アニー。
これは、かあちゃんのお話。
少し長くなってしまいました…。
すみません…。
かあちゃんは、耳が聞こえない。
17歳で私を産んで、誰にも頼らず、
一人で、私を育ててくれていた。
その為か、私が幼少期の頃は、
ずっと、髪の毛が伸びて長かった。
ある日、私が小学2年生くらいの時、
かあちゃんが、変な髪に、なって帰ってきた。
途中まで、髪はバッサリ切られてて、
後はそのまま、長い髪の毛をしていた。
うわー!かあちゃん!なんだよ!
びっくりした!その髪どうしたの?
かあちゃんは、どうやら怒ってる。
お前まで、かあちゃんの事バカにして!
もぉー!いい加減にしておくれ!
あたいは、腹が立ってるんだ!
と、かあちゃんは、ハサミを持ち出し、
伸ばしていた髪を無造作に切っていた。
かあちゃんは泣いていた。
切った髪の毛が、かあちゃんの顔まわりに、
張りついて、かあちゃんの顔が髪で覆われた。
私は、
かあちゃん!どうしたの?
何かあったの?
ごめんよ…バカにはしてないよ!
と言うと、かあちゃんは、
勇気出して行ったのに!
髪の毛を切ってもらいに、
近くの理容店に行ったんだ!
それなのに…勝手にこんなみったくないの!
ムカついて、そのまま帰ってきたんだ!
何なんだい!バカにして!
あたいの言葉がわからないのか!
あー腹立ってしょうがないよ!
と泣き叫びながら、
暴れて、髪の毛を振り乱しながら、
まわりの物にひたすら八つ当たりしていた。
どうしよ…うーん…うーんと…あっ!
かあちゃん!
オイラが髪の毛切ってあげる!
ハサミ貸して!お風呂場で切ろう!
かあちゃんも髪の毛チクチクして嫌でしょ?
切ったらすぐに水ぶっかけたらいいんだよ!
それに切った髪の毛、たくさんあるし…。
それを、掃除するの大変だからさ!
と言うと、
暴れまくって、疲れてぐったりしている、
かあちゃんを、風呂場に無理矢理、
引っ張って、連れていった。
ハサミで、試行錯誤しながら、髪の毛を、
長めの、ショートカットに、していった。
失敗は許されない…。
なんとか、終わって、かあちゃんの、
頭から、水を何度もぶっかけて、
かあちゃんの悲鳴が風呂場に響いていた。
かあちゃん、元気になった!
かあちゃんの、髪をタオルでぐしゃぐしゃと、
水気を、取って、髪の毛を整えてあげる。
かあちゃん!出来たよ!
かあちゃん、すごくかわいいよ!
かあちゃんは、美人さんだね!
と、鏡を見せる。
かあちゃんは、
補聴器を、耳に付けて、鏡をのぞいた。
お前…天才だね!
へーいいじゃないか!
うん!気に入ったよ!
ありがとね…かあちゃん嬉しいよ!
お前、すごいよ!
と少女の様な笑顔で鏡を見つめていた。
それから、かあちゃんが亡くなるまで、
私が、かあちゃんの髪の毛を切る事になる。
かあちゃんのリクエストに近くする為、
だんだん、髪の毛を切るのがうまくなった。
白髪染めや、カラーリングも不器用な、
かあちゃんの為に色々とやっていたのだ。
そのたびに、かあちゃんは、
少女の様な笑顔で、鏡を見ているのだ。
私が社会人になって、突然、
パーマに挑戦したい!と言うかあちゃん。
仕方なしに、あの時、かあちゃんが、
怒って帰って泣いた思い出の理容室に行く。
ドアを開けて、
あの…その…パーマ…自分でやりたいんです。
でも…さっぱりやり方がわからないんです…。
どうやってやるですか?と聞いた。
ちょうど、私の髪が少しのびていた。
その理容師のおばさんは、まずは、
私を席に案内して、道具を見せてくれて、
いきなり、髪の毛を霧吹きで濡らされた。
すると、
こうやって、こうして、巻いて留めて、
それを、いくつも、作っていくんだ!
理容師は、私の髪を、なぜか巻き始める。
えっ!もしかして今パーマかけられてる?
あれ?オレじゃない…かあちゃんなのだが…。
でも…教えてくれているし…。
とりあえず身をまかせよう。
恥ずかしくて、目の前の鏡が見れない…。
とにかく、
鏡越しの理容師のおばちゃんの手を見て、
パーマのかけ方を覚える…ふむふむ。
そして、タオルを使って、パーマ液が、
垂れたり流れ漏れない様にして、
へんな機械の所に連れてかれた…。
ぐるぐると温かいものが頭に当たっていた。
なんだ!これ!すげー!
こんなの、家にないぞ。どーすんだ?
うむ…うーん…ま、いいか。
そして、一旦巻いたままの髪を、
お湯で流されて、また違うパーマ液をかけて、
ぐるぐるに連れてかれた様な…曖昧な記憶。
しばらくすると、やっと巻かれた道具を、
取り、髪の毛を洗ってもらった。
そしたら、えっ!くりん、くるりん!
としたクルクルした髪の毛になっていた。
これが…パーマってヤツか…。
うわーうねうねしてる…やだ!
明日、会社行くの恥ずかしい…!
絶対、みんなにバカにされるんだ!
でも…しょーがない!
開き直ろう!うん!そうしよう!
急に天然パーマになったと言おう!
とりあえず、理容師さんから、
なんとなく、やり方を教えてもらって、
その道具と、パーマ液を取り寄せてもらい、
後日、取りに行った。
理容師さんが、
初めてパーマかけるなら、時間を、
多めにかけた方がいいし、もしかしたら、
うまくパーマがかからないかもしれないよ?
でも、強めのパーマ液だから、
多少は、パーマがかかると思うけど…。
と助言をいただきました。
その趣旨を、かあちゃんに伝えたが、
かあちゃんは、私のパーマの髪を、
見て、触って、ケラケラと笑うのである。
そしたら、ウキウキしながら、
もーわかったから、早くしておくれ!
とやる気満々で、イスに座る。
やった事もないのに、いきなり本番かよ…。
あの時の理容師さんを思い出して…
あっ!かあちゃん!髪の毛濡らしてきて!
霧吹きを買うのを忘れてしまった…。
かあちゃんは、急いで台所で髪の毛を、
びしょびしょに濡らしてきた。
その髪の毛をくしで、慎重に、
すくって、薄い紙みたいなのに挟み、
ロッドと言う巻く棒に髪を巻き巻きして、
さいごに、輪ゴムで止めていくのだ。
それを、列ごとに分けて、巻いていく。
事前にタオルをかあちゃんに持ってもらい、
第一弾のパーマ液をかけていく。
あの、ぐるぐるの機械がないので、
かあちゃんに、買い物袋を被せ、
ドライヤーで、ぐるぐる熱を当てた。
かあちゃんが、
買い物袋をかぶっている、その姿が、
面白くて、なんだか愛おしくてニヤついた。
それから、かなり時間をかけて、
一旦、風呂場に連れて行き、
先程のパーマ液を軽くお湯で流すのだ。
そして、第二弾のパーマ液をかけていく。
そんで、また買い物袋かぶせた。
ドライヤーは腕がもう疲れたのでしなかった。
かあちゃんは、買い物袋を、
被りながら、真剣に本を読んでいる。
滑稽なその姿が、可愛く思ってしまう…。
思わず笑を、
こぼしそうなのを必死におさえた。
はて、さて、そろそろ…取りますか…。
パーマの道具を取り外して、
かあちゃんに、髪の毛洗ってきて!
と伝えた…。
さぁ…かあちゃんの反応はいかに…。
バスタオルで、ごしごしと髪を拭いて、
あげて、ドライヤーをかけてあげた。
かあちゃんの仕上がりを見る。
かあちゃん…これは…アフロ…だ。
アニーだ!トゥモーローだ!
これ…パーマかかりすぎてしまった…。
理容師さんのバカ…。
多分、かあちゃんの髪の毛は、
カラーリングや安いシャンプーで、
傷んでいたんだろう…普通にパーマかかった。
そうとは、知らない、かあちゃん。
ニコニコで、鏡を見た。
すると、以外にも、
かあちゃんは、嬉しそうなのだ。
右側、左側、遠めと、まじまじと、
鏡を見ては、少女の様に笑顔で笑っていた。
これが、パーマなんだね…。
髪の毛が…増えたみたいに見える!
不思議だね…すごいね…面白いね!
と上機嫌で、気に入ったみたいだ。
私は、複雑な心境…だってアニーだもん!
かあちゃん…本当にそれでいいの?
かあちゃんは、
何言ってんだい!もちろんだよ!
お前は、やっぱりすごいねー!
まっすぐな髪がこんなにクルクルに、
なるなんて…すごいよ!
かあちゃん、美人さんになっただろ?
私は意外な反応に戸惑いながら、
喜んでくれて、うれしいよ!
そうだね、美人さんだね!
すごく、可愛くなったよ!
かあちゃんは何かを察した。
お前!もっと自分に自信もちな!
やった事もないのに、
あたいの為に、頑張って、
パーマを、かけてくれたじゃないか!
かあちゃんは、嬉しいよ!
すごく、ものすごーく感動したよ…。
今まで、耳が聞こえないから、
パーマにするの諦めていたんだよ。
でも…夢が叶ったんだ。
お前のおかげだよ…ありがとうね。
はじめはアフロだったが、
次に会う時は、パーマは落ち着いていた。
それから、かあちゃんの髪は、
切る、染める、の次にパーマが追加された…。
とりあえず、忘れない様に、
メモしとかないとな…。
私は、
ややしばらくパーマ姿で過ごす。
朝の爆発頭を、どうにかするのに、
時間を取られて、もう限界だった…。
あの理容店の隣にある、
床屋に行って、短めにカットしてもらった。
髪を切ったり、染めたり、パーマにしたり、
する度に、かあちゃんの変化を思い知る。
白髪が増えたな…とか、
髪の毛薄くなったな…とか、
髪の毛が細くなってきたな…とか。
私がくしを通すと、かあちゃんは、
とても嬉しそうに、動かない様に、
まっすぐ前を見て、ニコニコ笑顔になっていた。
かあちゃんはいつも喜んでくれた。
パーマも、だんだんコツを、つかんで、
綺麗なウェーブヘアーになる様になった。
そう言えば、いつも、かあちゃんは、
自分の事は、後回しにしていたっけ。
かあちゃんの為に、少しでも、
おしゃれな髪型に、してあげたくて、
真剣に出来上がりを想像しながら、
毎回、試行錯誤しながら仕上げていた。
いつも、最後に鏡を見るかあちゃんは、
少女の様に、目を輝かして、可愛らしく、
笑顔で、幸せそうだった。
17歳で、私を産んで、一人で育てて、
一生懸命で、必死だった、かあちゃん。
1番おしゃれしたかった年頃だったはず。
まわりの同年代は、おしゃれして楽しんでる。
羨ましいと思うはずだし、
自分が惨めだったのかもしれない。
もっと、かあちゃんの為に、
おしゃれな服やアクセサリーを、
買ってあげれば、良かったと後悔してしまう。
あの、鏡を見る、
かあちゃんの可愛らしい笑顔は、
17歳の少女のままで止まっている様だった。
私が、かあちゃんの髪を切ったり、
染めたり、パーマを、かける度に、
かあちゃんは、少女に戻るのだ。
せめて、髪型だけでも、楽しんで、
おしゃれになって、喜んで欲しかった。
毎回、歳を重ねた、かあちゃんを、
魔法の様に、少女に戻してあげる事しか、
私には、出来なかった。
ごめんな、かあちゃん。
でも、少女の様な可愛らしい笑顔が、
見れて、オレはとても、幸せだったよ。
かあちゃんの髪の毛の感触は今も忘れない。
かあちゃんが亡くなる前に、
キレイに染めてパーマもかけてあげれて、
良かった…天国で自慢してくれてるかな。
入院生活が長くなった。
鏡を見ると、かあちゃんの面影が見える。
髪の毛が伸びたせいもあるだろう。
ゴムで結べるぐらい伸びた。
退院したら、自分でパーマかけてみよう。
アニーにならない様に注意しないとな…。
もし、アニーになったら、かあちゃん、
天国で、あの可愛らしい笑顔で笑ってくれ。
トゥモーロー、明日は幸せ…。
改めて聴くといい曲だな…。