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香食(こうじき)ってとても大事なんだ!

気が付けば、すっかり秋めいてきました。
ちょっと前まで騒いでいた公園のセミたちも、もうすっかり何処かに引っ越してしまったようだ。住人はスズムシたちに変わり、休む間もなく各々の羽音を重ねて演奏している。


キリキリキリ ギーギーッ


束の間の3連休、分かっていたけど、やっぱりあっという間。
夏を楽しみにしていたセミたちと、今の僕の気持ちが重なっている。
そろそろ単身赴任先のマンションへ戻る時間。
ウルトラマンのカラータイマーが灯り始めた。そんな憂鬱な気分です。


彼岸の入りということもあり、親父と息子たちが眠る公園(墓地)に出かけた。ほんの1ヶ月前のお盆に来たばかりだというのに、随分久々のような気がする。たぶん季節が変わったからだろう。


お盆に飾った華やかな花が枯れていた。
お墓の花が枯れていると、なんだか寂しい気分になってしまいますね。


「親父、新しい花を持ってきたからな」
枯れた花が嫌いだった親父に軽く詫びを入れて、買って来たばかりの生花を綺麗に洗った花筒に差し込んだ。


「面倒だなぁ、いっそのこと造花にしちゃおうか」
そう呟いたら、意外にも横でお墓の掃除を手伝っていた息子が呟き返す。
振り返ると妻と目が合い、なんだか不思議な笑いが込み上げて来ました。


周りのお墓に目線を移すと、意外にも生花を使わず造花で対応しているお墓が多い。確かに楽だし衛生的でもある。


でも、なんとなく抵抗があるのです。
子供の頃から「香食(こうじき)」を教わってきたからだろう。
亡くなった人はお線香の香りを食すると言う意味です。
だから、おばあちゃんや御袋は絶対に造花を使わなかったのです。


故人は「香りを楽しむ」はずなので(そう信じている)、造花では楽しみを叶えてあげられない。食欲の秋なのに、匂いすら楽しめないなんて可哀想。
きっと、息子もそう考えたのでしょう。


最近の息子は滅多に僕らには付き合わなくなった。
でも、盆と正月、彼岸の時期のお墓参りだけは例外なのです。
大学の講義以上に出席率が高い。


しっかりと時間をとって何か拝んでいる。
何を拝んでいるのか分からないが、誰よりも一番時間をかけて拝んでいる。
「爺ちゃん、新しいウルトラマンのおもちゃが欲しい、、、」
なんておねだりをしているとは思えない。
小さかった頃が懐かしい。


お墓参りを済ますと、気のせいか心が落ち着くのです。
この時ばかりは妻と意見が合うのです。


ん、待てよ。
お墓参りを済ませると、僕は単身赴任先へ戻ることが多い。
僕が戻れば、毎回妻は自由の身ではないか。


「亭主元気で留守が良い」
何処かで耳にした嫌なセリフが脳裏をかすめる。


自宅に戻ると、心もち妻の動きが軽快になっている。
勘違いなのか。


そんなはずはない。自信はないけど、そう信じたい。
そう言えば、お墓参りに来るだけなのに、妻と息子は軽く香水をつけていたな。僕への「香食」なのか。いや、そんなはずはない。僕は生きている。


そんなはずはない。
そんな訳ない。
考え過ぎだ。
冷静になれ、僕。


キリキリキリと胃が痛む。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
気持ちの良い秋を思いっきり堪能しましょう。🍁


ヘッダー画像はnoteクリエーターのみきあさん撮影


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