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「一季」ⅵ.秋は楽しげ

 認めたくない、滑り落ちていく自らのまぶたを。華麗なる流れを魅せる文化、文明、文学、映像、映画、音楽、音色を解きたいのに眠くなる。少しばかりひんやりとした布団へ入りたい欲求が高揚する。あのひんやり加減といったら至極至高である。文字と音声に包み込まれたいこの感情は邪悪な睡魔に勝てそうにないと悟り布団へ行く。しかし、入ってみるとこれまた意外にも眠れない。

 ふと、考えてみると今の私は自らのための時間と精神,金銭を再獲得したといえる。あの存在から解き放たれた瞬間から心身は新たな知識見分への純粋,純朴な欲求へ駆り立たれていた。今すぐにでも何かを吸収しなければならないとさえも切迫しつつ感じていた。そうだ、本を買いに行こう。映画を借りよう。音楽を聴こう。どこかへ出かけよう。心身のミクロレベルで、細胞が、神経か、血液が欲求への鼓動を高めていった。初めに足を運んだのは、『文喫』である。文喫は、平成最後の年末に六本木に開店した書店である。だが、ただの書店ではない。入場料千五百円を支払い入店する一風変わったお店である。入店すると煎茶と珈琲が飲み放題となり、お気に入りの席を見つけ店が閉まるまでのんびり本に恋することができるお店だ。お金を払って本を読むことに違和感を覚えつつこれも社会学習だと思い支払ったが、店を出るころには私の慧眼,審美眼に目通り叶った本が何冊か脇に抱えられていた。三冊で三七五十円、少しばかり高い買物であったが効用は高い。次は『アマゾン・プライム』の会員になった。映画が視聴できる課金システムだ。スマートフォン、タブレット、パソコンにインストールした。片っ端から目に映ったものを押し、見続けた。涙腺を刺激するもの、腹の底から笑いをこみ上げさせるもの、シュールなもの、考えさせられるもの、関心を寄せたもの。どれもこれも自分にとって良いものであり、ジャンルといった枠組みで細分化することはナンセンスとさせ感じた。また、『Google Play Music』もインストールした。これに関しては言うまでもない。最高だ。ありがとうアルファベット。

 あの存在が私の目前から消滅したあの日から、人が生み出した何かに浸り続けられる秋は楽しげな雰囲気を醸し出す。


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