行ってきますを言えない日
ごく稀にですが、息子を起こさずに出勤することができる日があります。
いつもは僕より早く起きて遊べと要求してくる息子ですが、前日いっぱい遊んで眠いのか。
はたまた夜の睡眠の質がイマイチ良くなかったのかは分かりませんが。
普段は寝室のドアの音どころか、僕が掛け布団をめくる布ずれの音ですら目を覚まして
「ボクも起きますけど?」
みたいな顔をするのです。
息子が出勤準備の時間帯に寝てくれていると、僕の準備はスムーズに進むので大変ありがたいのです。
ですが、いつもは起きて足下をうろうろしているチビちゃんがいないと少し寂しくもあります。
そんな訳で息子が寝ている日はいつもより10分近く時間に余裕ができるのです。
常に仕事行きたくなさを抑えながら準備している身としては、朝の10分で削られる体力とメンタルはとても大きいです。
その間も息子は大人しく世話されている訳ではなく、悪戯したりするのですから。
それを叱って息子が泣いたり悲しそうにしてしまうと、取り返す時間はありません。
仕事への出発時間が待っていますので。
しかし、10分の余裕が出来たところで何をするでも無く。
仕事行きたくねー、と思いながら過ごすので何だったら多少バタバタしてしまっても起きて一緒にいられる時間を取る方が有益な気もします。
とはいえ
せっかく寝ている息子を起こすのは息子にもお母さんにも悪いな。
とも思うので。
出発時間に声をかけはしますがなるべーく静かに。
起きなくていいぞー、と思いながら行います。
静かにドアを開け
小声で行ってきます
また静かにドアを閉める。
そして寂しく仕事に向かう訳です。
この様にちゃんと行ってきますを言えない日もあるのですが、そういう日はとても気分が沈むというか、不安になるのです。
極端な話ですが、突然事故に巻き込まれて僕が死んでしまうとします。
そうすると最後に僕が見る家族の姿は寝ている姿になるのです。
こんな風に考えるのも良くないことですが
お別れはちゃんと言いたいな、と思うのです。
いつも朝送り出してくれる息子のバイバイを見たかったな、と思うことでしょう。
不安ばかり抱えていては日常生活を送ることもできませんが、家族が出来て息子が生まれてから毎日のように僕は死の恐怖に怯えているのです。
せめて息子が成人するまでは
せめて息子が物心ついて心の整理ができるまでは
せめて息子が僕のことを覚えていてくれる年齢までは
せめてお母さんが息子と2人になっても生きていけるくらいまでは
少しずつハードルが下がりますが、日々のふとした瞬間に思うのです。
そのふとした瞬間というのは
息子が寝るまでに家に帰れない日だったり
悲しいニュースを見た時だったり
仕事で車を運転している時だったり
「行ってきます」とちゃんと言えない日だったり
きっと後悔しちゃうんだろうなぁ。
と思いながら
それはそれとして働かないと別の意味で生きていけないので。
そんな事を考えながら
行ってきます言えなかったなー
と静かにドアを閉め仕事に行く。
そんなお父さんのお話。
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