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第十五夜


 こんな夢を観た。

 道を歩いていると、おばさまにお合いした。
 「おはようございます」と挨拶をしようとしたものの、どうしても、咽喉が震えなかった。林檎のひと欠けが刺さったように、じくじくと傷んでいた。わたしは首を傾げながら、おばさまへ視線を向ける。おばさまはわたしに目もくれず、教会からいらしたシスターさまを見付けると、心底うれしそうに、意地悪くわらった。
 おばさまは、他人の庭先から、洗濯傘に干してあった白いタオルを奪い取ると、そのまま頭のうえに掛けた。架からないはずの十字を馬鹿にしたように、指さきを組むと、Aからはじまる声を出して、にせもののアヴェ・マリアを歌い出した。ずいぶんと醜悪な歌声だった。


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