お気持ちで学ぶ熱力学 (1) --内燃機関と熱力学の法則--
はじめに
高校のときに物理を履修していた方、大学で機械や物理を専攻していた方は熱力学っていう単語を覚えているかもしれない。しかし最近は高校で物理を選ぶ人も減ってるというので、もしかしたら物理の授業を受けたことがなく熱力学っていう単語を知らない人もいるかもしれない。
確かに高校の授業でやる熱力学は訳がわからない。勿論大学でやる熱力学も訳がわからない。内部エネルギーとかいう計測できるのか計測できないのかわからないものを持ち出して、しかも何故か 気体を圧縮して膨張させる、そしてその熱効率を求める行為が一体なんの役に立つのか?そもそも容器の中の気体を圧縮して何が楽しいのかさっぱりわからい 。
「ゼミでやった!!」熱力学
JTC僻地工場で社畜業に励んでいたある日、仕事をしていて、 あれ、これって高校のときにやった熱力学そのものじゃないかと気がついたのだった 。まさに「これゼミでやった」状態であった。その日そのときのために高校のカリキュラムが作られていたのかと感嘆したものだ。
しかしながら、僕はその仕事をしていたから「ゼミでやった」状態になれたのだが、多くの人はそうじゃなくやはり熱力学なんなんだよ、気体を圧縮して何が楽しいんだよと思うかもしれない。物理学はなにかの役に立ちそうだから、なにかの現象を理解できそうだから取り組み始めることが多そうだが、熱力学については何が得られるのかさっぱりわからないのだ。つまりモチベーションがわからない。ここではそういう人たちのためにお気持ちの面から解説をしてみたい。
対象読者
したがって、この記事は熱力学なんて嫌いだよっていう高校生とか、熱力学ってわけわからんっていう大学生とか、働いている人たちだ。できるだけわかりやすくというか、お気持ち成分強めに解説をしてみたい。
因みにこの記事は僕の内燃機関をアピールしたいお気持だけで書いているので0円で読める。(一応投げ銭的な有料設定はしている。)
改正履歴
2024年6月1日:熱力学の第一法則の公式を間違えてたので直した。
筆者の背景について
ではお前は果たしてそういうことを説明するに足る人間なのかということがきになるかもしれないので、一応ここで自分の背景を説明しておこうと思う。
まず、僕の今の仕事とか、これまでのことはこちらの記事を読んでみてほしい。僕は理系の大学院を出て、とある製造業のJTC僻地工場で働いていた。
JTC僻地工場での働きぶりについてはこちらを参照願いたい。
そして、これらの記事に書かれていないこととして、僕は大学院で流体力学で博士号をとった。理論的な研究を主にやっていた。数値流体力学とかそういうやつだ。その後色々あってJTC僻地工場で働き始めていたのだが、そこで開発していたのは内燃機関、所謂エンジンってやつだった。
JTC僻地工場ではエンジンのある部品の基本設計、開発、たまに研究部門でなんかの研究をして、ありがたいことに業界の中で大変権威のある雑誌に掲載してもらったり、やはり業界の中で大変権威のある国際学会で発表をしていい感じの賞をもらったり、国内の学会で招待講演に呼んでもらったりした。なお、言うまでもなく特許は数えるのがダルいくらい出した。
一応これらを以てエンジン、内燃機関について語っても差し支えないのではないかと自分では思っている。
熱力学を学ぶと嬉しいこと
ものすごく雑にいうと高校の物理では主に、力学、熱力学、電磁気学の3つを学び、それに加えて量子力学への導入のようなものを学ぶ。力学はなんかビリヤードの玉が当たるとどうなるかみたいな問題が解けそうだし、電磁気学は電気のお勉強だから電気回路を組めるようになる気がする。しかしそこに仲間はずれが一つあり、熱力学っていうやつだけが異彩を放って居座ってた。すなわち、 こいつを勉強して何が嬉しいのかさっぱりわからない。だいたいカルノーサイクルってなんだよ 。少なくとも僕は高校生の時そう思っていた。
先にネタバラシをしてしまうと、先程僕の仕事と、熱力学のことを少し書いたが、 熱力学を学ぶと内燃機関の設計ができるようになる 。しかし僕がはるか昔に学んだ記憶だと、高校の教科書には熱力学がエンジンの設計に関係があるなんてことは一言も書いていなかった。ものの参考書にはエンジンをつくるために熱力学を学ぶのだということを書いている参考書もあったりするが、そういう本に会えるのはなかなか稀なことだと思う。
では何故教科書が熱力学は内燃機関を理解するためにあると書かないのか、不親切じゃないかと思うかもしれないが、熱力学を勉強して得られる知恵は内燃機関の理解にとどまらず、もっと幅広いエネルギーの保存性についてのものだからだ。高校を卒業して、大学で物理化学っていうのをやると、Helmholtzの自由エネルギーとか、Gibbsの自由エネルギーとか、エンタルピーとかいう量を使っていろいろな対象の熱的な状態を把握しようとすることになるのだが、そこでの対象は物理化学なのであり、内燃機関ではない。しかし我々は高校で学んだ熱力学の知見をもとにそういう物理化学っていう科目のお勉強も始められるようになる。そして熱力学から発展して、統計力学とか、流体力学とも関係し始める。
これは僕の個人的な考えなのだが、だから高校の教科書は内燃機関の理解のために熱力学をやるんだと書くとその先にある豊かな学びにつながる道を限定するのを恐れてあえてその用途には言及してないのだと思う。そもそもお勉強っていうのは何かのためにするものではないという考えがあるのかもしれない。
とはいえ、 この記事では内燃機関とかどういうものかをオットーサイクルの機関を対象にして熱力学との関わりを説明していきたい。なお、ここまでで出てきた単語を全く理解できていなくても後々説明するので一切問題がないことを付記しておく 。なぜなら僕は内燃機関の専門家であり、それでずっとメシを食ってきたからだ。
内燃機関とは
内燃機関っていうのはInternal Combustion Engineを日本語に訳した単語で、例えば、そのへんを走ってる「ガソリン」を燃料にして「エンジン」で動く車に積まれている「エンジン」のことだ。「エンジン」を括弧書きにしたのは、今日ではサーチエンジンとか、AIエンジンとか、その他にもいろんなエンジンがあり、cumbustion enginesだけがエンジンではなくなったから括弧書きにしている。因みに僕のいたところでは、「エンジン」といったり単に「機関」といったりしていた。例えば蒸気で動く機関車は蒸気機関車であったり、そういう具合に使う。
熱機関というと色んなものがあり、燃料を燃やして回転運動をさせるやつもあれば、逆に回転運動から空気を圧縮するようなやつもある。原理的には逆の動きをさせるものなのだが、今回はとりあえず燃料を燃やして回転運動をさせるやつを対象にする。
内燃機関で得られるもの
さて、具体的な内燃機関の説明をする前に、一体内燃機関で何をできるのかを少しさらっておこう。なぜなら産業上何ができるかわからないものは開発されず、しかるに今日こんなにも世の中に内燃機関が溢れているのは大変便利で、それにより多大なる便益が人類に提供されているからである。
先程述べたように、内燃機関は、「燃料を燃やして、回転運動をさせる」ものを言った。燃料は火をつけると熱を発生させる。これはガスコンロがご自宅にある方なら明らかに毎日経験していることである。そしてそのようにして発生した熱を使って回転運動をさせるのが熱機関であるというのだ。
つまり、これは燃料の熱を回転のエネルギーに変換しているということになる。こういうのをエネルギー変換という。難しい説明はこちらの機械学会の資料に譲ることにするが、
ざっくり図式にするとこんな感じである。
```mermaid
flowchart LR
fuel["燃料"]
engine(["内燃機関"])
rot["回転エネルギー"]
fuel --> engine --> rot
```
そして、燃焼には燃料が必要なのだが、これらは典型的な燃料としては炭化水素、つまりカーボンの鎖に水素がくっついたやつが使われる。これらは液体燃料であり、内燃機関というか、オットーサイクルとかディーゼルサイクルのエンジンを回すのに燃料が液体だと大変扱いやすいということで多くが「ガソリン」を使っている。こちらも括弧書きで「ガソリン」と書いたのにも意味があり、ガソリンにもいくつか種類があるからであり、実は燃料っていうのは皆さんが思ってるより多種多様なものがあり、今後のエネルギー転換にとっても重要な要素なのである。
ただし一旦ここでは車で使うような燃料を想定しているので、ヘプタンとか、オクタンとかあたりの燃料を想定していたらいいと思う。化学式で書くと、ヘプタンはC7H16、オクタンはC8H18である。因みにご家庭で使われる都市ガスはメタンCH4とエタンC2H6が混ざったやつ、プロパンガスはブタンC4H10、プロパンC5H12が混ざったやつである。ブタンとかプロパンあたりから人間が生活する温度で液体状態を取り、扱いやすいという特徴がある。
高校の化学の授業で熱化学方程式というのを学んだと思ったが、燃焼ではこういう炭化水素が燃焼することで熱が発生する。例えばこんな感じの反応をする。例えば都市ガスのメタンが燃焼するときはこんな感じである。
$$
\text{C}\text{H}_4 + 2\text{O}_2 = 2\text{C}\text{O}_2 + 2\text{H}_2\text{O} + (\text{熱})
$$
この化学反応は炭化水素であるメタンに酸素がくっついて二酸化炭素と水になって、そして熱が発生することがわかる。化石燃料を燃やすと二酸化炭素が発生し、温暖化の要因になるという反応である。そして、この反応では燃料であるメタンに酸素がくっついて燃焼しているので、 燃焼反応というのは酸化反応であるといえる 。
内燃機関の種類の紹介
具体的にどういう分類のものがあるかっていうと、ピストンとシリンダがある車のエンジンみたいなやつと、飛行機についているようなガスタービンエンジンがある。それぞれ、往復動機関とか速度型機関とか、回転機とかいうが、名前などは後で覚えればよい。
今回はこのうちオットーサイクルの内燃機関を扱うと言っているのであるが、オットーサイクルのエンジンって何っているのを定義していないのでなんのことかわからないと思うが、こちらは往復動機関に分類されるものである。本当はもっと色々な分類があるが、今回扱う範囲では以下のリストのものを覚えておけばいいと思うが忘れてもいい。ただ、僕は往復動機関を主にやってたので、回転機械の方はあまり詳しくない。
往復動機関
オットーサイクルエンジン:
普通の乗用車に載ってるエンジン。オットーサイクルといわれる熱サイクルで回っている。オットーさんという人が発明した。
ディーゼルエンジン
大型のトラックとかに、一部の乗用車にも搭載されている。ルドルフ・ディーゼル博士により発明された。
速度型機関:
ガスタービンエンジン
ジェットエンジン
往復動型内燃機関の簡単な紹介
内燃機関というのは熱を回転運動に変換するものなので、その終端は回転部分になるし、燃焼を伴う反応により熱を発生させるので、高温になることから人が触って怪我をしないように保護用のカバーとかがされていて、外形からは中身が伺いしれないものだが、例えばこのWikipediaの記事で中身がどうなってるかわかるかもしれない。
因みに僕は往復動機関をやってたわけだが、その中のオットーサイクルとディーゼルサイクルがあり、それぞれ熱サイクルっていうやつが違うわけだが、今の世界では圧倒的に生産台数としてはオットーサイクルのほうが大きく色々な研究開発も進んでいる。小型の乗用車に搭載する機関であり、多額の研究開発費用を投資できるからだ。一方で、ディーゼルエンジンっていうのは大型の乗用車、発電機、船舶の推進用機関、戦車の推進用機関として使われている。大きいものを動かすのに適しているが、乗用車に比べて出荷台数が少ないのでマーケットもさほど大きくない。この辺もそのうちまとめられると面白いなと思っている。
たまに自動車会社のCMで車の中のエンジンがくるくる回っているのを見たりするかもしれないし、上のWikipediaのサムネイルからも伺えるように、往復動機関というのはシリンダの中の空気をピストンが圧縮する、そしてそこに燃料を噴射して燃焼させるプロセスを踏んでいる。そう、 シリンダの中の空気をピストンで圧縮したり、膨張したりする 。これは熱力学の中でやるカルノー・サイクルの説明に符合することになる。
熱力学の法則
熱力学の公式がいくつかあるがここでは熱力学の3つの法則を簡単に紹介する。なお、このほかにも色々な法則や公式があるが、このシリーズは「お気持を学ぶ」ことを主眼にしているので、特に内容を理解する必要はない。何なら 熱力学の第一法則っていう言葉だけ覚えてもらえればいい し、 もっというと熱力学の第一法則はエネルギーの保存性についての法則 っていうところまで覚えてもらえると更にうれしい。
それ以降の法則はただのバズワードのようなものなので覚えなくていいし、知らなくてもいい。ただし、日常生活でエントロピーとかいうのは冗談だけにしておけということは知っててもいいかもしれない。本気の顔をして理系の学問の文脈以外でエントロピーって言ってくるやつがいたらそいつはほぼ詐欺だと思っていいと思う。
Wikipediaを見たりすると熱力学の法則には3つの法則があると言っている。真面目に解説してもそんなに面白くないかもしれないが、それぞれ簡単に振り返ってみる。ただし、基本的には熱力学の第一法則を知っておけば問題ない。熱力学の第二法則の話を持ち出すやつの多くの人は「わかってない人たち」であり、熱力学の第三法則とかは教科書を開かないと思い出せないようなものだ。
熱力学の第一法則 --高校の範囲で教わるやつ--
エネルギーの保存則で、ざっくり熱と圧縮仕事の和がエンジンのシリンダの中の気体の「内部エネルギー」とかいう訳わからん量になるっていうやつだ。数式で書いても面白くないが、Eを内部エネルギー、Qを熱、Pを圧力、Vを体積だとするとこんな感じだ。
別に数式の意味を理解する必要は今はない。お気持的にエネルギーは熱と圧力の仕事を足したやつなんだーってとらえてもらえればよい。
ぶっちゃけ熱力ほぼこれしか使わない。
$$
\Delta E = Q + W = Q + P\Delta V
$$
熱力学の第二法則 --エントロピー ()の擬保存性--
エントロピーは保存するが、保存しないときもあるよと言っている。熱力学的にはある種のバズワードであるとみなしてもいいかもしれない。情報関係だとエントロピーという単語はよく使う。
お気持的には、なんか熱っていうやつを考えるときに温度を使って熱を測りたいわけだが、さらにそこからエネルギーを嘘でもいいから計算したいときに面倒なもんが出てきて、そいつは全部エントロピーにしちまえっていう感じ。統計力学的を使うともう少しマシな説明ができるし、熱力学的にも色々な解釈ができたりするけど、お気持の立場でいうとロマンあふれるよくわからん量であるが、世の中訳分らんことがあっても生きていけるからよくわからんままにしとくか的なやつだと思えばいい。例えば複素関数を知らないまま生きている人は世界の人口95%を超えるのではないかと思う。そしてその95%の人たちは複素関数を知らなくても不便を感じてないだろう。
因みにエントロピーは増大するとか言ったりするが、工業的にはほとんどエントロピーは保存すると思って扱う。エントロピーが増大する具体的な事例としては熱や物質の拡散が伴うときと、衝撃波が発生するときである。つまり、ほとんどの場合エントロピーは保存的であり、ごく一部の場合だけ散逸的であるから増加する。数式にする意味はないが、こんな感じだ。
なぜこういう風にそんなにこの法則は大事じゃないという言い方をするかというと、結構先のほうまで学習を進めないとこの法則を実際の理論的な計算で使わないからだ。つまり当面使い道がない。
$$
dS \geq 0
$$
熱力学の第三法則 --今日知った--
この記事を書くためにWikipedia読んだら載ってた。ぶっちゃけ今日知った。
絶対零度ではエントロピーは0。
気体の状態方程式 --化学でやるやつ--
さて、以上の3つの熱力学の法則を見て感じ取れたと思うが、熱力学の第一法則以外はまあ大体無視してもいいようなものである。
この他にも気体の状態方程式も使う。
$$
PV=nRT
$$
これについてはほぼ説明は必要ないだろう。
あとは大学では断熱圧縮の公式を使ったりもするが、今回は高校生程度の内容を想定しているので紹介しない。
まとめ
まず、熱力学の難しさを紹介した。そして熱力学は内燃機関のうち、往復動型機関、つまり、自動車のエンジンのようなピストンとシリンダで動くやつの中を思い浮かべると理解が良いかもしれないと述べた。
そして、自動車のエンジンに積んであるオットーサイクルのエンジンを題材に熱力学を学ぼうという指針を示した。そして、その他の内燃機関についても軽く紹介し、特に役に立つことはないかもしれないが、熱力学の法則を一応紹介した。ただし、 大事なのは熱力学の第一法則だけ である。あとエントロピーを普段の生活で使うやつは怪しい。
次の記事からは内燃機関の動きと熱力学のうちの、熱サイクルっていうやつを概説していこうと思う。
さて、この記事は無料記事だが、もしこの記事が面白くて投げ銭のように課金してもいいという方がいらしたらこちらの記事を購入するボタンからお願いしたい。一応ずっと内燃機関を扱ってきたプロの立場で説明をしているので、凡百のエンジン関連のwebの記事よりはよく仕上げられているのではないかと思う。
なお、この記事が面白いと思ったらいいね!してもらえると喜びます。
ここから先は
もし僕の記事が気に入ったらサポートお願いします。創作の励みになりますし、僕の貴重な源泉外のお小遣いになります。そして僕がおやつをたくさんかえるようになります。