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ボール

小学校入る前と後のお話である。

かあちゃんは、
いつも家に私を閉じ込めていた。

たまに、買い物やかあちゃんと、
一緒にいる時は外に出れた。

それ以外は、
家でひたすら掃除、洗濯、洗い物、
風呂そうじ等、
家事をこなし、他の時間は
ドリルで言葉の読み書きや、
算数の足し算引き算をしていた。

ある日、かあちゃんと一緒に
公園を通った。

そこには、遊具がたくさんあり、
みんな楽しそうに遊んでいた。

かあちゃんをチラッと見る。
かあちゃんは何も言わずに、
そのまま公園を通り過ぎてしまった。

かあちゃんは、小学校入ったら、
好きに外で遊んでいいと言っていた。

だから、まだ公園では遊べない。

わかっていたけど…。
どうしても公園に行きたい…。
あの遊具で遊びたい…。

家事もドリルもおろそかになってた。

いつの間にかかあちゃんが、
仕事から帰ってくる時間になっている。

かあちゃんは、
すごく勘が鋭い。
帰ってくると、まわりを見渡し、
そして、ドリルもチェックされる。

かあちゃんはゆっくりこっちにくると、
私の髪を引っ張り上げ、

お前…何してた?
何か隠してるだろ。
あの公園か?
お前あの時、公園見つけて、
行きたそうにしてたもんな。
だから、こんなザマなのか?

…当たってる。
かあちゃんには、
何か能力があるのか?
なんで、わかんだよ…。

ごめんなさい…
明日はちゃんとする。

そう言うと、
かあちゃんは急に抱きしめてきた。

お前がいなくなるのが怖いんだよ。
かあちゃんもわかってるんだよ。
お前は、遊びたいだろうって。
でもね、お前を一人前にするって、
かあちゃんは必死なんだよ。
小学校入っても、
お前がいじめられない様に、
きちんとしておきたかったんだ。
だけど…かあちゃんはバカだね。
自分の事ばかり考えて…。

ごめんよ…明日一緒に公園に行こう。

かあちゃんがそんな事を
言うなんて思いもよらなかった。

喜びを隠せなくて、
やったー!とはしゃいでしまった。

かあちゃんは、
ほれ、さっさとドリルやれ!
と笑いながら頭をパンっと叩く。

初めての公園…。
思いっきり走った事なんてなかった。

かあちゃんは、
よその子が遊んでる所、
じゃますんじゃないよ!
きちんと順番待つんだ!
遊びたいなら、
ちゃんとしたルールを守るんだよ!

と興奮している私にそう教える。

わかったよ、早く行っていい?

とはしゃいで遊んだ。
ちゃんと順番も守ったし、
他の子のジャマはしなかった。

一通り遊んで、
ふと、かあちゃんを見る。

かあちゃんはまぶしそうに目を細め、
心配そうに私を見つめていた。

なんだか、
だんだん面白くなくなってた。

走って、かあちゃんの所に行く、
そこに他の子が、遊んでいたボールが、
私の足にぶつかる。
思いっきり転んで顔面を強打した。

少し間を置き、痛くて泣いた。

かあちゃんは、すぐ駆けつけ、
私を抱き、砂やじゃりを落とす。

鼻血を出して、
泣いている私を見つめて、
おい!泣くな!
お前の不注意だぞ!
ちゃんとじゃましないと約束しただろ!
と叱る。

そして、ボールを投げた子に、
おい!そこのお前!
何つったってんだよ!
こっちは怪我してんだ!
まずは、すぐ謝るのべきだ!
こっちこい!
ちゃんとごめんなさいと謝れ!

その子は、
泣きそうになりながら、
こっちに来て、
ご…ごめん…なさい…。
と謝ってくれた。

そこで泣いてたらダメだと思い。
私は泣きやみ、その子に、
オイラも…ごめんなさい…。
とあやまった。

かあちゃんは、
私とその子の頭を撫でて、
そうだ!
お前らはえらいな!
ちゃんと仲直りできただろ?
これからは気をつけるんだよ。

と私を抱いて家に帰った。

鼻血は止まってたが、
ジャリで頬に擦り傷ができていた。

かあちゃんは、
赤チンをポンポンと、塗ってくれた。

ほっぺたが赤くなってるのが、
かあちゃんは面白いらしく、
ゲラゲラと笑っていた。

それから、
ボール恐怖症になった…。
小学校入ってもボール遊びが出来ない…。

かあちゃんには、
恥ずかしくて言えなかった。

だが、ある日
かあちゃんがボールを買ってきた。
ゴムで出来てる柔らかいボール。

なぜだ…
かあちゃんはやっぱり何か能力を
持ってるに違いない。

多分だが、近所の人に言われたのだろ。
あんたん所、
ボール怖がってるらしいじゃないか。
とかなんか言われて。

それから、かあちゃんは、
仕事から帰ってきたら、笑って
不意をつき、ボールを投げてくる。

とっさに頭を抱えて怯える。

その繰り返しを毎日していると、
いつの間にか、
ボールが怖くなくなっていた。

いつも警戒してたせいか、
かあちゃんのボールを投げる
タイミングがわかったのもある。

だが、かあちゃんが楽しそうに、
ボールを投げてくるから、
こっちも楽しくなってたのだ。

かあちゃんのおかげで、
ボール遊びが出来るようになった。

かあちゃんは、
やっぱり何か能力があるだ。
と確信したのである。


かあちゃんの作戦に、
まんまとはまったおバカな私であった。

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