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事務職というサンクチュアリ

割引あり

 以前の記事で、事務職は現代では超人気職業であり、多くの人がなりたがるが、すぐに枠が埋まる上、中々やめないという推論をした。

ちなみに無定義に事務職という単語を使っているが、 ざっくりここでは、色んな会社のバックオフィス部門つまり、総務、経理、人事とかいった直接収益に関係しない部門の仕事、および、直接部門でも営業補助とか、工場部門の事務職員のような直接部門でも直接部門の中の管理費とかが人件費として割り当てられるような仕事のことを指すことにする 。これらの費目とかの話も中々面倒でありつつ、ネタはあるので、別の機会に調べようと思う。

 ところでそこそこ前に東芝からリストラを検討中っていうリリースがあった。こちらの東芝のリストラ案の中では事業売却も視野に入れつつ、それにより発生する間接部門のリストラも検討中であると記載がある。

 5月に発表予定の中期経営計画で再建策を示す考え。人員削減に加え、エネルギーやインフラ、半導体などの事業子会社の統合を検討。不採算事業の売却なども視野に入れている。

 東芝の国内従業員は約6万7000人。事業子会社を本社に統合する際、余剰になる間接部門などを念頭に削減対象を絞り込む。近く、労働組合との協議に入る見通し。

東芝、数千人削減へ 収益構造見直しで経営再建:時事ドットコム (jiji.com) より

 このように、超人気職業でありながら、この東芝の例のようにときにはリストラの対象にされたりする。実際に会社の偉い人たちがどうどういう風に間接部門を見ているかというと、下記の僕のツイッターでフォローしてる人事の方のツイートにある通り、やはりコストセンターとみなされている (間接部門とバックオフィスは大体同じような意味で、会社の総務、人事、経理といった事務的な仕事を司る部門) 。実際に僕も仕事で色んな会社の偉い人たちにお会いすることがあるのだけれど、AIの導入とかいうとひと昔前は間接作業の効率化による人件費の圧縮のために投資しますという方が多かったように思う。

 では、事務職というのは不要なのか?そんなことはない。事務職は必要だ。何故なら会社というのはある程度は数字で成り立っており、数字を取りまとめて業績や社内の状況を定量化する仕事は必要だ。それ以外にも社内の総務もみんなが快適に仕事をするためには必要なことだ。
 にも拘わらずつねにコストセンターとみなされてしまうのか?
 それは大体は経営者が必要性は感じているが、コストがかかりすぎていると感じていることが原因である。では何故ここまでコストがかかるのか。それには組織防衛的な力学が働いたり、あるいは事務作業自体が持つ業務自体の不完全性に起因する。
 こういう難しさのある仕事内容について概観して、これから事務職がどのように変遷していくのかを考えていこうと思う。ただ、この記事は色々と書いていたら長くなってしまったので何回か分けようとかんがえており、今回は事務職とはどういう仕事なのかを概観する。

 いくつか個人的な思い出に基づく怒られそうなこととかも書いたが、それは有料パートに書くことにした。もし読みたい方がいたら有料パートまで進んでもらえると幸いだ。また、この記事が面白いと思ったらスキ♡ボタン押したり、フォローしてもらえるともっとうれしい。


前提の整理

事務職とは?

 このまとめが良かったので、このまとめに書いてある内容をざっくり事務職ということにする。

人気、特に女性に人気な事務職

 主に補助業務が多いので、直接的な業務、例えば、営業とか、販売とか、製造とかいう仕事よりは業務負荷が軽いと思われがちであろうことから人気職種らしく、以前の記事でも統計データからその傾向が見て取れる。この辺はいろんな人たちが言っていることであるから改めてここで述べる必要もないだろう。

簡単と思われがちだけど複雑な業務

 結構前にとあるバックオフィス業務についていた女性が社内政治でボコボコにされて転職していったというまとめが流行った。これはこれで面白い記事であり、女だらけの職場マジ怖いっすって思ったりしたのだが、それはまた別の話。

 これは社内政治話なのだが、その攻撃の手法が仕事のフローが複雑なことを活用して被害者をハメたってことがミソだ。一見はこの被害者の方が無能なように見えるのだが、さにあらずでそれを上司も把握できてなかったという問題だ。この手のバックオフィス業務であるあるなのが、

  • 仕事の流れが複雑怪奇であり、僕みたいな人間は面倒くさすぎて覚えられない。

  • 雑多な、それぞれ異なる、小さい仕事が沢山ある。従って沢山のことを覚えないといけない。

  • 上記のように色んなことを覚えないといけないうえに、一つ一つの仕事は小さいことであるから次のようなことが起こり得よう。

    • 横滑りで着任して、3年でジョブローテーションで去ってく上司は仕事の内容は細かくは把握してない。

    • ときにより仕事のフローが複雑すぎて特定の担当者しかわからないことがある。

  • 多くの場合SAPっていうクッソ使いづらいあかん基幹システムを操れる。あれに関わると不幸になるとIT業界の一部では評判だが、事務のお姉さま方は華麗に操っているので、特殊な免疫や、何らかの結界があるのかもしれない。

といったことで、これは営業とか設計とかをやっている人間からすると難易度の高いものである。もちろん一つ一つの仕事は簡単だろうが、守備範囲が広く同じことばかりやるわけでもない仕事が多いので、営業とか設計とか製造とかみたいな直接金儲けに関わる主業務をゴリゴリ進めていくのとはまた難しい業務内容であることがわかる。
 事務職はゆるふわであり、あんなもんは誰でもできるというのをインターネット見たりするが、少なくとも僕にはできないと思う。

事務的な業務はある意味で組織の本質である

 ゲンロン戦記という東浩紀さんが東大で哲学やってたのに在野で研究をして、それを事業化するっていうのをやってて、そこでの苦労話をまとめた本がある。僕はこの本が好きで、まさか東大で哲学をやってたような人が我々のような社畜のレベルまで降りてくる様はさながら殿上人が地下人のレベルにまで降りてきたような変な感慨がある。

 その中で、うろ覚えだが、会社の金の管理はあるときまで本人は直接チェックしていなかった。一方で、研究の方は本人が真面目に見ていた。何故なら研究をするための組織を立ち上げたから。
 しかしあるとき、会社の金の辻褄が合わなくなった。
 そして慌てふためいて自分たちで伝票を搔き集めて再集計することにした。そして 気が付いたのは会社の金についての数字は会社の本質であるってこと だった。というようなくだりがあった。
 ちなみにゲンロン戦記は東大出身の哲学者の東さんが本来は我々のような地下人がやるような会社のあれやこれやのつまらんことを一生懸命やり、その中から本来なら凡庸な社畜が10年かけて気が付くことをごく短期間で再発見することである。普通はこれらの名も知られぬ社畜の気づきなどは文章にならず忘れされれていくか、口伝で伝わるかなのだが、幸いなことに東さんのような非常に知的体力が高い方が書籍の形にしてくれたことで社畜向け面白話としても楽しめるのでお薦めだ。

 僕もJTC僻地工場時代に実は会社って間接部門だけあればよくね?って思ってたのだが、東さんは流石に東大のご出身だけあって、神速でそこまでの気づきを得たのであって、東大すげえなっていう感想を持つとともに、やっぱ経営者もそういう風に認識するものなんだなと自分の思ってたことが補強された気がした。

 製造業っていうのは今では物凄い専門化、高度化が進んでおり、それに伴い一つの会社で全部やるようなことはなくなってきている。基本的に分業化がされている。
 例えば、あなたが凄いお金持ちで、自動車会社を作りたかったとして、基本的にCOO、CFOと人事、総務、経理、企画の人材をそろえて、工場はOEM生産の契約をでっかいメーカーと結んで、設計は各種設計コンサルに依頼して、主要部品はボッシュとかコンチネンタルとかから購入して、自分たちの会社の連中にいい感じにまとめさせると割と早くつくれる。このように設計、製造、品証みたいな直接部門は場合によっては札束掴んで色んなものを外注しまくることで事が済み、社長、バックオフィスと主要メンバーだけで事業が立ち上げられたりする。
 その典型例がベトナムのVINFASTである。

2022年にはガソリン車からEV専業メーカーへと路線を変更。車両はBMWの技術をベースにボッシュやシーメンス、クアルコムと言ったそうそうたるサプライヤーを取り込んで完成させ、デザインも一時はイタリアのピニンファリーナに依頼するなど、欧米の技術を積極的に取り入れて製品化している。

ベトナム発の新興EVメーカー「ビンファスト」、2種類の提案! その存在感に注目…CES 2024 | レスポンス(Response.jp) より

 この話は僕がJTC僻地工場時代に、「俺たち設計だっていって威張ってるけど、上のやつらが気がかわって欧州の設計コンサル呼んできたら俺たちの仕事はなくなります。内製じゃないとできないことやらないといけないからお前ら本気出せ」っていう文脈でお話を部下のソルジャーたちにしてたときに使った例だ。つまり、設計は自分たちは花形だなんて思ってたりするわけだが、そんなもん見た目だけであり、実は経営者っていうのはお金やその他会社の数字を見るのがお仕事であるのだから、会社の本質はバックオフィスなのだ。
 この話はゲンロン戦記の中で東さんもされていて、所謂バックオフィス業務のような仕事は正社員がやる。研究業務は正社員ではなく別の形態で依頼していると書いていた。つまり、直接部門というのは直接金を稼いでくるのにもかかわらず会社の本質ではない
 こういうことをいうといや、製造業の本質はものづくりであるなんて言って怒ってくる人もいるが、では今日本で生き残っている製造業の会社で創業当初の事業を守り続けている会社はどれだけあるかというと、ほぼない。一方で、本社機能というのは創業からずっと継続している。例えば、東芝の一部は昔は松田ランプという電灯を作る会社だったが、もはや電灯の事業は東芝にとってはあまり大きくない。製造業というのは物を作って儲けてれば何を作っててもまああまり問題はないのである。

事務職は会社の中の公務員

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