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母の短歌 抱きたる赤児と共に頭下げ

 抱きたる赤児と共に頭下げ
 初めましてと亡父に告げぬ

まだ首のすわらない子を連れて、母のところに行った。母は、孫を抱いて早速、仏壇前に行き、父の前に座った。その時のことをこう歌に詠んで残してくれた。

「お父さんが生きていたら喜んだね」と母が言っていた。姉の子が生まれたときに、ひと際、喜んでいた父。もともと子ども好きだった。甥が生まれてから姉夫婦と奥多摩の渓谷に行ったときに、父がすごく喜んでいたことを後で母から聞いた。「お父さんがすごく喜んでね」と言っていた。「お父さんが生きていたら、さぞ喜んだろうね」と言ったのも、そんな父のことを思ってのことだろう。

人間は、生きているとうれしいことが何度かある。進学したとき、就職したとき、結婚したとき、子が生まれたとき等に幸せな気分になる。とりわけ出生は、人間に希望を与えるのか一層うれしいものだ。仏壇の前に父の御霊がいて、母がいて、子がいて、妻がいて、そして私がいる。家族がそろって、ひとときの幸せを感じる。

時はあっと言う間に流れて行った。私もその時の母の歳に近づいた。

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