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本土の大都会/片田舎からの訪問【24.2.26】

・窓の外を覗くと吹雪である。庭にはうっすらと雪も積もっている。しんしんと寒い。

・リビングにおりるとサシャがすでにストーブに火を入れていた。コーヒーを啜りつつ、ふたりとも各々の読書を進める朝。

・友人に勧められた小説を読み進める。「藻屑蟹」赤松利市。昨日まで読んでいた三浦さんのルポタージュに引き続き、東日本大震災・原発事故をテーマにした小説だ。

・東北のとある街に住む主人公は、除染作業員や原発避難民が故郷に流入することに苛立ちを覚える。いつしか除染作業員として働き始めたところ、原発行政に関わる利権と裏で動く大金を目にする。そこから彼は見えない力によって大きな渦に巻き込まれていく…。

・著者自らが原発除染作業員だったこともあり、その職場環境のリアルな空気感や生活感の描写は凄まじいものがある。そこかしこにエネルギーや利権・癒着といった現代日本の裏にある大きな闇について考えさせられる箇所がありつつ、主人公がどんどん足を取られて運命に引き摺り込まれていく物語の展開が巧み。半日で読み切ってしまう。

・「1時半くらいに幸平くんの家に通りかかる予定。家にいますか?」とメッセージ。12月に会ったシゲルさんだ。バンクーバー在住で林業の仕事をしており、ハイダグワイには数ヶ月に一回ほどのペースで通っている。

・少し家の掃除をしていると、外には晴れ間が出てくる。うっすら積もっていた雪もすっかり溶けてしまった。不思議な天気だ。

・そうこうしているうちにシゲルさんと奥さんを乗せたトラックが到着する。お久しぶりです、と挨拶がわりにハグを交わす。奥さんのタキエさんとははじめまして。ちょうど僕の両親と同世代の元気な二人だ。

・「やはり白人が植民地化以降、ずっと丸太を奪ってきたという背景もあって、先住民と林業という分野において信頼関係を結ぶには苦労したな」
シゲルさんは南部にあるハイダ族の木材加工会社とともにハイダ産の木材の振興に関わっている。僕も今の仕事で先住民コミュニティと関わっているということを話すと、話題は日本人としていかにハイダ族と信頼関係を気づくかというものになる。
「何度も通って自分たちの立場を語りかけ続けて、じわじわ進んできた感覚だね。数年通ってきてやっとハグを交わすこともできるようになった」とシゲルさんは笑う。「ハイダグワイにおける林業をハイダの手に取り戻し、プライドを持てる仕事にする手伝いみたいなものだ。それがちゃんと次の世代に受け継がれていくように」

・奥さんもいっしょに自分の家の敷地を見せて回る。木に関わる仕事をしているふたりなので、家の作りや僕の作りかけのパドルにとても興味を持ってもらった。

・ビーチに出ると、これまでに体感したことがないほどの強い風が吹きつけていた。海には大きな白波が立ち、砂が巻き上げられて肌に打ち付けられる。ふたりも楽しそうだ。

・家に戻ってきて暖をとり、また3人で話し込む。
「よくある偏見だと、カナダ先住民は酒飲んでばっかりで仕事もせず、ホームレスだったり何かの依存症だったりして、ぐうたらに過ごしているというイメージがあるよね。先住民コミュニティに住んで働いていると、やはり見えるものは違うだろうね」とシゲルさん。
「先住民を取り巻くそういう状況も、全て植民地主義のもとで蹂躙されてきた歴史が深く影を落としているようです。僕がこの場所に来る前に想像していたよりも、その傷はずっと深くて衝撃を受けました」
僕はこの場所に住んで七ヶ月。マセットのハイダの人々とともに生き、仕事をし、自然に繰り出す毎日だ。そんな生活の中、彼らの背後にはいつも大いなる暴力の傷跡が垣間見える。

・そのあと、実は今同じ本を読んでいることなどで盛り上がったりし、結局五時間近く話し続けた訪問だった。また来る時にはバンクーバーから日本食を買ってきてもらえるようにお願いをし、別れる。

・夕飯にはサシャが作ってくれたバイソンのステーキをいただき、タモの家のサウナに入りにいく。サウナにはタモと彼の友人というクリスがいた。明日から始まるタモの敷地内での銭湯プロジェクトの一員として、BC州北部のヘーゼルトンからやってきたのだという。バンクーバー出身だが、27の時にヘーゼルトンに移住し、今ではギックサン族先住民コミュニティで大工仕事を教えつつ、妻子とオフグリッドの生活を営んでいる。タロンに似たバイブスを持つクールな男だ。

・タモがユーコン州境にある先住民の村に行く途中に立ち寄り、ヘーゼルトンのパブで食事をとっていたところ、声をかけてきたのがクリスだった。
「村のパブで食事をしていると、にこやかな男がやってきてこういうんだ。『前に止まってるバス、あんたらのかい?とっておきのストーリーがあるはずだな!』ってね。そこからクリスとは長い仲だよ」とタモ。

・「僕も若い頃は君みたいにいろいろと住み込みで働いたりしつつ、旅を続けていた。そして自分も家を作ったりしたくなって、ヘーゼルトンに一度落ち着いたんだ。今はまた旅に出たくなってきたけど」僕が25歳だというと、クリスはそう語った。40歳のクリスはBC北部ののどかな村に、小さな川の流れる大きな敷地を持ち、6歳になる子供がいる。落ち着きたくなる場所を見つけるのは難しいけど、自分が巡り合わせの中でころがりこんだ今の場所にはとても感謝している、と。ヘーゼルトン、行ってみたい。

・クリスが自分の畑のじゃがいもと鹿肉で肉じゃがを作ってくれる。絶品。明日から銭湯作り頑張ろうな、と話して別れる。少し本を読んで寝る。

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