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「しえた」のショールーム

僕はどこでも比較的厚かましく、がめつく生きてしまうタイプの人間だ。僕自身をご存知の方なら重々承知のことと思うので、ここでまた宣言する必要もないとは思うが、皆様におかれましては日頃の寛容なご対応に心から感謝申し上げます。

そんな感じで「どこでも生きていけるブランディング」に精を出しているが、それでも人並みに苦手なもの、というのは有している。激辛なものについてはわざわざ食べる必要性を感じないし、大勢での飲み会に好き好んで出席するタイプでもないし、無駄に主張の激しい腕時計や新書も苦手だ。


一番とは言わないが、なかなかに苦手なこととしてすぐ頭に思い浮かぶのは、「シャワーを浴びずに寝床につくこと」だ。

もちろん、山や僻地にいる時、つまりシャワーを浴びたくても浴びられない時には当たり前のようにそのまま眠りにつくことができる。どんな環境でも数秒で安眠できるというのは、僕の数少ない取り柄の一つだ。

僕が耐えられないのは、シャワーを浴びようと思えば浴びることのできる環境、つまり最低限の文明を有した環境で、シャワーを浴びずに寝る、ということだ。なぜシャワーを浴びようと思えば浴びられるーー電車で30分かかろうが、近所の銭湯に450円払うことになろうがーーのに、その貴重な機会を無視してベッドに入ろうと思えるのか?

そう思いながら、エアビで飲んだ後、周りがそのまま寝床に倒れ込んでゆくのを横目に一人律儀にシャワーを浴びていました。うるさかったかな?


***


僕は特に満員電車が苦手だった。というより、苦手だったことを思い出させられた。

展示会に来てくれた高校時代の友人が、僕が高3のときに、満員電車に乗りたくないから高級官僚になりたい(?)、などとほざいていたことをわざわざ丁寧に教えてくれた。そんなしょうもない主張なんてそうそう覚えていないだろうに、その主張だけは鮮明に覚えているとのことだったから、よほど当時の自分は相当熱心に旗を振り回していたのだろう。自分の幼さにはできるだけ自覚的にいるつもりではあったけど、さすがに閉口した。

もちろん、通勤電車が好きになったわけでもないし、通勤電車が好きな人がいると思ったこともない。なんせ、東京にいた頃は池尻大橋に住んでいたので、東京で一番混雑する路線の一番混雑する区間(東急田園都市線の池尻大橋→渋谷間)を使う羽目になった。わざわざ田園都市線が世田谷中のサラリーマンをかっさらって渋谷にぶちこむ最終コーナーから車両に乗り込むのだ。駅に電車が入ってきた時点でスパゲティの一本も差し込む隙間がなさそうな混みようである。あの息の詰まる(物理)車内にタックルするように体をねじ込むようになったから、僕の厚かましさも重厚感を増したのかもしれないが。


それでも、春のメトロで、新生活を始めてゆく人を見ているのは、それなりに心持ちがいい。

ネクタイが歪んでいる新社会人が不安そうな顔をしている。私立中学の男子校生はスマホゲームに夢中になっている。河合塾の浪人生コースの広告がある。四谷学院の合格者は、今年も自分が受かったことを疑問視している。世界堂の大きな紙袋を提げているのは建築学生だろうか。入学式でもらう生協の手提げ袋を大切そうに持つあの大学生は、どこからこの街にやってきたのだろうか。

渋谷のJKのスカートはあくまで短く、半蔵門のOLの顔はあくまで疲れている。

こんな人間模様を観察しているのは、なかなかに素敵だ。

どれもこれも、漸進的に進んでゆく世界の証明であり、受け継がれていく日々の営みの証明であるように思えるからだ。こういう生き方もあったはずだ、という人生のショールームのようにも捉えることができるかもしれない。

僕も、電車内で同期とばったり会って一緒に研修に向かうことも、ポニーテールを結って心地の良い日焼けをした首筋を見せつけながら試合会場に向かうことも、東京の私立男子校に通ってシャドウバースに高校生活をささげることも、どれも選択しえたかもしれない。それでも、僕はその選択をしなかった。選択肢を持たなかったのかもしれないし、見えていなかったのかもしれない。でも、理由なんてどうでもいい。そこに重さも軽さも、優劣も存在しない。あの人はあの生き方を選んで、僕は僕のーーこう書くと少々仰々しいがーー生き方を選んだ。それだけのことだ。

人には人の相応しい持論があり、テーゼがあり、モーメントがあり、目的がある。異なって当たり前のものなのだ。


当分田園都市線からおさらばできるのは、少々気分のいいことではあるけれど。


***

siroao.

最近、初めてシーシャ屋さんに行きました。何か悪いことをしているわけではないと思うけど、薄暗いし仰々しい機械は出てくるしで、わりとドキドキしました。

香りって記憶と強烈にリンクしていると思いませんか?香る男になりたい。

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