海苔

​1番乗りで出社して
全員のデスクを拭いて回る。
それが毎朝の仕事。
手を動かしながら
頭の中で今日の予定を組み立てる。

その手が止まる。

このデスクで

思考も止まる。

さして他の人と変わらないデスクを見つめてしまう。
出しっぱなしの何かは
デスクの主のことを教えてくれる。
空のペットボトルが置いてあった時
こんな甘いの好きなんだって意外に思ったっけ。

昨日残業したのかな。
食べ終えた容器も割り箸もないけど
カップ麺のかやくの海苔が取り残されてる。

雑巾をデスクに置いた。
つーっと透明な糸にひっぱられたみたいに手が伸びる。
透明フイルムに入った小さい海苔を摘んでジャンパーのポケットに忍ばせた。

だって多分もう食べないし
いらないんだと思う。
捨てに行く。
あとで給湯室のゴミ箱に捨てるから
とりあえず拾っだけ。

誰に言い訳してるのか
頭の中が自分の声でいっぱいになる。

全部拭き終わって雑巾を洗ってるときふと浮かんだ言葉。

好きな子の縦笛を舐める

食べてないし。

唐突に現れたフレーズにツッコミを入れて給湯室を出た。