見出し画像

"かがみの孤城" 感想—カガミを割れ!

※ネタバレ有ります


この人は一体何を考えて生きてるんだろう。

これまで出会った中でそう思わせる人が何人かいる。その人の趣味や聴く音楽、好きな映画や本を聞き出して、わかってやろうという気持ちになる。

いつもにやにや、飄々としていたある先輩の好きな作家は辻村深月だった。

辻村深月作品の中でも特に推されていたのが「かがみの孤城」だ。
ということで久しぶりに文庫じゃなくて単行本を買った。


感想


一言で言うと、痛かった。

主人公"こころ"の中学生ならではの繊細な感性は、他人の言葉や表情の1つ1つに悪意や無関心を読み取って、その度に傷付いていたので読んでいて辛かった。

その反面、悪意や無関心を向けてくる人間に対しての怨讐が尋常ではないので、繊細さの裏側の危うさも強く感じた。

自分もどちらかといえば相手の言葉尻を捉えてあーだこーだ脳内会議する方だが、ここまで繊細な感性は持ち合わせておらず、想像し得ない他人の内面を覗き見た気がした。


物語全体としては、"ぼくらの"というアニメを思い出した。

"ぼくらの"は毒親育ちの小学生が毒親エピソードを回想しながら、操作すると死ぬロボットに乗って敵と戦う鬱アニメだが、"かがみの孤城"に登場する7人もやや毒親育ちという設定だ。

ただ"かがみの孤城"ではトラウマを乗り越えて成長するという描写はほとんど無く少し物足りなかった。

物語の前半から中盤にかけてはサクサク読めるが、登場人物が中学生ということで、自分の気持ちを表現することも他人を理解することもままならず、心に残ったエピソードがなくて残念だった。


この本で感動したのは終盤にかけての伏線回収だ。

パズルのピースがぴったり嵌ったような、ルービックキューブが綺麗に揃ったような気持ち良さがある。

夢とか意識の不思議をSFとファンタジーでパッケージングして繰り出す怒涛の展開には感動、というか感心してしまった。ラストまで??な展開だったけど納得の本屋大賞である。


まとめ


自分の領域を守るためにある程度他人を線引きすること
自分の気持ちを声に出して伝えることは難しい。

"こころ"の成長はその二つだったように思う。

しかし、他人の内面や環境、歴史を想像して受け入れるのもまた難しい。
"かがみの孤城"ではいじめっ子や無関心な先生は徹底的に悪者に描かれていたけど、悪者の心理描写やエピソードももう少しあったらいいなと思った。

大人が読んだら、こういう時期あったよね…で済んでしまう内容かもしれないが、自らの"かがみの孤城"を持たないこの本を読む中学生は果たして救われるだろうか。

"かがみの孤城"は、穿った見方をすれば
「周りの大人にいじめから守られ、イケメンハワイ留学サッカー少年と出会うまでの、"こころ"の妄想である。」
と片付けられなくもないからだ。

再び学校に行き始めて社会的な人間関係を経験すると思うので、そこからの"こころ"のドラマが気になった。


他人を線引きするか受け入れるかって本当に難しい。

器を広げれば他人を受け入れられるが、その分ダメージもある。
器を狭めれば他人から傷つけられる機会は減るが、喜びも少ない。

この本は、"こころ"が「かがみの孤城」でしたように、たくさん色んな人に揉まれて器を広げていきたいと思わせてくれた。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?