳走様でした!」と店を後にする。

何度も目にする「夫婦の形」ではあるが、2人が出て行った店の扉は、いつも寂しさがまとわりつく…


先日はいつもと違う「夫婦の形」に出会った。

席に着くなり、男性が女性にメニュー表を渡す。

「先に何頼むか決めな!」男性が女性に言う。

「一緒に見ようよ!」女性が渡されたメニュー表を2人が見えるようにしながら、男性に言う。

ごく自然なやりとりであるが、お互いに気を遣い、かつ新鮮さもある2人の雰囲気が、一瞬でその席の色を鮮やかにしたのである。

私は「夫婦ではないのかな〜?」と疑問を感じてしまうぐらいだった。

それから2人はお酒と料理と、2人だけの時間を楽しみ、満足気に会計を済ませに来た。

男性がお金を払おうと財布を出し、女性は男性の腕を組みながら、その様子をニコニコしながら見ていた。

私は、あまりに自然な2人の仲の良さに、思わず、

「仲の良いご夫婦ですね」

と言葉を漏らしてしまった。

すると女性が、

「うちのパパ余命宣告されたから、ご飯食べに来るの次いつになるか分からないからね!」

ニコニコしながら、そう言って男性の顔を見る。

「そうだな」男性は照れながら、何故か嬉しそうに答える。

私はちょっと微笑みながら、お釣りと「ありがとうございました」の言葉を渡す。

見た目は50代の夫婦であったが、店を出て行った2人の後ろ姿は、学校の教室から出て行く高校生カップルのような雰囲気であった。

あなたは今、目の前にいる人との時間を、大切に想っていますか?