[戯曲]断末魔(期間限定公開中)
作:野宮有姫
2015年上演。座ったままよく動くリーディング。哲学コメディと称す。
初演詳細はこちら。
設定など
詩集断末魔 序文
どこからか聞こえるその声を、ずっと、どうにか愛そうと試みてきた。
それがどんなに耳障りでも不愉快でも、ぼくはずぅっと、どうにかして愛そうと試みてきた。
鞄の底でサイダーがはじけた日も、
こじらせた熱で味覚が残らず消えた日も、
灰溜まりの部屋の中冷房のリモコンを失くした日でさえも。
ぼくは決して試みることをやめなかった。
いつだって、ほんとうに、こころから、そのこえを愛してみたかった。
愛してみたかったのだ。
役割
・作家 「作家」。女優の「恋人」。
・女優 「女優」。演出家のかつての「相棒」。
・演出家 「演出家」。ホームレスの「信仰者」。
・ホームレス 「ホームレス」。作家の作品の「愛読者」。
参考
・末魔 梵語。「maruman(マルマン)」という言葉の音訳。
数十だか数百だかあるいわば人体の急所で、これを一箇所でも傷つけると激痛を伴って死ぬといわれる。【断末魔】とは「末魔」を「断つ」で死ぬ時。死の間際の苦痛やそれに相当する苦しみをいう。
舞台
2016年、9月の半ば。日本。
客入れ
2015年。彼岸を目前に控え、秋の気配が感じられてきた頃。
終戦から70年の「イベント」的番組は一通り流れつくした。無色の、しかし透明ではない風が吹き始め、道の端には、ところどころに彼岸花が咲く。
これからの季節、散歩するにも丁度良さげな東京らしい情緒のある街で、人々は或るカフェバーへと足を運ぶ。「絵空箱」という名のその店では、スペースを多くの絵空事のために提供してきた。そしてその日、この地点は世界中のどこよりも【劇場】となっている。
【劇場】に入ると、ラフな雰囲気で男女が接客をしている。聴こえてくるのは聞き覚えのある音楽。
人々は奥にあるカウンターでドリンクを購入し、「観客席」として配置された椅子に座る。
「舞台」として区切られた空間には椅子が配置されており、一冊ずつ真っ赤な「戯曲」ときちんと畳まれた「衣装」が置かれている。
開演前のアナウンスの後、音楽が消える。
「舞台」にはうろつく四人の男女。誰ともなく、おもむろに、歌を奏ではじめる。懐かしの名曲、『スタンド・バイ・ミー』。あるものは照れながら、あるものはノリノリで、歌でコミュニケーションをとりながら、それぞれの席を選び、「衣装」に着替えてゆく。
四人、それぞれの役割の配置に坐し、やっとぴったり合った息とハーモニーで唄いあげようとする。瞬間、スピーカーから遮るように本家の唄声が流れる。四人、ストップ。
うながされるように所定の位置につく。
本編
*
作家 (泣いている)
女優 ただいま・・・うえ
作家 (男泣きをして気絶しかけている)
女優 なに、どうしたの!白目白目
作家 いいよなああああ
女優 何が
作家 スタンド・バイ・ミー
女優 ああ、・・・
作家 おかえり
女優 ただいま。やってたんだ
作家 いやもうめっちゃいいわあああずるいわああああおれも死体探して線路歩きたいわあああ
女優 そんな泣く感じの映画だっけ
作家 なんていうの、この、とめどない・・・ノスタルジー?
女優 あ~、弱いもんねそういうの
作家 うん
女優 結構前だし見たの、忘れちゃった
作家 二度と戻らない夏休み!的な
演出家 (笑う)
作家 !
女優 え?
作家 いやなんでも
演出家 説明しよう!この売れない作家、恋人の家にほぼひきこもって生活している、永遠のナツヤスミストなのである!
作家 なんだよナツヤスミストって
女優 は?
作家 いやなんか、ごめん耳鳴り的な幻聴が
女優 え、なに、また寝れてないの?
作家 まあ、っていうか、夢見がひどいっていうか
女優 なんだっけ、ナレ、ナルトコ…
作家 ナルコレプシー
女優 ああ。それ全然覚えらんないんだよね
演出家 (ええ声で)説明しよう!ナルコレプシーとは急な睡眠発作やひどい悪夢などなどを伴う睡眠障害の1種である!
作家 うんそうそう
演出家 (ええ声で早口に)彼は悪化しすぎると社会生活に支障もあるこの病をわずらっ、ているのを言い訳に、彼女に寄生しているクズ男なのである!
作家 うっさい!!!
女優 ねえ誰と喋ってんの?
作家 え、あいや、
女優 気持ち悪いんだけどまじで大丈夫?
作家 うんなんかやばいかもしんない!
女優 だよね
作家 ごめん部屋行くね!おやすみ!!!
女優 あちょっと!・・・なんだかなぁ
*
作家 なんなんだようるせえよなに説明しよう!って
演出家 わかりやすいかなとおもって
作家 誰に対してだよ!適切な解説過ぎて悲しいよ!はあ・・・
演出家 大丈夫かい?
作家 やっぱまた病院行った方がいいかな
演出家 そんなに辛いの?
作家 こんなはっきり四六時中白昼夢状態ってやばいかな、
演出家 あれ、ぼくの事?
作家 いままでこんなはっきり幻覚までは見えなかったし、
演出家 こないだも言ったけどぼくきみの夢でも幻覚でもなくて
作家 でもなああ結局睡眠薬とか出されるだけなら金もったいないしなあ
演出家 聞いてってえ?まだ信じてくれないの仕方ないな!(ええ声で)説明しよ
作家 それもういいから!あとその声うざい!!!
演出家 ねえお願いちゃんと聞いてってば~!
作家 急にキャラかわんなよ。
演出家 だからさ、夢じゃなくて、まじであれなんだって、あのあれ、幽霊的なやつなんだって!
作家 でも死んでないんでしょ
演出家 うんそう、植物状態だから、一応生霊的な
作家 悪いけど俺心霊現象とか信じないから。
演出家 だって現に此処に
作家 だから脳が見せてんでしょ俺の、なんでか知らないけど。
演出家 想像の産物だって?
作家 無意識的なね。
演出家 ひとが死ぬ気で化けて出てきてんのに!
作家 それよ、そもそも俺あんたと面識ないし、化けて出られる意味わかんないし
演出家 だからそれは、・・・ちゃんとあるんだよたぶん
作家 何が
演出家 必然性が。
作家 ほらやっぱり。俺の夢じゃん
演出家 え?
作家 「必然性が」。ってなんか、俺が言いそうなことだもん
演出家 じゃあ、もうそれでいいから聞いてよ。ぼくの話
作家 おもしろいの、それ
演出家 自分が信じられないのか
作家 (笑う)(舌打ちする)
音楽。
*
オープニングアクト。
四人の背後には文字が投影される。
【Rule: 選択した居場所からはなれてはならない。
与えられた本から目を背けてはならない。
Mission: 自分の役割を最大限に面白く生きること。】
四人、歌に合わせ椅子に座った状態でポージング&ダンス。
わかりやすくオープニング感のあるシーン。
歌おわりで、本を開き、詩を読みはじめる。
どこからか聞こえるそのこえを、ずっと、どうにか愛そうと試みてきた。
それがどんなに耳障りで不愉快でも、
ぼくはずぅっと、どうにかして愛そうと試みてきた。
鞄の底でサイダーがはじけた日も、
こじらせた熱のせいで味覚が残らず消えた日も、
灰溜まりの部屋で冷房のリモコンを失くしてしまった日でさえも。
ぼくは決して試みることをやめなかった。
いつだって、ほんとうに、こころから、そのこえを愛してみたかった。
愛してみたかったのだ
バックに断末魔の文字。音楽F.O,、明転。
*
演出家 えっと、じゃあとりあえず自己紹介するね!
作家 え、あ、うん
演出家 どうも、【演出家】(※俳優の本名、もしくはすきな名前。以降同様)です。生前・・・っていってもまだ死んでないんだけど、生前は、アルバイトとかボランティア活動とかしつつ、ちきんづって劇団を主宰してました
作家 ちきんづ?って、【女優】(※俳優の本名、もしくはすきな名前。以降同様)のやってる、
演出家 ああそう、所属してる劇団!ぼくと【女優】のふたりだけだけど
作家 勝手に自殺したっていう無責任な主宰、
演出家 そうその無責任な主宰!まだ死んでないけど
作家 ああ・・・
演出家 てか【女優】、ちきんづ、つづけてるんだ。あ、心配しなくても、【女優】とはあくまで相棒だから!
作家 なに心配って
演出家 だってほら、あれでしょ、付き合ってるんだよね二人
作家 まあ・・・
演出家 うん。だから気にしないで、安心して。よろしくやってもらって大丈夫だから。相棒だから
作家 近い!距離が近い!
演出家 で。こうして死ぬ気で化けて出てきた理由は、・・・ぶっちゃけよくわかんないんだけど(笑)
作家 はあ?
演出家 ごめんて。いやまじそこがさ、
あるのは確かなのよここに、居るんだから。だけど絡まってて、明確じゃなくて、もやもやっと・・・
作家 ・・・
演出家 でも!目的ははっきりしてる
作家 目的?
演出家 そう。僕の話をもとにして本を書いて欲しいんだ。きみに!
作家 本?なんで
演出家 だから、それはこれから考えるんだってば~
作家 なんだよそれ・・・
演出家 結論に対して理由があとからついてくるのがそんなに悪いことか?
作家 ・・・面倒な夢だなあああ
演出家 一年くらい前にあったホームレスの集団自殺事件おぼえてる?
作家 は?あーあったあった。東京タワーで・・・占拠して・・・
演出家 うん。それ!実はね、あの事件が起きるように仕向けたの、ぼくなんだ
作家 はい?
演出家 きっかけは、ある女ホームレスとの出会いだった。どこからはじめたらいいかわかんないけど、とりあえず、そっから話すよ
作家 いやいやいや勝手にはじめんな
演出家 あれは、一年前の夏のことでした
作家 聞けよ!
演出家 彼女は他のホームレス仲間から、キュウソ様とよばれていたんだけど、
*
演出家 それがまじなんかやばくてさ
女優 教祖様?
演出家 キュウソ様!!!
女優 旧ソ連的な教団?
演出家 そ、れはなんかわかんないけどすげえやばそうだね。じゃなくて、なんかさ、覚えてるらしいのよ
女優 覚えてる
演出家 そう。なんかね、
*
ホームレス あの、あれです。ぜんぜん、信じてくれなくてもいいんですけど。あの、みんな、前世って知ってますか? いまのカラダに生まれるまえの・・・うん、うんうん。そう。その記憶がね、あるんです自分
*
女優 前世、
演出家 うん
女優 それは・・・なんか・・・
*
ホームレス あ、ひいた!ひいたよね!うん、それ正解!気持ち悪いよね怪しいよね、そうなんです自分でもね、ふつうこんなことおぼえてるもんじゃないっていうのはわかるんです。ひととして。でも、なんていうか、おぼえてるもんはおぼえてるからさ。どうしようもなくって。で、ですね、そう。前世、自分は、ネズミだったんですけど
*
女優 ねずみ
演出家 やばいでしょ?
女優 うんぜんぜんわかんないけどとりあえずやばいね。あ、だから、キュウソ様
演出家 うん、
女優 窮鼠猫を噛む、的な
演出家 たぶんね
女優 ある意味旧ソ連的な、より怖いんだけど
演出家 たしかに。しかもさ、
*
ホームレス あの、ねずみって、数が増えすぎるとどうするか知ってますか?しらない?
あ、なんかすごい簡単なんだけどね、 死ぬんです。みんなで。
いい感じの数になるまで、 え?あ、それはなんていうかフィーリングで察する感じなんだけど、
順番にうみにこう、ぴょーんと。飛び込んで死ぬの。(笑う)
でもね、自分そのとき、死にぞこなっちゃって。
なんていうか、その・・・・・・チキっちゃって。死ぬのこわっ ってなっちゃって。みんなと一緒にぴょーんと、できなかったんですよ。
それがさぁ、いまめっちゃ後悔してて!
自分ちょっと頭悪いっていうか鈍いっていうか・・・いまさらになって、
あのときあのタイミングでみんなが死んだのってめっちゃ自然なことだったなぁ、超しっくりだわ~ってなっててさ。ねずみ的フィーリングっていうか。せかいの、流れ、とか。リズム感、っていうか。いまさらノリノリになっちゃって(笑う)、で、
*
演出家 で、そのねずみ的フィーリングでいうと、いまがタイミングらしいよ
女優 タイミング
演出家 人間の数を減らす
女優 こわ!!!
演出家 いや改めていうとまじでそうだね。そもそも、ねずみの集団自殺する性質って迷信だし
女優 え?
演出家 レミングって種類だってかな。海に飛び込むっていうのは、目撃されているけど、そいつら泳ぐの得意らしくて、住み替えしてるだけなんだって
女優 じゃあまあ、ウソ、ってことか
演出家 っていうか、思い込み、って感じかな
女優 でも、それを信じちゃってるんでしょ、その・・・ホームレスのひとたち?
演出家 そう。そこが一番やばいんだよね
女優 ふーん・・・
演出家 だって、なんか、すげーわかるもん
女優 え?
演出家 うまく言えないけどさ。おもしろいんだよめちゃめちゃ。聞いちゃうっていうか。そうなんだなって気がしちゃうっていうか。それに、
女優 それに?
演出家 うまく言えないわ
女優 ・・・
*
ホームレス あ!でもあのまじで、こんなのひとしてまちがっているから、ぜんぜん、信じてくれなくていいんだ。
ひととして、は、せかいのリズムより、世間とか、社会のリズムにノリノリになれる方が、かっこいいんだもんね
演出家 そうかもしれません
ホームレス うん。自分には、上手くその感じにはノリきれないけど、ひととしてノリきれてるひとって、すごいかっこいいとおもうもん。ただ、
演出家 ただ?
ホームレス だからっていうか、なんていうか、ここのさ、ここら辺のテントのみんなとか、ひととして、(笑う)ノリ悪い感じのひとって、すごく、すきなんだよね。上手くいえないけど、
演出家 親近感、ですか?
ホームレス うーん。っていうか、いっしょの音楽に、ノれそうな、感じがして。たのしいんだ。みんなといると
演出家 なるほど
ホームレス あなたも、そんな感じ
演出家 え?
ホームレス 信じてないのに、信じてくれるひとって、はじめてかもしれない。変なひとだね
演出家 変わってるとは、言われるかもしれません
ホームレス (笑う)うん。なんか、仲良くなれそうな感じ
演出家 (笑う)
ホームレス あ、ごめん!!!!
演出家 え!?
ホームレス いやごめんもしかしてめっちゃ失礼なこと言った?!あの、あれ、あなたがひととしてノリ悪いとか社会適応出来てなさそうとかいいたいんじゃなくてね!?
演出家 あいや、
ホームレス すみません・・・
演出家 (笑う)また、遊びにきますね
ホームレス ほんとに?
演出家 はい。次、金曜日の炊き出しの手伝いでくるので、その時とか
ホームレス 豚汁の日?
演出家 そうです
ホームレス そっか。じゃあ、またね
演出家 はい
*
演出家 ねえちょっと、ちゃんとメモってって!
作家 え、ああ
演出家 ここかなり大事なとこだからねたぶん。頼むよ
作家 ああ・・・一応、起きたらメモるわ
演出家 は?
作家 やっぱ俺の想像力ってすごいなあ
演出家 まだ信じてないのかよ!
作家 だから、俺心霊現象とかは
演出家 あああもういいや、とりあえず。なんでもいいからちゃんと書いてよ、きみ、作家なんだろ
作家 売れない作家ね
演出家 そこ根に持つ!?性格悪!
作家 作家なんて性格悪くなきゃなれないだろ
演出家 ああ・・・とにかくほんと頼むよ。とりあえずぼく一旦戻るから
作家 どこに?
演出家 身体に。あんま離れすぎてるとまじであれだからあの、死んじゃうからさ
作家 ああ・・・そういう設定なの
演出家 設定っていうかわかんのよなんか、幽霊的なフィーリングで!死んでないけど!こっちは命かけてるんだからさ。かいてよ、あんた、かけるんだから。じゃあ
作家 あ
*
作家 胸糞悪いなぁ、と思いつつ、つい筆をとっておきたくなってしまうのは、やっぱあれですかね。職業病ってやつなんですかね。だとしたら不眠より耳鳴りより悪夢より幻覚よりよっぽど質悪いわ。
夢が作品の肥やしになることは、少なくないんですけど、そもそも刺激を自家発電の夢から得て昇華するなんて、ほぼ自慰行為に等しいですよね。
あ、あ、あ、虚しい。むなしい。空しい!
ものを書くなんてていうのはほんと、向き合えば向き合うほど空しいことだと思いませんか。
この、たまらない、ことばにできない空しさを感じているときほど、自分が生きていると感じることはありません。
たぶん、宇宙の中心にある一番熱いエネルギーは、愛なんかじゃなく空しさなんだな。
ああ、でも、これ次〆切の原稿と全然関係ねえや、やっべー(笑う)
*
女優 調子良さそうじゃん
作家 うん?あー
女優 あ、すまぬ邪魔した?
作家 ううん、キリいいとこ
女優 おう。ど?今度は〆切守れそう?
作家 え?あー(笑う)まあ……
女優 一晩中やってたじゃん。けっこう進んだんじゃない?
作家 あー、もう朝かー、ちょっと歯磨いてくるわー
女優 いってらしゃい
*
作家 (ガラガラガラ、ぺ。)あ。あの胸糞悪い夢のせいで誤解されてるかもしれないんで一応訂正しとくと、別に俺彼女に寄生してるとか、ヒモとかニートとかではなく、ちょっとまあ若干。居候状態といえなくもない感じではあるけれども、
一応ちゃんと、原稿料もらって書いてる、ものも、あるんですよ?
女優 【作家】(※俳優の本名、もしくはすきな名前。以降同様)
作家 後々は純文学で芥川賞!とか全然狙ってるし、
女優 ねえ【作家】
作家 でも一番は小説じゃなくて、詩人として名をあげられたらなーって思ってるんですけど
*
女優 おい【作家】!!!
*
作家 はいっ
女優 何回呼べば気がつくんだよ我が家そんな広かったか?豪邸か?夢のマイホームだっけか?
作家 ごめんちょっと考え事してて、え、なに?
女優 いや、なに、これ
作家 これ?
女優 この原稿
作家 あ、え、読んだの?
女優 勝手にみてごめんなさい
作家 素直にいわれると別にいいけど
女優 で?なんなんこれ
作家 で、って・・・やべ、仕事と全然関係ないこと書いてたのバレた・・・?
女優 は?
作家 あ~、えっと・・・ごめんちゃんと次〆切のもこれから書くから!つい、
女優 どうでもいいんだよそんなことは。じゃなくて、・・・じゃなくてさ
作家 ん?
女優 この、話に出てきてる、演出家の男って、
作家 ああ・・・いやなんか、夢、みて
女優 夢?
作家 いったじゃん、最近夢見悪いって。なんかさ、ほら、【女優】がよく話してるあの、クズな主宰?の男ってのが夢にでてきてね。すげえ傍若無人にしゃべくり倒していってさ。自分は幽霊だ~本を書いてくれ~って
女優 はあ?幽霊だあ?
作家 いやたぶん、なんか、【女優】から聞いた話とかが、印象に残ってて、夢にこう出てきただけだと思うんだけど
女優 あたりまえだわうらめしいのはこっちの台詞だわ
作家 ・・・そんないや?その、主宰?のこと
女優 許せないでしょ勝手にいなくなりやがったクソ男
作家 そうか・・・
女優 ・・・その、夢で、そいつが、このホームレスの話、してたの?
作家 え?ああ、うん
女優 他にはなんか話してた?
作家 他に?
女優 ・・・いや、なんでもないわ。別に
作家 ・・・ああ
女優 ちょっと、出かけてくるわ
作家 え、ああ、
女優 夕飯までには帰るから
作家 あ、うん。いってらっしゃい
*
演出家 あれはあれだね、ぼくの見舞いに行ったねたぶん
作家 うおう!
演出家 昨日ぶり
作家 またあんたの夢かよふざけんなよ・・・
演出家 だから夢じゃなくて・・・まあ、どうでもいいか。ちゃんと書いてくれてるみたいだし
作家 (舌打ち)
演出家 「女ホームレスの存在になぜこれ程ひきつけられるのか、男にはまだわからない。
ただ、たとえ思い込みであったとしても、前世のものがたりが彼女にとっての真実であるということだけはよくわかった」
作家 音読すんなよ!
演出家 「ものがたる彼女の瞳の奥には、確かに、そう思わせる光が宿っていた。
それは、こころよりももっと奥から放たれる、命の火の欠片であるようにも思えた」・・・
作家 だから!
演出家 ・・・
作家 いや、無言もやめてよ
演出家 出来るもんなんだなぁと思って
作家 なにが
演出家 うまく?ことばに?
作家 ばかにしてんの?
演出家 してないしてない!
作家 くっさいなあとか思ってんでしょ。いいよ。
演出家 ・・・。
で、この間の話のつづきだけど。
あれから何度も、キュウソさまのいる河原に遊びにいってさ、
*
ホームレス (鼻歌)
演出家 なんですか、それ
ホームレス ん?歌
演出家 じゃなくてその、
ホームレス うん?ああ、これはね、宝物。なのだよ
演出家 宝物
ホームレス そう
演出家 その、きったないノートが
ホームレス (笑う)確かに、ボロくなったね
演出家 気になるなぁ
ホームレス うん?
演出家 そのノートを宝たらしめんとする価値の在り処がどこにあるのか
ホームレス うん・・・?
演出家 一見の価値と内包している価値の間の差が大きい代物っておもしろいでしょ。そこには必ずドラマがあり、ドラマを引き起こす可能性を持っている
ホームレス ・・・
演出家 無言やめてもらえます?恥ずかしいんで
ホームレス なんで?
演出家 いや、たしかにちょっとクサかったかもしれないけど、
ホームレス そうかな?
演出家 ・・・。で。宝物の正体は?
ホームレス (笑う)このノートは、有名な作家がはじめてかいた、せかいに一冊しかない、詩集なんだ
演出家 詩集
ホームレス そう
演出家 誰なんですかその作家、って
※
ホームレス なまえは、あれ、か・・か・・・か、のつく・・・なんだっけ?!
演出家 ええ!?かかかか。川端康成?
ホームレス いやちがうな
演出家 あ。カフカ!
ホームレス ちがう。
演出家 か・・きのもとやすまろ・・?
ホームレス あ・・・!全然ちがうわ
演出家 か、か、か・・・
ホームレス まあいいやなんでも。いってもわかんないと思うし
演出家 でも有名なひとなんでしょ?
ホームレス 正確にいうと、たぶん有名になんだろうなぁ、ってひと?
演出家 大きな違いだ!え、じゃあ、
ホームレス 中学の時のね、同級生が書いて、くれたの
演出家 はあ、
ホームレス っていうか、無理やりもらったっていうか
演出家 無理やり
(※~、作家の名前は、初演当時の俳優の名前に準じている。
上演の際の作家役のなまえに合わせて調整する)
*
作家 タイム!!!
演出家 え、なに
作家 なにじゃねぇよ何勝手にひとの脳内から黒歴史ひっぱりだしてきてんだよ!
演出家 黒歴史?
作家 たしかに、女ホームレス出てきたときから、なんか【ホームレス】(※俳優の本名、もしくはすきな名前。以降同様)思い出すなぁとは思ってたけどさ
演出家 【ホームレス】?
作家 だからそのこのなまえ
演出家 おお・・・え!?てことは、あれ書いたのって?え、ええちなみに、おなまえは、
作家 【作家】、だけど
演出家 【作家】!まじか!!!!全っ然有名じゃないじゃん!
作家 うるせえな!そんな、中学の時の記憶と、無理に繋げることないじゃん俺の脳みそ!
演出家 ああ・・・はいはい、想像の産物なんですもんね
作家 無意識的なね!
演出家 いやしかし、同級生の女の子に?詩を書いて無理やりプレゼントとか?かなり・・・
作家 ちげえよ!勝手に拾って勝手に読んで、どうしても欲しいっていうから・・・
演出家 詩を書いたノート落として同級生に拾われたの!?
作家 あああ
演出家 うわあそれはガチで死にたくなるやつだわ・・・
作家 ううううう
演出家 まさか、そのこ、実は気になってたこだったり・・・はしないか流石に
作家 ・・・
演出家 ・・・まじか
作家 ひくな!!!
演出家 すきなこに褒められて、調子乗って作家目指しちゃったわけだ
作家 悪い!?
演出家 いやぁ、いいんじゃないですか?
作家 あああ殴りたい
演出家 無理ですね、幽霊なんで。死んでないけど
作家 (舌打ち)・・・しかもよりによって、なんで初恋のひとがヤバイホームレスになってる設定なんだか・・・
演出家 ・・・初恋だったんだ
作家 拾うな!
演出家 個性的な趣味だね
作家 うるっせえな
演出家 とにかく、はなしまだ終わってないから、ちょっと黙ってて
作家 (なにか言いかける)
*
ホームレス だってさ、なんかもう、これ自分じゃんって。ことばに出来るんじゃんって。
もやもや、ぐしゃーってのが、なんかこう、ぱっきり、がしっとなって。
それでどうしても、欲しくなっちゃったんだよね
演出家 はあ。あー、代弁、みたいな
ホームレス うーん?そうかも?
演出家 確かに。わかる気がします。それくらいのとき、すきになった曲とか。すごい大事だったりしますもん
ホームレス 代弁かあ
演出家 でも・・・なんか、あれですね
ホームレス ?
演出家 キュウソさまにも中学生のときとかあったんですね
ホームレス 一応、日本人だからね
演出家 理由になってますかそれ
ホームレス 決めてたから。二十歳になって、成人するまでは、ちゃんと社会のリズムにあわせられるようにしよう!って
演出家 逆ですけどねふつう
ホームレス (笑う)はじめてだったからさ
演出家 はい?
ホームレス 自分が、たしかに、居る、っておもえたの
演出家 ・・・ふぅん
ホームレス 読む?
演出家 え!いいんですか
ホームレス うん。はい
演出家 ・・・詩集 断末魔
*
どこかで聞いたような、邦楽ロックバンドの音楽が流れる。
演出家 ノートに刻まれた癖の強い文字の羅列に、当時ぼくは正直いって、彼女にとってのそれと同じだけの個人的価値を見出すことはできませんでした。まあ、・・・正直いって、おもっていたより。
つまり、中学生が書いたポエム~っていうのから予想していたよりは、何か。こう・・・感じる、気がしたけど。
断末魔。・・・。うん。
ちなみに、僕の場合は、この曲。このアーティストの歌が、中学くらいのときからすごく好きでした
(口ずさむ)
いい曲だなぁ・・・(口ずさむ。だんだんと、ガチで唄いはじめる)
*
女優 ちょっと。ねえ。おい。止まれって!
演出家 いたっ いったー!
女優 いやなに店ん中で熱唱してんの?はずかしいでしょ?!
演出家 え?あ、うっかり
女優 うっかりじゃねえよTPO考えろ
演出家 すみませんっ、・・・いやだってさ、珍しくない?この曲、アルバムにしか入ってないやつじゃん
女優 だとしてもだわ
演出家 今日のバイトのひとの趣味かな。絶対友達になれるわ
女優 はいはい。はい、コーヒー
演出家 あ、ありがとー
女優 で?
演出家 え?
女優 どうするの?
演出家 ああ、
女優 ああじゃなくてさ
演出家 とりあえず、延期かな。まだちゃんとは、動きだす前だったし
女優 いいのそれで
演出家 無理やりやるくらいならその方がいいでしょ。簡単にかわりのひとって感じじゃないし。よかった~劇場抑える前で
女優 そうだけどさ、でも、急に就活することにしたから~とか、
演出家 人生には、責任持てないし
女優 親でも持てないでしょ、そんな責任
演出家 あー・・・(笑う)そっか
女優 いいんだよ、実際。別に。
普通に応援したいしむしろめちゃめちゃがんばってくんないとすごいやだけど。でも、・・・そういうことじゃなくて
演出家 うん
女優 なんかこう、こう・・
演出家 たぶんさ、足りないんだよ結局、いまのまんまじゃ
女優 たりない?
演出家 うん。結局いまのまんまじゃさ、
社会とか世の中のリズムと、影響しあえてないとこにいて。
それだと、人生ってドラマの中では、どうでもいいものになっちゃうんじゃん。
女優 ?
演出家 楽しいだけの、役にはたたない、必要ないもの。
女優 でもそれは、
演出家 この間、行ってきたっていったじゃん?デモ
女優 ああ。けっこうひと集まったんでしょ?
演出家 うん。正直、もっと面白くできないのかなって感じでさ
女優 面白さをもとめるものじゃなくない?
演出家 求めるべきなんだよ、たぶん。いまよりもっと、社会とせかいとを切り離さないで、生きるべきなんだ。みんな。同じステージで
女優 ごめん、なんのはなしだっけ?
演出家 このまんまってわけにいかないかもなってはなし
女優 ああ。うん。
だからそう、あたしは、・・・ちゃんと、ざまあみろっていいたいんだわあたしは
演出家 ざまあみろ?
女優 そう。そんでちゃんと、すげえ悔しがらせてやりたい。
同じ場所にいなくても。ちゃんと、見ていたいって思わせたいし思わせて欲しい。
そうしないとさ、一緒にやってきたこれまでが、なかったことになりそうで、すごいやなんだ
演出家 うん。それこそたとえば、
女優 たとえば?
演出家 弱者の反逆、とかね
女優 弱者の反逆……
演出家 考えないとなぁ、どうしたらもっと、この世界を面白くできるのか
*
作家 弱者の反逆
演出家 ずっと考えてたんだ、キュウソさまにあったときから。いや、ちがうか。もっと前から、考えてたから、繋がったのかも
作家 ・・・ホームレスの集団自殺事件?
演出家 届かない声を届けるために、舞台をやってきた。少しでもこのせかいがよくなるように。
でも気がついたんだ。それだけじゃ足りない、って。
そんな悠長なこといってられないって。
劇場の声は日常に届かない
作家 それなら、日常を劇場にするしかない
*
ホームレス 「日常は劇場となり 劇場は日常となり
匣の中身は終始ひっくり返るので
いまではもう誰にも災厄と希望が見分けられない」
*
演出家 彼女は生まれながらに役者だった。前世という観客席が、彼女にとってのこの世界をたしかに舞台にしていた。
そうして、塔の上を占拠して、デモを起こしたんだ。
無理強いをしなくても彼女のあとには多くのひとがついていった。
ぼくもいのちをかけた。まあ、死にぞこなったけど
作家 ・・・
演出家 なんか、わかったかもしれない。
ぼくたちは命をかけたけど、結局、声は届かなくて忘れられてしまった。
だから、もう一度、本に書いて、この事件のことをみんなに思い出して欲しかったんだ、って気がしてきた
作家 いや、ちょいまって。
気がしてきたって・・・気持ちよさげに語ってもらったところ悪いんだけど。全然わかんないわ
演出家 何が?
作家 そもそも、そこまでして主張したかったことが曖昧過ぎる。
去年・・・・・・2015年の、夏とか秋のあたりっていったらまあ、安保のこととか?予想はつくけど。
あんたの話聞いてると、別に主張そのものよりも、そのデモを起こすこと、って方が大事って感じがする
演出家 それは、別に、なかったんじゃなくて。あり過ぎて、ひとつに絞れなかったんだよ。
具体的なひとつのこと、っていうより、個人の声がちっとも、届かない感じが怖くて、これからもっとどんどん、そうなってく気がして・・・
いやでもちゃんと、すげえ、考えたよ?じゃあ本当に改正案が間違ってるの?とか。
でも、そういう問題じゃなく、むしろ正しさがあるからこそ簡単に変えちゃだめなこともあるじゃん
作家 とにかくはっきりと、効果的に演出して、デモを起こしてみたかった
演出家 そう!結局、たいしてなにもかわらなかったけど
作家 でもさ、なんのために、集団自殺したわけ?
東京タワーをホームレスたちが占拠したってだけで、演出としては十分じゃないの?
演出家 それは、・・・たしかに。命かけるのと、命すてるのは、ちがうわ
作家 で、ホームレスたちが死んだのに、あんたが付き合った意味もわからない
演出家 え?
作家 仮によ、仮にあんたが非人道的で自分勝手な自己陶酔サイコ野郎で、本気でひとの命演出で使ってたとしてもさ、
自分まで舞台にあがって死ぬ必要ないじゃん。あんた、演出家なんでしょ。
見届けるのが一番、なんというか、目的?になるんじゃないの?
演出家 それは、・・・たしかに・・
作家 ドラマチックで簡潔だけど、思想や想像と、現実を安易に結びつけすぎてて必然性がたりない。
キャラクターにリアリティがなくなってる。突飛な人物ほど、もっとこう、生っぽい裏付けが・・・
演出家 まってまって!え、じゃあぼくなんで死んだの!?
作家 いや、知らないけど・・・ただまぁその事件?て、そんなに計算された通りのもんだったのかなって感じはするけど
演出家 計算と違った?
作家 なんかこじつけてんじゃない?頭の中と、現実を
演出家 ・・・でも、思ったんだよ、ほんとに
作家 なにを?
演出家 このままじゃ生きてらんないって
作家 なんで?
演出家 それは、
どこかから、唄声。
スタンド・バイ・ミーが聴こえてくる。
演出家 あ。あ。あ。ちょっと待ってやばい、
作家 は?
演出家 これ、だめだ触ったら、しぬ、しぬしぬしぬしぬしんじゃう!
作家 え?か、身体戻る!?
演出家 いや、死ぬのそっちじゃなくて……
作家 そっちってどっち!?
演出家 だから、
*
唄声、止まる。
女優 病院の前まで来て立ち止まる。
結局のところ他人の自分には、病室まで立ち入る、勇気もなくて。
それでも繰り返しここまできてしまう自分が、だいきらいだ。
幽霊とか、冗談じゃねぇよ。本書いてくれ?は?ふざけんなばか。
あたしは、あいつのことを思い出したことなんて一度もない。思い出せるほど、忘れてやる気もない。
あいつの話の中ではあたしは部外者でしかなかったんだろうけど。
いくらなんでもちょっと、大事なところ蚊帳の外で話進めてくれちゃいすぎだと思いませんか?
そりゃたしかに、あたしは事件のことも、そんなことをしでかせるあいつのことも、
ちっとも知らなかった。だけど、
この後悔だけは、あいつだけのものにさせたくない。
あのバカと話した、最後の夜のことは
* ※このシーンは、女優のモノローグ以外、わざとデフォルメされた、うさんくさい芝居、で行う構想で書かれている。強制ではない。
女優 (泣いている)
演出家 (笑う)
女優 いいよなああああスタンド・バイ・ミー
演出家 うん(笑う)
女優 まじずるいわ。あたしも死体探して線路とか歩きたいわ
演出家 (笑う)
女優 さっきから何笑ってんの
演出家 いや、(笑う)すきだよねこういうの
女優 だってさ、この、なんていうの。とめどない…とめどない……
演出家 ノスタルジー?
女優 それ!!!ひと夏の冒険、みたいな!
演出家 なるほど、ドラマか
女優 ずるいよなぁ男の子
演出家 男?なんで?
女優 だってこういう・・・なんていうか。冒険とか。そこまでおっきいことじゃなくても、あれ。自分探しの旅!とか。やって許されんのって男の子だけじゃん
演出家 えええ?
女優 イタいでしょ、自分探しの旅!とかしちゃってる女
演出家 男でもなかなかイタいと思うけど
女優 イタくても、許されるじゃん
演出家 そういうもんかな
女優 そうだよ、わかんないけど。いいよなぁ。まあ、だから、やめられないんだよね
演出家 うん?
女優 舞台
演出家 あ~、
女優 誰のせいだと思ってんだよ
演出家 (笑う)
*
女優 あんたのせいでしょ、なんて、本当はちっとも思っていない。
ただ、何かにつけドラマということばを使いたがる変人の存在が、
あたしの人生のシナリオを、ずいぶん面白く演出してくれたのは確かで
*
演出家 まあでもそっか、危ないもんな
女優 え?なにが?
演出家 【女優】がいう旅とか冒険とか、ほんとにするのは危ないじゃん。女の子だけじゃ
女優 (笑う)【演出家】って、たまにほんっとふつうのこというよね
演出家 え?なに、どういう意味?
女優 まあ、いい意味?
演出家 いい意味?!
*
女優 結局のところ、あたしが彼の価値観でつくりあげられる作品がすきなのは、根っこにそういう・・・そういう、反吐がでるようなふつうさがあるからなのかもしれないと。そう思ったらなんだか笑えた
*
演出家 ・・・そっか
*
女優 本当はすげえふつうなこのバカと、どこまでも一緒に旅をしたいと思う。
だけど本当は、同じくらい、いつまでも帰りを待っていてあげたいんだと思う。
いってらっしゃいとかおかえりとか、おやすみ、とか。
彼とそういう台詞を交わせる誰かが、たぶんあたしは少しだけ、・・・。
まあ、伝える気は全然ないんだけど。だってそんなこと言ったら、
*
演出家 もしさ、
女優 ん?
演出家 もし俺が演出家じゃなくなっても、側にいてくれる?
女優 え?
演出家 いや、何でもない
女優 え、うん
*
女優 なんでだろう。なんであのタイミングで彼がそんなこといったのか、全然わからない
し、たぶんあたしはそれに対する、相棒としての、正しい回答も持っていたはずなんだ。
なのに、ただ、どうしてもつい、
*
女優 居るよ
演出家 え?
女優 居るよ。そばに、居る
演出家 ・・・そっか
*
女優 ああ。わかった。今思えばぜんぶ、スタンド・バイ・ミーのせいだ
*※ここから通常通り
作家 スタンド・バイ・ミー、
演出家 え?
作家 あ、いや。てか何、今のちょいちょい挟まってた茶番
演出家 だって、直接触ったらほら、しんじゃうから
作家 それがなんで、死にたい理由になるわけ?
演出家 死にたい、じゃなくて、死にそうになったんだよ
作家 だからなんでよ
演出家 嬉しかったから。
作家 は???
演出家 そばに居るっていわれて、何者でもない自分でも、必要とされてる気がして
作家 だから、
演出家 演出家としての自分が、死んじゃいそうになった。だけどそれはどうしても嫌だった。なんでもない、つまらない自分に戻るのは。
今まで、つくってきたぜんぶが、無駄になってしまうのは。
それに、・・・
作家 相棒でいたかった、
演出家 おー。(笑う)なんっていうかたぶん、あの時同時に思ったと思う。
あー間違えたー、って。わかんのよなんか、フィーリングで?
作家 ・・・で?
演出家 ああ。そっか。それで、やろうと思ったんだ本当に。弱者の反逆
作家 (鼻で笑い)演出家として?
演出家 (笑う)本物のね
作家 ・・・。それで?
演出家 え?
作家 それがあんたの理由だったとして。それは、デモに踏み切った個人的な理由、じゃん
演出家 ん?
作家 集団自殺の理由にも、あんたの自殺の理由にも全然なってなくない?
それとも、命をうまく利用できるくらいが、演出家?としては本物、なの?
演出家 いやこわいよ、そのスキルに価値があるのは、百歩譲ってフィクションの中だけでしょ。
作家 じゃあ、
演出家 だからそれは・・・えええ?もうわっかんないわああ
作家 はあ?
演出家 だってなんか、ひとに、っていうか、【女優】の恋人?に、話す感じじゃないことまではなしたのにさあ!
まだ繋がんないの?なんでぼく死んだの?まだ死んでないけど!
作家 しらんわ!・・・けど。とりあえずいまので、【女優】も大事な要素なのはわかったから。ちゃんとメモるから、起きたら
演出家 だから夢じゃないもん・・・
作家 はいはい。とりあえず、身体戻んないと、そろそろヤバイんじゃないの?
演出家 あ!たしかに!
作家 ちょっと落ち着いて考えたら?こっちでも、整理しとくからさ
演出家 やさしい。いいやつだね
作家 うるせえ
演出家 うん。すっげえムカつく
作家 ・・・あんたにだけは言われたくない
*
作家 胸糞悪いなぁと思いつつ、
考えることをやめられないのは、やっぱりあれなんですかね。職業病ってやつなんですかね。だったらまじで、(ため息)
*
女優 ただいま
作家 、おかえり
女優 ・・・大丈夫?
作家 なにが?
女優 うーん、なんとなく
作家 そっか(笑う)・・・あー、あのさ
女優 ん?
作家 ちょっと、聞きたいことがあるんだけど
*
作家 夢が作品の肥やしになることは少なくないんですけど、当然それだけじゃ、ものがたりは完結しません。
真実の嘘を描くには、目を凝らして、耳を澄ませして、現実へ踏み込んでいく必要があります。
女優 ずっと蚊帳の外、っていうのも癪だけど、
よりにもよってあいつのこと、彼に聞かれることがあるなんて、思いもしませんでした
*
女優 ・・・でも、ほんとに、その事件についてはしらないんだ。全然。あたしは、誘わ
れなかったから
作家 誘われなかった
女優 うん。なんであのクソチキン野郎が、あんな大それたことしでかしたのか、正直全然わからないんだ
作家 それは、
女優 ん
作家 いや。ほんとに全然、聞いてなかったの?
女優 キュウソさまの話はよくしてたけど、具体的なことはなんにも。当日の日に、ラインがあったくらいで
作家 ライン?
女優 そう、
作家 なんて?
女優 東京タワーに、午後四時五分、って
作家 東京タワー?五分?
女優 うん
作家 で、行ったの?
女優 うん。そしたらなんか、すっごい騒ぎになってて・・・まあ想像出来ると思うけど
作家 ・・・集団自殺事件。
女優 ほんと、腹立つでしょ。相談する気ないなら巻き込むなってかんじ。
色んなことやりっぱなしにしてさ、
作家 やりっぱなし
女優 そう。暗い芝居続いてたから、次の公演はコメディやりたいねーとか、はなしてたんだけどね。色々、
・・・ごめん、関係ないかこんな話は
作家 いや、ありがと
*
女優 彼は時々メモをとりながら、あんまり見たことのない表情ではなしを聞いていました
*
作家 翌日。もうひとつどうしても気になることがあって。
ネットで検索するのはなんでかかなんとなく気持ち悪くて、ひさしぶりに外へでて、図書館へいきました。
・・・2015年、・・・ホームレスの集団自殺事件。
仰々しい見出しで書かれた記事は読み飛ばして、
めちゃめちゃ時間がかかって見つけた死傷者リストの中には、
中学のときの同級生のなまえがありました
音楽
*
ホームレス これ、もらっちゃだめかな。絶対大切にするから
*
作家 誰とでも笑顔で接するそのこの瞳のなかの、燃えるようななにかがずっと、気になっていました。
*
ホームレス ふつうのことじゃないよ、こうやって、ことばにできるっていうのは。それは、ほら、えっと・・・才能!才能だよ
*
作家 それがなんなのかは、ちっともわからなかったけれど。わからないから、たくさんたくさん想像しました。
誰かの、自分の、声にならない叫び、みたいなものを、ことばにしてみたくなりました
*
ホームレス 書いてね。たのしみにしてるから。たぶん絶対あるから。
【作家】くんじゃないとかけないこと
*
作家 自分のはじめての読者・・・たぶん、ファンに、なってくれた女の子は、
音楽アウト
作家 去年の秋に死んでいました。
*
ホームレス 「どこからか聞こえるそのこえを、ずっと、どうにか愛そうと試みてきた。
それがどんなに耳障りで不愉快でも、ぼくはずぅっと、どうにかして愛そうと試みてきた。
鞄の底でサイダーがはじけた日も、
こじらせた熱のせいで味覚が残らず消えた日も、
灰溜まりの部屋で冷房のリモコンを失くしてしまった日でさえも。
ぼくは決して試みることをやめなかった。
いつだって、ほんとうに、こころから、そのこえを愛してみたかった。
愛してみたかったのだ。・・・」
演出家 こんにちは
ホームレス いい天気だね
演出家 そうですね
ホームレス この間のはなしね、ずっと考えてたんだ
演出家 え?
ホームレス このせかいを、もっとよくするために、協力して欲しいってはなし
演出家 ああ!はい。ぜひ、力を貸してもらえませんか?キュウソさまじゃないと、出来ないことなんです
ホームレス そんなこと、ひとつもないと思うけど
演出家 ありますって。だって、なんていうか、カリスマ性っていうか・・・
ホームレス なんだそれ(笑う)
演出家 ひとを、信じさせられるっていうのは、ことばを真実に出来るって言うのは、それはほら、・・・才能、なんです
ホームレス 才能
演出家 そう!地位とか名誉とか、役割に頼らなくても、自分を演出しなくても、ひとに
話を聞いてもらえるっていうのは。ふつうのことじゃないんです!
ホームレス(笑う)信じてないくせに
演出家 信じてないから、本当なんです
ホームレス なるほど
演出家 キュウソさまはいつもどおり、
はなしたいこと話したいように話してもらえればいいです。たぶんそれが一番いいから。手伝ってもらえませんか。みんなに呼びかけるの
ホームレス はなしたいこと・・・
演出家 踊ってみましょうよ、一緒の、音楽で!
ホームレス (笑う)
演出家 ・・・いや、あの、クサいかもしれないけどほんとに、
ホームレス うん。がんばってみるか
演出家 え?
ホームレス 良くしてみよう。このせかいを、少しでも
*
作家 せかいを、良く・・・
演出家 うん
作家 なるほど。・・・
演出家 ぼろぼろ思い出すことは色々あってさ、
ホームレスのみんな集まったときめっちゃ臭かったなーとか、プラカードの準備でやたら絵上手いひといたなとか、みんな、自分以上に、それぞれ色んなことほんとは考えて思ってて。ああ、これまじで、うまくとどけたいなーって思ったこととか。
ああ。【女優】とキュウソさま会ったら仲良くなれそーとか
作家 仲良く?
演出家 なんかさ、なんっとなーく、似てるとこない?あの二人。瞳の中の色、っていうか・・・
作家 (笑う)
演出家 思い出せば思い出すほど、命を、使った理由が、わかんなくなってきて、
やっぱぼく、みんなで死のうとか全然思ってなかった気がするんだよね
作家 うん、俺もそう思う
演出家 ・・・あのとき、
塔の上で、キュウソさまはいつものように、いつもより少しはしゃいで話をしはじめ
て。
みんながそれを真剣に聞いていた。
それから、・・・風が吹いて、
作家 キュウソさまが、おちていった?
演出家 そう!それを追いかけるみたいに、ホームレスのみんなもおちてっちゃって、
作家 タイミング、
演出家 え?
*
ホームレス ぴょーんと飛び込んで、死ぬの!(笑う)
*
演出家 え・・・あれ・・・えっ?!
作家 風に煽られおちてゆくキュウソさまと、それを追って空へ飛び込んで行くねずみたち
演出家 ぼくはねずみじゃないよ?!
作家 舞台から役者が落ちたぞ。さぁ、どうする演出家!
演出家 えええ。たすける、お、追いかける!猛ダッシュで
作家 飛び込んで?
演出家 死んじゃうだろ!階段とか使って・・・あ。あ。ああ・・・!思い出した!思い出してきたよ!今度こそ、ほんとに
作家 ・・・この事件は、勘違いとうっかりが重なった、事故だったんじゃないの
演出家 勘違いと・・・
作家 うっかり
演出家 でもそんなの。そのまんま書いたら絶対【女優】、
作家 めっちゃ切れるだろうね
演出家 でしょ!?絶対めっちゃ怒られる。なんなら殺される。いや殺されるより怖い
作家 ・・・いつもみたいに?
演出家 ああああ、わかっちゃったかもしれない。ここに、化けて出てきた、必然性
作家 洗いざらい吐いてもらうから。この舞台の覚えてるぜんぶ
演出家 ・・・もちろん
*
作家 胸糞悪いなあと思いつつも、筆をとらずにいられないのは自分の中にも、この本を書き上げたい必然性が、あるからなんだと思います
*
演出家 ・・・それじゃあ、ぼくもう、戻るから。後は頼むよ。あんた、書けるんだから。じゃあ
*
作家 自分のはじめての読者のさいごの声と、あの日のできる限りの本当の嘘。
夢なのかどうかはもはやどうでも良いこの話を、誰かと、あのこに伝えたるために。
・・・恥ずかしいやつなんですもともと。自分は。
*
女優 ただいま
作家 おかえり。あのさ、
女優 うん?
作家 ちょっとこれ、読んでみてくれない?
*
※以降、役の指定のない「」は、俳優の声質・身体性に合わせてわりふる。
「昼間の空はペンキで塗りつぶしたように青かった。
秋のはじめの台風が雲を根こそぎさらっていったのだ
風が、道の片隅の彼岸花に触った。
つい、いつもより遠くまで歩きたくなるような午後だった」
「緊張ゆえの浮き足立った空気。
彼らの町から塔の上は思いのほか遠く、
そこを彼らのものにするのは、思ったよりは簡単だった
男はスマートフォンの液晶画面をひらくと、無料のメッセージアプリを起動させる。時刻は、午後四時を指していた」
*
どこからか、音楽
ホームレス 聞こえますか。自分の声、聞こえてますか。もしもし。もし、聞いてくれてるんだったら、ありがとう。ありがとう。ほんとうにありがとう。
ああ、すごい。今日は、夕焼けがきれいですね。あは、いきてんだなぁ太陽も。
みんなと一緒に、こんな景色がみられて、しまった。
もったいないなあ。(笑う)ありがとう
「彼女が彼らに語りかける中、男は集まった観衆に向けて声をあげていた。
この世の中の音楽がいまどれだけ狂っているのか。
このままのリズムで進めば、社会がどうなってゆくのか」
「あるものは同意し、あるものは眉をひそめる。
そして大多数の観衆は、無関心のまま熱狂し、他人事ゆえの嘆きをぼやいた」
ホームレス きっとこの想いは、ひととして、まちがっているから、ぜんぜん、信じてくれなくて構いません。
だけどもしも、自分のはなしを信じてくれるなら、自分のことを、信じてくれるなら、
これからさきどんなことがあってもあなたをひとりぼっちにはしません。絶対に
「塔の上では誰もが、彼女の奏でる一言一句を逃すまいと耳を澄ませている。
その空気はミサを思わせた。圧倒的共通言語を以て同じ風向きに煽られる意志」
「出来上がった非日常の中で、彼女の声だけが、場にそぐわないいつも通りの響きを持っていた」
ホームレス いつか鳥になっても、虫になっても、花になっても、星になっても、白血球になっても、自分は決してあなたを、ひとりぼっちにはしません。
あなたが生きている限り、あなたがあなたの大切な相手と居られるように見つめています。そこにある想いが何者に侵されても、必ず自分が味方になります。そうして、あなたが眠りにつくたびに、大丈夫。なんにもこわいことは無いよと、あなたに伝えにいきます。それを赦してくれるならきっと、会いにゆきます。
(笑って)ああ、まじか。こんなこと、思ってたか自分。いやなんか、云ってて、面白くなってきちゃった待って、(笑う)この期に及んで。(笑う)だって、
「あまりにも自然に、彼女は一歩、外側へ足を進める。
そこに意図があったか否かは誰も知り得ない。
ただ、真っ赤な陽を背負った影はまさに、一遍の詩そのものだった」
ホームレス こんな果てしない約束を、きっと守れるとか、信じてしまえてるんだ。笑う
とこでしょ、(笑う)
うん。それくらい、あなたは、自分にとって救いだったから。あなたが、あなたが、あなたが、ずっと自分の救いだから。だからどうか、もしこの声が、ほんとうに聞こえているのならどうか、
ホームレス (わたしをしんじないで)
演出家 その時強く風が吹いた
ホームレス ああ。 気持ちいいねぇ
*
演出家 「風に煽られて彼女の身体は一瞬空をとんだ。そうして物理的な速度で地面へおちていった」
女優・演出家 「見えないいと(糸/意図)にひ(引/惹)かれるように、十数人のひとの身体があとに続いた」
*
女優 「男は、彼らを追って慌てて下界へ降り立ち、そこで、
・・・落ちていたバナナの皮につまづき、コンクリートで強く頭を殴打した・・・」
作家 ・・・
女優 はあああ!?!?
作家 おお、期待通りのリアクション
女優 いや、なんなん、これ!
作家 【女優】がよくはなしてるクズな主宰がさ、どうしても書いてくれっていうから
女優 いや、いやいやいや。書いてくれってだってこれ、え?
はあ?ここまでのいいシーンなに!?ちょっと、普通に感動してたのに!
作家 弱いよね、こういうの
女優 っていうか、え?バナナ!?どっからでてきた?!
演出家 そういえばヤスさんが、「腹が減っては戦はできぬ!」って食べてた気がするー
作家 とかいってた。
女優 ヤスさん!誰!
作家 「薄れゆく意識の中で、彼は考えた」
演出家 うわあめっちゃ痛いわ、これ、まじで死んじゃうやつだわ!
やっべ☆
女優 やっべ☆じゃねえよ!舞台ぶち壊しじゃねえか!
作家 「・・・と、ぶち切れる相棒の声が聞こえる気がした」
女優 は?
作家 「男の一世一代の大舞台。
彼は、劇団の看板女優に、主役と同じくらい重要なポジションを託していた。
それは、彼女にしか出来ない役割だった」
女優 なにそれ
作家 「届かないはずの声に耳を傾け、ドラマと日常をつなぐ」
演出家 「その舞台において、否。すべての舞台にとってもっとも重要とも言える登場人物」
女優 「それは、・・・観客だ」
作家 「予測しない展開にドラマは進んだ。こんなくだらない、笑えない笑うしかない結末」
演出家 「だけどそれすらも必然で、・・・ひとの命に踏み込んだ、バチがあたったのかも知れない」
女優 「けれど彼女がいれば、きっと、第二幕の幕が上がるだろう」
演出家 ああだけど、どうにかしてぼくもまた、そのステージにあがるから。そのときまで、どうか、
作家 「そこで、彼の記憶は暗転した」
女優 ・・・なんだ、それ
作家 ・・・どう?
女優 身勝手すぎるし!ほんとばか!っていうか、なにそのオチ!?雑すぎんだろ! コメディなめてんのか!
作家 ほんと、そうだよね
女優 こんなのを、ずっと寝ないで書いてたわけ?数少ない仕事もせずに?
作家 返す言葉もございません。
女優 全く・・・仕方ないなあ
作家 ・・・
女優 で?
作家 え?
女優 だから、つづきは?
作家 つづき?
女優 まさかこれで終わりじゃないよね。二幕の本、書いてくれるんでしょ?
作家 ええ?!
女優 ええ!?じゃないでしょうよ! もう、幕上がってんだからさ。ざまあみろ、って、言ってやんないと。
作家 ・・・
女優 寝てるばか一発殴りにいかなきゃいけないし、あー。オーディションとか、探さないと!
作家 (笑う)
女優 だから、書いてよ続き。二幕の主役は、売れない作家、でしょ
作家 はっずかしい台詞、いうなあ。
女優 いいの。いいでしょ。恥ずかしいやつなの。もともと。私は!
作家 ・・・まいったな。
女優 (笑う)うん。
・・・絶対、面白くしよう。
どこかで聞いたような邦楽ロックバンドの音楽。
幕。
この作品の著作権は作者・野宮有姫に帰します。
無断でのご使用・転載・自作発言等は固くお断りしております。
上演等のご希望がある際は、
sippe.nomiya@gmail.com
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