思い出したくない、憧れの人

今日も無駄に過ごしたなぁと目を閉じるとき。
やるべきことをほっぽり出して、「暇だ」とネットをあさるとき。
やりたいことを成功させた人を見ているとき。
心臓がざらつく瞬間に、よく思い出す人がいる。
思い出すけれど、顔も名前も曖昧な、中学時代の部活の先輩。

今では出不精のわたしだが、中学時代はソフトボール部に所属していた。
センターから「キャッチャー兼控えピッチャ―」になって、最終的には「ショート兼控えキャッチャー兼控えピッチャー」になった。よくわからない。
背番号は「10」。キャプテンだった。えっへん。なんて。

ちょっと話がそれた。先輩の話だ。
先輩は10人の3年生と10人の1年生に挟まれた１人の２年生だった。
残念ながらそんなに上手くなかったので、すぐに１年生にレギュラーを奪われた。
3年生引退のとき、先輩はキャプテンになるのを泣いていやがった。
が、3年生と数分話し込んだら、泣きながら「キャプテンやります」と言った。

はっきり覚えていないけれど、このキャプテンは夏まで続かなかったように思う。
気付いたときには、先輩は部活にこなくなっていた。
わたしを含む生意気な１年生たちに嫌気がさしたのかもしれない。
で、キャプテン役を仰せつかったのがわたしである。

自慢だがわたしは学年で特に上手い３人の１人だった。悲しいことに、その中では３位。
一番真剣だったからこそほかの部員とうまくいかなかったピッチャーと、
練習試合すらさぼろうとするキャッチャーが１位2位だったので、
消去法のキャプテンだったと今でも思っている。

そんな気持ちがあるものだからわたしの仕事ぶりは雑で、
ある日キャプテン会議への出席を忘れていた。
忘れたことにも気付かず練習をしていたところに現れたのが、先輩である。

数カ月ぶりの部活に、先輩は制服姿でやってきた。
コーチの「あいつなんでいるんだ」というナイフのような言葉もなんのその。
わたしにキャプテン会議の内容を伝えて、校舎へ戻っていった。
先輩は、自分がキャプテンでなくなったことすら知らずに、職務を全うした。
そう気づいたときの、あの泣きそうな気持ち。

ソフトボールが下手で、部活にこない先輩をどこかでバカにしていた。
そのくせ会議への参加すら忘れる自分が情けなくて、恥ずかしくて。
強烈に先輩に憧れた。
今でも、思い出すと涙が出るくらい。
先輩はいろんな部分で弱かったけど、逃げ出さない強さをちゃんと持っていた。

わたしは今でも逃げてばかりで、記憶の中の先輩に劣等感で押しつぶされている。
先輩のことを穏やかに思い出せる日は来るだろうか。
笑顔で語れるように、なれていたら良いのに。