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この季節になると思い出す、少年時代の深刻な悩み

この季節になると思い出すことがあります


「運動会」


もうしばらく参加してないなぁ。息子が小学生の頃に参加したのが最後。
朝早くから場所取り争奪戦。大人の醜い運動会はもっぱら朝から始まるんだ。


僕が小学生の頃なので、今から40年も前の話です。
僕が通っていた田舎の小学校は、全校生徒が630人程の中規模の学校で、7つのエリアから集団登校していました。


運動会の時期になると、子供だけでなく大人の人も一緒になり、凄まじく盛り上がる企画があったのです。


「部落対抗リレー」


7つのエリアを学校では其々部落と称し、子供だけでなくエリアに住んでいる大人も参加できるリレー競争がありました。1年生から2年生、3年生とバトンが渡され、中学生、高校生、大学生、社会人と部落に住む住人の真剣勝負が繰り広げられる。


盛り上がらないはずがない。
お盆明けくらいから代表者を選出し、地区の運動場に集まってバトン渡しの練習をするのです。僕は足の速さしか取り柄が無かったので、1年生の頃から6年生になるまで毎年選出されていました。


この時は良かった。
問題に気づいたのは中学生になってからのこと。
「部落」ってなんだ。差別的な呼称ではないのか。


僕の中学校は地元の小学校が5校集まって構成されている町立中学でしたので、生徒たちは全員「部落」という言葉に違和感はない。


島崎藤村の『破戒』を読んで衝撃を受けたことがきっかけなのかも知れない。穢多(エタ)・非人の存在です。


『破戒』では、主人公の瀬川教師が、自分が穢多(エタ)出身であること、卑しい身分であることをひたすらに隠す様子が描かれています。父から「隠せ」という戒めを受けて育っているのです。



日本にも身分制度があり、穢多(エタ)・非人と呼ばれ蔑まれてきた過去がある。穢多の意味は分かりませんでしたが、非人は何となく理解できました。人に非らずですから。悲しいし許せない。当時中学生だった僕には相当なダメージがあったと思います。


部落対抗ってなんだろう。
賎民の集落なのか。そう思ったりもしました。
当時、担任の先生だけでなく、親父や御袋にも聞いてみた。


親父:「アホか、そんな訳ないやろ」
御袋:「聞いたことないねぇ」
担任:「そんなことが気になるのか、違うと思うよ」


皆、決まって否定している。
地元の公民会に通って、過去の歴史も確認してみたが、やはり賎民集落に関する記述は無かった。その頃から「部落」という言葉に敏感になっていたのかも知れない。だから、中学生になってからは「部落対抗リレー」に選出されても、何らかの理由をつけて全て断ってきたのです。


日本史において元来、大和民族の中でも中世から近世を通して存在した穢多・非人問題を処理するために明治政府は維新後の近代化改革の一つとして賤民制度を廃止し、他の身分と同じく「平民」に編入した(解放令)。しかし、戦前から部落差別解消のために尽力していた北原泰作によると、海外のスラム街のようなために旧穢多・非人居住地域の区別が目に付きやすかった関西では特に元の平民は旧穢多・非人と同一の身分とされることを嫌い、「新平民(しんへいみん)」と差別が起きた。

-ウィキペディア抜粋-


僕の地元は部落差別なんかされていない。
そう分かっていても、どうにも気持ちが晴れることがなかった。


僕には5歳年下の妹がいる。
妹も僕と同じく足の速さしか取り柄がなかったので、毎年「部落対抗リレー」へ選出されていた。僕が大学生になった頃、中学生だった妹は毎年このリレーに参加していたのです。


まだあるんだ。
そして、しばらく忘れていた。


2011年3月4日に第68回全国大会で部落解放同盟綱領なるものが発表され、下記のように部落民の定義がなされている。


「部落民とは、歴史的・社会的に形成された被差別部落に現在居住しているかあるいは過去に居住していたという事実などによって、部落差別をうける可能性をもつ人の総称である。被差別部落とは、身分・職業・居住が固定された前近代に穢多・非人などと呼称されたあらゆる被差別民の居住集落に歴史的根拠と関連をもつ現在の被差別地域である」と定義されている。

-部落解放同盟綱領抜粋-


これ以降、僕の地元では「部落対抗リレー」が無くなったらしい。
呼称が変わったのです。


「地区対抗リレー」


納得。
初めからこの呼称で開催してくれていれば良かったのに。
悩む必要なんて何処にもなかった。


通っていた東北の大学の友達に「部落」の話をしたことがある。
「全然普通だよ。俺の地元もそんな風に呼んでるよ」
なんでも、東日本の年配者は、日常的に差別の意味を持たない「集落」や「地区」などの用法で「部落」と呼んでいいると言う。


毎年この時期になると思い出す。
運動会と共に僕の記憶の中には「部落対抗リレー」が鮮明にある。
50歳を超えた今では、リレー候補者から縁遠くなってしまい、当然お声もかからない。でも、シニアリレーがあれば何としても出場してみたいな。


同級生が校長をしているらしい。
投書でもしてみるか。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
素敵な秋を思う存分堪能しましょう。🍁


素敵なヘッダー画像は、クリエーターみきあさんの撮影です


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