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誰か知らない人

これは、下書きにずっと残っていた記事です。

何度も読み返して、ずっと、ずっと、
この出来事を、投稿するか迷ってました。

でも、もう…これを手放す事にしました!

どうしても、長くなってしまいました…。
どうか、どうか、お許し下さい。

ある日の事。
かあちゃんが、亡くなったのだ。
それは、なんの前触れもなく、
急な事で、突然すぎて、実感も何もなかった。

私は、母子家庭で、
かあちゃんは、耳が聞こえないので、
生活は、とても苦しく、とても貧乏だった。

かあちゃんが、生きていた時、
貧乏だけど、誰も来ないかもしれない。
けど、かあちゃんの葬式をあげてやると、
泣くのを必死に、我慢して約束したのだ。

約束通り、実家のボロアパートの近くの、
会館で、かあちゃんの葬式をした。

近所の人達がこぞって来てくれて感謝した。

そこで、知らなかった…事実を知る事になる。

それは、かあちゃんは、


私の知らない人を、養っていたのだ…。

思い返せば、かあちゃんは、
消費者金融から、多額の借金をしていた。

知ったのは、私が大人になってから、
掃除をしてたら、消費者金融の封筒を、
見つけたからだ。

私は、急いで過払金の手続きを、
司法書士にお願いしたのだ。

そこには、いくつもの消費者金融に、
お金を借りていて、弁護士までいくぐらい。

返ってきたお金の多さに、ただ、ただ、
すごく驚き、疑惑と疑問が私を悩ませた。

つまりだ。
それだけ、お金を借りていたという事。

だが、
かあちゃんは生活保護を受けていたし、
耳も聞こえないので、障害者年金も貰っていた。

それに加えて、
私もこっそり多めに仕送りをしていたのだ。

そんな借金するほど何に金を使ってたのか…?

当時は、
私にはまったくわからなかった。
かあちゃんに、聞いても、

お前を育てる為だった。

としか、かあちゃんは、言わない。

いやいや…もっと突っ込んで聞けばよかった…。

いまさら、そんな…事実知っちゃってさ…。

オレって、本当にバカだな…。

それでも、かあちゃんは絶対言わなかったな。

隠し通すと決めていたのだろう。

その養っていた人は、私より4歳年上らしい。

その人が、
かあちゃんの葬式に、
大声で暴れて、突然やって来たのだ。

これは、
後から近所の人から、聞いた話なのです。

その人は、実家の近くに住んでいたらしい。

その人が小学生の頃。

両親が突然帰って来なくなったらしい。

つまり…両親に捨てられたって事?

それから、何が縁なのかわからない…。

どうしてなのか?なぜなのか?

毎月、かあちゃんがその子の学費やら、
施設のお金やらを出していたのだった。

その人は、頭に障害を抱えていた。

誰にも頼れない、
まだ小学生の子を、かあちゃんは
施設に預け、色々と面倒をみていたのだ。

すんげーびっくりしちゃった…。

だってオレは、全然知らなかったんだもん…。

そんな事を知らなかったなんて…
オレは一体、なにしてたんだか…呆れた。

そんな時に、ふと思い出した事がある。

かあちゃんは、滅多に家に人を入れない。

だが一度だけ男の人を招いていたのだ。

だが、多分あの男の人が、
役所の人なのか、児童福祉の人なのか、
あの人の親戚の人か、わからないが、
それが関係していたのだ。

かあちゃんは、
私に男の人のたばこを買いに行かせた。

そうとも知らず、
幼いおバカな私は、そのお金で、駄菓子を、
沢山買ってしまい、タバコが買えなくなった。

かあちゃんに殺されると本気で思って、
かあちゃんが怖くて、帰れなかったのだが…。

その時に、私には知ってほしくない、
隠したかった話し合いが、その時に、
あったのではないかと、はっ!と気づいた。

その誰が知らない人の存在を知らない私。

葬式でかあちゃんの悪口を、
何度も大声でわめき散らしていた。

暴れて、恐怖すら感じた…。

誰ですか?…怖いんすけど…助けて下さい!

それを、近所の人達が、この恩知らずが!と
騒ぎ、その人の事を怒っていたのだ。

あれ…もしかして…
この人の事…みんな知ってるの?

なに?なに?何があったんだ?

急いで、近所の人に、
あの…どういう事ですか?
と聞いて初めてそれを知ってしまったのだ。

かあちゃんが近所中に、この事は、
私には内緒にして欲しいと、
言って回ってたそうだ。

あーなるほど…だから知らないわけだ…。

その人は、先ほどにも書いた様に、
とても気性の荒い人だった。

だから、
色んな所で金銭的に問題を起こしていた。

その度に、かあちゃんは保護者として、
責任をとっていたのだ。

そりゃ…金かかるわ…。
かあちゃんよ、やっとわかったよ。

借金してまで、誰だか知らない、
その人の為に、頭を下げてたんだな。

かあちゃんは、
私が過払金の手続きをして、
戻ってきたお金を私に預けた。

先程の約束。
身寄りのない、孤独なかあちゃん。

葬式と、かあちゃんの墓にと、
泣きながら私に、そのお金を預けてきた。

私は、かあちゃんとの約束の為、
いつかの時が来ないで欲しいと思いながら、
その通帳をお守りに、大切に保管していた。

そして、
多額の過払い金が戻った為、かあちゃんは、
必然的に、生活保護を受ける事が、
出来ないので、生活保護を打ち切られた。

かあちゃんの中で、
もう充分すぎる年月をかけて、
その人を、ずっと養ってきていたのだ。

やれやれ…かあちゃんたら…お人好し。
そんな事してたなんて…人が良すぎますよ。

多分、かあちゃんは、
その人の親戚か、どこかに、その人を任せて、
かあちゃんは、やっと保護者と言う、
存在から、身をひいたんだな。

小耳に挟んだ情報だと、
葬式で初めて会った、その人は、
多額の借金をしているらしい。

これまた誰か知らんヤツと、
借金がらみで養子縁組をしていたのだ。

マジで…この人ヤバいじゃん…。

よく、かあちゃんこんな人を、
養ってたな…なぜだ?

その人は、かあちゃんの葬式中。

暴れて、かあちゃんの悪口と、
これでもかってぐらい悪態をつけまくる。

近所の人達に、こっぴどく怒鳴られて、
どこかに、連れてかれて行ってしまった。

つまり、その人の言い分は、こうだ。

かあちゃんの遺影を見ながら、

おい!お前!ざまーみろ!いいきみだ!
今まで、いくらでも金をくれてたのに!

なのに、
突然、まったく金くれねーのな!
この薄情者!お前のせいだ!
そのせいで、借金したじゃねーか!

本当は、
お前と関わりたくなかったのにな!
突然現れやがって!すごく迷惑だったぞ!
最悪だった!あー死んでせいせいするわ!
くたばってくれてありがとうな!

恩着せがましい奴!大っ嫌いだった!
すんげーお前が、大っ嫌いだった!
ざまーみろ!お前が全部悪いんだ!

と大声で、ひたすら繰り返し叫んでいた。

おい、おい、かあちゃん、
何やってくれてんだよ…。

え?マジで?
こんなヤツの為に?
借金してまで金使ってたのかよ…。

いやいや…嘘だ…信じられない…。

その人は、私を見つけると、
ニヤニヤして近付いてきて、


息子さんですかー?どうも!いやいや!
この度は、とても残念でしたね!
あーざまーみろ!はいはい、可哀想ですねー!


と笑いながら、挑発する様に、言ってきたのだ。

まだ状況をあまり理解出来てなかった私は、

そう言われても、


あの…すんません…。
どこの誰かも知らない人に、
可哀想とか言われたくないんですけど…。


と軽くあしらった。

そして、
近所の人に連れてってもらった。

近所の人達にもっと詳しく聞いて、
色々と状況がだんだんと整理出来た。

あーやっと理解できた。

マジで、ビビったわ…。

まぁ…血の繋がらない兄弟みたいなもんか?

感動の出会いではなく、最悪な出会い…。

しかも、突然のお別れ…。

そりゃ、理解できないはずですよね…。

まったくもー。驚いたじゃないか!

かあちゃんは情の深い所があるのだ。

近所で、そんな境遇の子供がいたら、
ほっとけなくて、手を差し伸べてしまった。

ただ、それだけなんだな!

かあちゃんは、
自分の事よりも、私の為にと頑張っていた。

ただ、それが、もう一人いたってわけだ!

かあちゃんよ…苦労したね…ホント。

ご苦労様…かあちゃん。

かあちゃんの遺品整理をしていたら、
紛れ込んでいた、いくつかの写真。

それは、
幼いあの人とかあちゃんの写真。
幼い私とかあちゃんの写真。

どれも、かあちゃんは、
私の大好きな笑顔で写っていた。

その他その人、関連の書類等が
隠す様にしまってあった。

おい、かあちゃん。
よく隠し通したな…すげーな!

遺品整理を近所の人達が手伝ってくれた。

近所の人達は、
かあちゃんが無謀な事を、しようと、
しているのを、みんな全力で反対していた。

だが、さすが、かあちゃんである。

泣きながら、なんでだい!可哀想じゃないか!
と暴れて、手に負えなかったそうですよ。

そして、かあちゃんは、近所の人達に、
私が悲しい思いをさせるからと、
私に秘密にして欲しいと言って回ったのだ。

そんな、悲しい思いなんてしないのにな…。
かあちゃんなりの、気遣いか、何かなのかな?

近所の人達に謝られたのだ。

もっと、強く反対すれば良かった。 

お前には、悪い事をしてしまった。 

でも、もう関係のない事だから…。

お前は気にするなよ。

言えなくてすまんな。

お前の為だと思って…言えなかった。

そう近所の人達は皆、
私に、そう言って謝ってくる。

私は…笑顔で、
かあちゃんの事だから…わかってます!

皆さんには、ご迷惑をかけてばかりで、
本当にすみませんでした…。

うーんと…正直な気持ちで言うと…。

ホント…かあちゃんらしいなって、思います!

かあちゃんは…やっぱり…かあちゃんでした!

と泣きながら、笑って、返事をした。

そう言うと、
近所の人達は、泣き笑いながら、
うん、うん、そうだな!その通りだ!
ホントだよ…お前のかあちゃんらしいな!
いつも迷惑ばかりかけやがって!

と亡き母を偲び、思い出していた。

不器用なかあちゃん。

でも、人一倍、人の気持ちがわかる人。

あの時、
孤独な子供を放って置けなかっただけだ。


すごく愛情深い、かあちゃん。

逃げた両親の代わりに、
愛情をかけてあげたかったんだろうな。

無償の愛って言葉がよく似合う人だ。

私は、誰か知らない人に寄り添っていた、
かあちゃんがとても誇らしく思う。

かあちゃん…借金までして、責任とってさ。
不器用にも、ほどがあるじゃないか?

それでも、誰か知らないあの人に、
かあちゃんなりの、愛情を示したんだよな。

わかるよ、かあちゃん。

その愛情が、誰か知らない、
あの人に、届いてはいなくても、
それでも、かあちゃんは諦めず、
捨てる事は、絶対にしたくなかったんだろ?

うん、うん、実にかあちゃんらしい!

かあちゃんの笑顔が浮かぶよ。

もうその人が大人になってても、
保護者として、誰か知らない、
あの人の為に、慈悲の気持ちを、
持って一生懸命に生きていたんだ…。

まいったよ…さすがだな…かあちゃん!

やっぱり、かあちゃんはすごいな!

オレ…そんなかあちゃんの子供で、
本当に、ほんとーに幸せ者だったんだな。

しみじみ思うよ。

かあちゃんさ、オレ知らないで、
かあちゃんがこんなに、頑張ってたんだって。

かあちゃんいなくなってから知ってさ…。

借金作ってんの知った時、
かあちゃんの事、責めてごめんな…。

ちょっと、疑ってたよ。
なんか怪しいもんに、
片足突っ込んでるじゃねーかって。

かあちゃん悲しかったよな…。
ごめんな…かあちゃん…。

オレは情けない!ホント、バカ息子だよ…。

なーんにも、知らないで、のほほんとしてた。

生きていくのにも、必死だったはずなのに、
オレを育てるのだって、大変だったはず…。

なのに、オレったら…バカだな!

世話焼きのかあちゃん。

オレはそんなかあちゃんで、救われたよ。

いつもケンカばかりするけど…。

かあちゃんが思ってた以上に、
愛情深い人だって、知れて、本当に嬉しいし、
かあちゃんに感謝してるよ。

ありがとうな!かあちゃん!

けど…ちょっと…知らなかったのは、
オレの事、もう少し頼って欲しかったよ…。

オレに苦労はかけたくなかったんだろう。
オレの事だ、かあちゃんの為なら、
どんな事でも、助けてやるってわかってる。

だから、かあちゃんは内緒にしたんだな。

えーっと、誰だか知らないあの人へ

かあちゃんが余計なおせっかいを、
おかけしてしまい、すみません。
それが、かあちゃんなんです…はい。

だけど、これだけは言わせて下さい。

あなたは幸せ者ですよ。

かあちゃんの愛情を与えてもらえて…。

いつかその事に、気づいてくれるといいな。

あのーお願いなんですけど…。
もし、また出会う事があれば、
かあちゃんの話を聞かせて欲しいです。

私、恥ずかしながら知らなかったんです。

悪口でもいいので、どんな事があったのか。
かあちゃんの話を教えて欲しいのです。

わたしの知らないかあちゃんを知りたい。

それまでどうか、お体に気をつけて下さいね。

いつか、会えるのを楽しみにしてます。

もし、会えなくても…。

本当にすみません…。
もし…私の葬式の時には…。
あの…絶対に来て暴れないで下さい!

密葬する予定ですが、もしも、
もしかして、その時が来たら…。

かあちゃんが悲しむ事はしないで、
あげてくれませんか?

どうか…よろしくお願いします…。


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