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代償。

これは、高校2年生の時の若気の至りである。

同じクラスに、
おとなしく真面目な、ジュンコがいた。

影が薄く、誰もが、
あー、そんな子いるな…と思うぐらい。

そんな、ジュンコが突然変わったのだ。

服装も派手になり、化粧をしだし、
明らかに、グレ始めたのだ。

ひねくれ者の私は、
そんなジュンコに何があったのか、
疑問に思い、直接話を聞こう!なんて、
思っちゃって、ジュンコに話しかけてみた。

どうやら、
初めて付き合った彼氏の影響らしいのだ。

まぁ、彼色に染まった訳だな。

ジュンコは段々と奇行に走っていく。
あんなに、おとなしかったジュンコ。
彼氏の影響でそこまで変わるなんて…。

ある日の事、
ジュンコの彼氏が薬物所持で捕まった。

もちろん、
薬物検査をして、彼氏はヤク中であった。

身辺検査の為、ジュンコが呼び出された。
そこで、知ったのは、ジュンコもヤク中であり、
その彼氏は、妻子のいる既婚者であった。

もちろん、すぐにジュンコは服役して、
彼氏の奥さんから慰謝料を請求された。

人が、ここまで転落人生を歩むのを、
目の当たりにし、ただ世の中の怖さを知った。

ジュンコが収容されている、鑑別所に、
訪問しに行った。

そこには、以前のおとなしかったジュンコが、
げっそりとやつれてそこに、座っていた。

ジュンコは泣き出しながら、
反省の言葉ばかり、話していた。

ジュンコは、家庭事情を語った。

ジュンコは小学校に入って両親が離婚。
しばらく、母子家庭だったが、母親は、
家を空ける事が多くなり、しまいに、
ジュンコが、中学に入ると母親は再婚して、
知らないおじさんの家に連れてかれたと言う。

その、再婚相手と、多感な時期なジュンコは、
折り合いが合わず、言い争いが日常的にあった。

母親は、再婚相手の味方につき、
ジュンコは、寂しさと、孤独を味わっていた。

そこに、現れたのが、あの彼氏であった。
彼氏がいると、何もかも忘れられるし、
生きるのが楽しかったとジュンコは言う。

ジュンコの親は、一度も来てないし、
もう見放されたとジュンコは、笑う。

親からしたら、
娘がヤク中で、しかも不倫していて、
相手から慰謝料まで請求されているのだ。

もともと、折り合いが合わずにいたし、
ジュンコを毛嫌いしていて邪魔だった。

もう、ジュンコとは距離をとりたいのだろう。

ジュンコは、
きちんと服役して、慰謝料も分割で支払って、
彼氏とも、もう会わないと誓っていた。

ジュンコの事は、学校中の噂になっていて、
誰もが知っていた。

私は…悩んでいた。
ジュンコが悪いのか…どうなのか…。
わからなくなっていた。

ただ、環境がジュンコを狂わせていただけで、
ジュンコは加害者ではなく、被害者なのでは、
ないかと、そう思えるのだ。

確かに、薬物に手を染めるのは、悪い。
だがしかし、そうさせてしまったのは、
決して、ジュンコが悪い訳ではない様な、
そんな気がしてならなかった。

私は、学校で何も事情も知らないくせに、
ジュンコの悪口を言う奴らに、違和感を
すごく感じて、胸が苦しくなった。

とりあえず…出来る事を考えた。

偽善者だと言われようが、構わない。

私は、貯金箱を買って、
ジュンコの慰謝料のカンパをつどった。

先生達にも、頭を下げてお願いした。

だが…ほとんど、集まらなかった…。

世間の風は冷たいな…。

自業自得でしょ?

なんて言われたら、何も言えない。

とりあえず、ジュンコが服役を終えて、
鑑別所から出てくるのを待った。

それまで、私の働いていたお金から、
少しづつ、カンパのお金を貯金箱に入れた。

みんなが、ジュンコの話題すらしなくなった頃、
ジュンコは、ひっそりと服役を終えて、
保護観察の中、更生施設に入ったと聞いた。

私は、カンパと言う名の、
私の貯金箱を持って、ジュンコに会いに行った。

前回よりも、顔色は良く少し元気になっていた。

ジュンコに、貯金箱を渡した。

私は、
これは、オレのおせっかいだ!
だからジュンコは気にするな!
慰謝料返すの大変だろ?
いつ仕事出来るかもわからないし…。

提示された金額には、届いてないと思うけど、
少しでも慰謝料の、足しになれればと思って!

ジュンコ、お前はいくらでもやり直せる!
大丈夫だ!だから、これから何かあったら、
オレを頼ってこい!お前の味方だからな!

そう告げると、ジュンコは泣いていた。

お前は、すごいよ、人よりも沢山苦労してる。
重い十字架を担いで生きているんだから。

大丈夫だ!
お前を理解してくれる人は、
世の中にたくさんいるはずだし、
お前は、決して一人じゃないんだ!

な!だから、頑張れとは言わないが、
こんなオレみたいな、バカなヤツがいるのを、
忘れないで欲しいし、この貯金箱は、
お前が自由に使ってくれていい。

ジュンコ、償い続けろ!
絶対に、それが報われる日が来るから!

ジュンコは、何も言わないが、
私の話をうん、うん、と泣きながら聞いていた。


あれから、十数年経ったある日。

ジュンコと偶然に会った。

ジュンコの手にしがみついている、
とても可愛らしい子供がいた。

ジュンコは、笑っている。

よく見ると、十字架を背負っていた背中には、
可愛い寝顔の赤子が安心そうに眠っていた。

多くは語らなかったが、
ジュンコの笑顔がとても幸せそうで、
こっちまで、笑ってしまった。

今はもっと、
薬物が手に入りやすい環境かもしれない。

薬物に手を染めるにも、色んな理由が、
あるのかもしれないし、ただの好奇心で、
始める人もいる。

そして、その薬物から脱出するのも、
人それぞれであり、またヤク中になる人も、
たくさんいるのだろう。

それに打ち勝ち、幸せを手に入れた、
ジュンコは、とても強い人だと思う。

あの時の、偽善者のおせっかいで、
偉そうに、ジュンコに語っていたが、
今、考えると、余計なお世話な話だったな…。

ジュンコよ、あの時のオレ、ウザかったよな。
ごめんよ…お前はすごい!尊敬するよ!

あー小心者のオレも、
少しはジュンコを見習わなければな…。

人は誰かと付き合うかで、人生が変わる。

人付き合いが嫌いな私は、変わらずに、
ひねくれ者の不器用な人間のままなのだ。

今からでも、遅くはないな。
ジュンコに偉そうに言った様に、
これから、いくらでもやり直せる!と、
そう自分に言い聞かせてみようではないか。


何から始めよう…人付き合い…ですよね。



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